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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第五章 山岳の国 ”プース”
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5-15 竜の生態

『私達は、古代人の遺産なのです』


竜や古代文明に関する研究が一気に進んでしまうような、学者が聞けば腰を抜かすであろう事実を淡々と語る古代竜。


この星には(かつ)て、魔法によって栄えた超古代文明が存在した。


幾度かの大戦等、滅亡の危機を乗り越えて文明は成熟してゆく。


そしてある日、忽然と消えた。


その理由も行き先も、古代竜は知らない。


現在この星にいる人族は、古代人の文明圏外で暮らしていた未開の地の人族の子孫。


それが、古代人の残した遺産や独自に開発した魔法などでここまで発展した。


古代人が消えた時期の先祖の暮らしは、辛うじて火を使え、道具も石器、土器を使うような原始的な生活だったという。


そして話は竜について。


竜は古代人の乗り物兼愛玩動物として人工的に魔法で創造された種だった。


生物としての能力が他種を圧倒するため、その全体数は調節されるように創られた。


竜には性がなく生涯に一度、死ぬ前に一つだけ卵を産む。


これで個体数が増加することはない。


ただし、種全体が何らかの理由で激減した場合、産む数は元の個体数に回復するまで増え、時期も早まる。


激減を察知するために、同種間の共感能力が付与された。


その共感能力に種全体の過去の記憶も含まれているので、古代人が消えた時は卵だったこの竜もその経緯を生まれたその時から知識として持っている。


この竜のような古代人が残していった卵から生まれた竜がこの星の古代竜となった。


竜が産む一つ目の卵は親と同じ能力を授かるが、二つ目、三つ目となるに連れ、劣化していくらしい。


古代人と共に大方の竜は消えてしまったので、残された竜は前述の種族数調節機能が働いて一体でいくつもの卵を産んだ。


よって、今この星にいる竜は古代人の作った竜と比べると数段劣化してしまっている。


『しかし、時々例外が起こります』


と言って、古代竜がドーラを見る。


『先祖返りです』


「先祖返り?」


鸚鵡返(おうむがえ)しにいうターロに頷いて古代竜は続けた。


『竜は初め、数体のみが古代人の王族の為に創られました。それらは非常に強力な個体でした』


その強力な個体は起源竜と呼ばれ、後の竜の雛形となった。


そのうちの一体はムシュフシュと呼ばれる起源竜の中で唯一、翼のない個体。


地竜の祖だ。


『この子は起源竜の特徴を強く発現させています。だから共感性はないのでは?』


起源竜には個体調整の仕組みが組み込まれていない。


それは起源竜以降に組み込まれた仕組みだ。


『共感性は、本来、個体数調節のための能力です。テレパシー(遠隔精神反応)とは違い、普段はあることも殆ど感じられない程の弱いもの、、、、しかし、あの子達は違います』


古代竜は話題を天使達へと移した。


『天使、とあなた方が呼んでいるあの子達は、先程も言った通り人化の解けなくなった竜です。ある古代竜が暴走と言ってよいほど、卵を産み続けた結果なのです』


その古代竜は突然変異種で、通常ではありえない(おびただ)しい数の卵を産んだ。


しかし、その卵から生まれた竜のどれもが、個体進化時に人化したまま竜に戻れなくなってしまったという。


その代わり、同族同士の共感性は通常のものより強く、その力もあって人族などの他の種族を制圧し始めた。


『ですので、これ以上卵を産まないようにと、その竜を私が葬ったのです』


ここまで古代竜が話を進めたところで、


「ちょ、ちょっと待ってください。色々話が端折(はしょ)られて付いていけてない」


ターロの待ったがかかり、


「先ず、個体進化ってなんですか?」


『固体進化とは、竜が生れて少ししてから起こるものです。幼体から成体へとなるために体を大きくつくり変え、脱皮します』


「ああ、それで、、、」


一人で合点するターロに皆が説明を求める。


「いやさぁ、スザクさんも、ニパスもすっげえ魔力必要だったのに、一番変化の大きなドーラの時は全然魔力使わなかたのは何でかな、って思ってたんだよね。でも、今ので何となくわかったよ。その個体進化ってやつと時機が一致したから、祈る程度の魔力でも、影響があったのかもね。先祖返りならその、遺伝子の中の情報を引き出すだけなんだからさ」


「遺伝子?」


また、異世界の知識なのだろう。


今聞いたところで理解できないだろうから詳しく聞くのをメトドは断念した。


ケパレーに着いた後に教えていただく事がまた増えた、とメトドは忘れないように記憶に刻む。


「それから、そもそも、何で竜は人化出来るんですか?」


ターロの問への古代竜の答えはこうだった。


『常に愛竜が側にいられるように古代人がこの能力を開発したのです。竜のままだと大きすぎますからね』


「ああ。成る程」


そんな理由だったのか、と皆は唖然とする。


「じゃあ、天使たちは、その親竜のない今、もう増えることはない、っていう事ですか?」


『そう言う事になりますね。それであの子達、私に魔法陣による報復をしたというわけです』


その魔法陣は人化もこの場からの移動も許さない強力な制約だったので、仮死に近い眠りに付いて生き延びたという。


この三百年の間で目覚めたのは、イッヒーが来たときと今回のみ。


よって、三百年殆ど年をとっていない、と古代竜は変な所に喜んでいた。


だが、続く古代竜の話はターロたちを更に驚かせ、大いに焦らせる事となるのだった。

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