5-19 二日酔にはヒール
「さあ、続きを頼む」
小石への魔法付与に成功したカルテリコスは、その感覚を忘れないうちに、矢で試したくてたまらなかった。
夕飯をあっという間に掻き込んで、続きをやろうと催促する。
「ええ〜、ゆっくり食べさせてよ〜。お酒も呑みたいし〜」
ブーブー言うターロ。
その筈だ。
山岳民族の食生活は意外と豊かで、特に酒は色々な種類があった。
ビールのような酒精の弱い物もあったが、標高が高いため一年を通して寒いので、蒸留酒の方が人気があるらしい。
造り手によって違う香草等が入っていて独特の風味が面白い。
ターロたちのために昨日からどぶろくの様な酒も仕込んでくれている。
作った次の日が甘く、段々酸っぱく、そして最後は苦くなるという。
苦いのは苦いので好きな者もいるが、作りたての今がまさに呑み頃なのだ。
(さすがドワーフ。酒呑みの鏡だ)
そんなせっかくの機会なのに、カルテリコスは、
「食べながら、呑みながらでよいので頼む」
と、断れない剣幕。
(ええ〜、この酒達おいて外に行ったら最後、戻ってきたときには無くなっちゃってるんじゃない?)
という心配は無用だった。
山岳の民も続きをやりたいし、酒も呑みたい。
で、幸いあまり寒くない事もあり、外での宴会となった。
呑みながら魔法の練習。
小石に魔法を付与した瞬間に光ってしまったり、逆に地面に落ちても全く光らず、首を傾げながらその光らなかった小石を拾うと、そこで発動して、
「うわっ!」
と目をやられている者を見て、笑って、それを肴にまた呑む。
呑むと難しく考えなくなりかえって上手く行くようで、小石への付与は皆が出来るようになった。
カルテリコスとは違い弓矢を使わない山岳の民の次の段階はハルバードへの魔法付与。
流石に電撃や爆発を付与すると距離的に危険なので、ウェポン リーインフォースメントを覚えてもらう。
矢のようにあたった瞬間に発動させる必要はない為難易度が下がるのと、今までもごく弱い効果ではあるが無意識でやっていた事でもあるので、ほぼ全員が初回で成功。
魔法の基礎が身に付いた今、あっという間に出来るようになってハルバードで岩や丸太をスパスパ切る。
「な、なんだと、、、」
自分だけ取り残された気分になって焦るカルテリコス。
「タ、ターロ! すぐに出来るようになる魔法はないのか!?」
「、、、おい、カルテリコス。それは、ダメ人間の発想だよ、、、」
だが、カルテリコスも流石はペガサスに選ばれるだけのことはある。
冷静になって集中すると、ライトニングも直ぐに出来るようになり、小石を時間差で光らせる練習で感覚をつかんでおいた甲斐あってエンチャント ライトニングも無事、習得した。
「付与する魔法を変えれば、色々応用が効くよ。んん〜、よく考えたらこれ結構危険な魔法かもねぇ。あたるまで何が付与されているか分からないんじゃ防ぎようがないからさぁ」
と、ターロが酒をちびちびやりながら言う。
「そ、そうか、、、。 教わっといてなんだが、良かったのか?」
出来るようになってからその恐ろしさを実感するカルテリコス。
「ははは、その、使ってもいいのかな、っていう気持ちがあるのなら大丈夫だよ。ペガサスライダーが乱用するわけ無いってぇのは信じてるからさ。出来るようになったんだから呑も呑も!」
とターロは杯を掲げた。
この後、心ゆくまで美味しい酒を堪能したターロ達はその夜ぐっすり眠った。
翌朝、プロクスが迎えに来る。
「よーし。ケパレーに向けて出発!」
プロクスの背に乗ったターロは元気に号令をかけるが、カルテリコスはプテリュクスの上でぐったりしていた。
「ターロ、、、酒、強いんだな、、、」
酒に強いのではなくライン王子の魂力で分解がはやいだけだが、本人は気付いていない。
プテリュクスが酒臭さに辟易している。
飛んでいるときに放り出されても可哀想なので、ターロは態々プロクスから降りてカルテリコスの肝臓辺りにヒールをかけてやった。
「む、、、大分よくなった。助かる」
ついでに、メトドとテュシアーにもかけてやった。
「アプセウデースは、、、大丈夫だね」
昨日は浴びるように呑んでいたのに、ケロッとしている。
(恐るべし、、、ドワーフ)
彼とは同じ調子で呑むまい、と誓うターロだった。