5-18 カルテリコスの憂鬱
「ターロ。私にも魔法を教えてもらえないだろうか?」
アプセウデースとターロのやり取りを見ていたカルテリコスは、真剣な面持ちでターロに願い出た。
「いいよ。 何の?」
「プロクスとの戦闘の中でアウロに矢を強化してもらったんだ。あれが自分で出来るといいと思って、、、」
「成る程、そりゃいいね。じゃあ、そうだな、、、」
と、ターロは少し考えて、
「一番得意な攻撃魔法は?」
と問うと、カルテリコスの応えは、
「攻撃? 、、、攻撃魔法は、使えない」
「え?」
固まるターロに、メトドが、
「ターロ様。魔術師でもないのに攻撃魔法が使える者などめったにおりません。テュシアーも、習ってはいても使えなかったではありませんか。そもそも普通は習う機会すらないのです」
と常識を教える。
確かにターロにはライン王子の記憶もある。
しかし魔法に関してはライン王子もかなりの英才教育を受けていたので、世間とのズレが酷い。
「、、、そうなのか。んん〜。じゃあさ、カルテリコスが今まで見たことのある現象の中で一番ビビったのは?」
「ドーラが人化を解いたことかな、、、」
「そりゃ、ビビるよね、、、。って、そうじゃなくって、自然現象とかで」
「ああ、、、。 ならば雷だな。以前プテリュクスと飛んでいるときに雷雲に入ってしまったのだが、、、あれは生きた心地がしなかった」
「おお、そういうのだよ。そっか、電撃か〜」
と考えながら、カルテリコスの弓矢を借りて、番える。
【エンチャント ライトニング】
矢が光を帯びると同時に放った。
一直線に飛んでいった矢は的の大岩にあたると、
ドッガーンッ!!
当に落雷の様な轟音が響いた。
標的になった岩は微塵に砕けている。
「、、、矢の威力じゃないな、、、。 別の武器だ、、、」
耳鳴がおさまったカルテリコスが、その威力に呆然と呟いた。
集落の人々が、何事か、と出てくる。
「ああ、皆さん! 済みません。魔法の練習です。お気になさらずに〜!」
大声で皆に詫びるターロ。
しかし皆遠巻きにして、帰ろうとしない。
次に何が起こるのか楽しみにしている。
娯楽が少ないのだろうから仕方ない、とターロは好きにさせることにした。
「雷ってさ、電気だから、攻撃魔法として使うにはちょっと難しいんだ」
「どういうことでしょう?」
カルテリコスに教えているのだが、メトド達も聞いている。
集落の者も聞こえる所まで寄ってきた。
「静電気って分かる? 乾燥した寒い日に金属とか触るとパチッてくるやつ」
メトドやカルテリコスらは経験がないないようだが、山岳の民は皆経験していた。
(ああ、そうか。化学繊維がないから静電気がめったに起きないんだな。じゃあ、山岳の民は、、、?)
詳しく聞くと、宝飾品の細工作業、琥珀や硝子、水晶等の仕上げ磨きを毛皮等でするらしい。
そのときに静電気が起きるようだ。
「まあ、あの静電気も雷も、規模が違うだけで同じようなものなんだ。正体はこれ」
といって、詠唱。
【ハイ・エレクトリック・コーレント】
バリバリバリッ
ターロの手から地面に電撃が走る。
「電気だよ。これは通り易い所へ行きたがるんだ。魔法だからある程度指向性を与えられるけれど、他の属性、火・水・風みたいに扱いやすくはない」
木杭を立て、それを狙ってもう一度詠唱。
それには直撃する。
今度は木杭の近くに鉄の棒を倒しておく。
「またあの木の杭を狙うよ。見てて」
【ハイ・エレクトリック・コーレント】
バリバリッ
電撃は木の杭へ向かって飛んだが、途中で方向を変えて鉄の棒に落ちた。
「ね。木の棒を狙ったのに中らなかったでしょ? あー、これなんかもっと効果的かな」
【火の壁】
と唱えて杭の周りに火の壁を作り、
【ハイ・エレクトリック・コーレント】
と唱えると、吸い込まれるように電撃は火の壁を伝って地面へと消えた。
「火はプラズマみたいなものだからさ、電気が通りやすいんだ」
見ている者はターロが何を言っているのかさっぱり分からなかったが、雷を攻撃魔法として使うことが難しいと言いたいらしい、ということだけは分かった。
「でもさ、さっきの矢に電撃魔法を付与して、あたった瞬間に効力解放、って感じで使うなら、標的が絶縁体でもない限り必ず通じるよ」
説明終わり、という顔のターロに、
「ああ〜、すまん、ターロ。全く分からなかった、、、」
「? え?」
「え、じゃない。難しすぎる。要するにどういうことなんだ?」
ちょっと不機嫌にカルテリコスが抗議する。
「、、、要するに、あたったときに弾ける、っていう像と一緒に、矢に雷の力を魔法で付与するってこと」
「最初からそう言ってくれ。 、、、で、どうやるんだ?」
ここへきてやっと、メトドやアウロのようにもともと魔法に関する知識のある者とそうでない者には、かなりの差があると理解したターロ。
「、、、そうか。分かった。じゃあ、時間差で魔法を発動させる練習からやろう」
石ころに、ライトの魔法をかけて、地面に落ちた瞬間に光らせる、という練習をさせることにした。
山岳の民は、先ずライトの練習からだ。
そちらはテュシアーとアウロが教える。
山岳の民は魔法を使わないが、鍛造や金工作業で無意識に魔力を操っているので魔嚢の容量は大きい。
頑固で、理解するまでの時間は掛かるがコツを掴んでからの上達は早かった。
ライトが使えるようになった者は、石ころに魔法付与する練習を始める。
そちらはメトドとターロが教えた。
アプセウデースも早く石ころの練習に加わった組に入っている。
カルテリコスはというと、石を光らせる事は直ぐに出来るようになった。
が、地面にあたった瞬間、というのに苦戦している。
結局、アプセウデースの方が先に成功させた。
「アプセウデース。 、、、本当に今まで魔法を使ってこなかったのか?」
カルテリコスが悔しさ半分、羨ましさ半分に訊くと、
「ああ、今日が初めてだ。ターロ様の教え方が上手ぇんだべ」
「、、、私もターロに習っているのだが、、、」
夕食の直前、やっとカルテリコスは成功させたのだった。