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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第五章 山岳の国 ”プース”
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5-13 魔法陣を解く

「アプセウデース、この鱗の下に魔法陣がある。(めく)ることは出来るか?」


ドーラに押さえつけられている古代竜の胸の前まで跳んできた三人。


メトドは、盾ほどもある鱗の一枚を指して、アプセウデースに尋ねた。


「おう! やってみるべ!」


アプセウデースが鱗に手をかけ力いっぱい引っ張る。


ぐぐっと鱗が捲れると古代竜は痛いのか(くすぐ)ったいのか一瞬身震いするが、ドーラが更にきつく押さえつけるので大きく動けはしなかった。


「あった」


小さな魔法陣が光を放っている。


見るからに緻密な術式が描き込まれていた。


短絡(ショート)させることは、、、」


メトドが指先に魔力を込めて触れようとするが、


カッツッ


「出来ないな、、、」


なにか堅い障壁があるかのように阻まれた。


「では、私がやってみます」


テュシアーが魔力を込めた手を魔法陣に(かざ)す。


「ああぁ、この魔法陣の力は、、、」


顔を歪めるテュシアー。


打ち破るのに魔力が足りないらしい。


後ろからメトドが彼女の左肩に手を置き魔力を補助するが、それでもやっと魔法陣に手が届くくらいで、解除には程遠い。


その時、テュシアーの真後ろに着地した者が彼女の右肩に手を置き魔力を送り始めた。


大量の魔力。


「あ、これなら、、、」


テュシアーが予想外の魔力補充に声をあげる。


「!!!」


メトドは驚きのあまり声が出ない。


そんなメトドの様子を察知して後ろを振り返り声をあげるテュシアー。


「え? 、、、ターロ先生?!」


「いやー、死ぬかと思ったよ。あ、死んだのかな?」


相変わらず暢気なことを言っている。


「ど、ど、ど、ど、どういうことですか?」


「うひゃひゃひゃひゃ! メトドさんがそんなに吃ったの初めて聞いた!」


一人で大笑いしているターロを、


「ターロ様っ!!」


メトドが叱る。


「ターロ様、、、。 死んだんでねえのか?」


アプセウデースも口を開けて見上げている。


その時、古代竜が動いた。


ターロに気付いたドーラが驚いて力を緩めたようだ。


「おおう! ドーラァ、もうちょっとだけ、しっかり押えてて!」


慌ててターロが声をかける。


「話は後だ。さっさとやっちまおう。テュシアー頼むよ」


「は、はい」


急に真面目になったターロに戸惑いながらも、目の前の魔法陣に集中。


「も、ものすごい力です、、、」


なかなか破れないらしい。


さっきの動きで首が少し自由になった古代竜は、更に身動(みじろ)ぎ息を大きく吸い込む。


「! ターロ様、ブレスが!」


メトドが言い終わらぬうちに、古代竜の炎のブレスが飛んで来る。


しかし、


「炎なら大丈〜夫」


ターロが突き出した炎と化した右手にブレスは吸い込まれていき、


時宜にかなった(グッドタイミングな)魔力の贈り物だね」


ブレスの炎を魔力に還元し、テュシアーに送り込むと、、、




バリーーーーンッ!!!!



硝子が割れるような甲高い音と共に魔法陣が消滅した。


古代竜は支配が解けた衝撃でなのか、気を失う。


ごっそり魔力消費した疲弊で座り込むテュシアーとメトド。


アプセウデースは色々とありすぎて放心している。


「おお〜、やったねぇ」


ターロがそんな三人を見ながらニコニコしている。


「ターロ様、、、」


メトドがまだ信じられない、というような顔でターロの元へ這っていくと、


「メトドさん。裾長衣(ローブ)が汚れるって」


ターロは彼を立たせた。


「どういうことなのですか、、、?」


「ああ。 これさ」


ターロはぐいっと胸元を(はだ)けると、そこには細かく(ひび)の入った青い宝玉の吊下装飾具(ペンダント)がぶら下がっていた。


外気に触れた瞬間、宝玉は役目を終えたようにボロボロと崩れ落ちて、精霊銀(ミスリル)の台座だけが残される。


「ありゃりゃ、崩れちゃった、、、。リトスに貰ったこれさ、身代わりの魔道具(マジックアイテム)だったらしくてさ、助かったよ」


「そんな物を姫から頂いていたんでですね、、、」


「あれ? メトドさんに見せてなかったけ?」


と惚けたこと言うターロ。


「いやー、大変だったよ。このアイテムさ、死ぬ瞬間に発動するらしいんだけれどさ、ほら、俺、ライン王子の魂力があるでしょ。その力で、なかなか死ぬ間際、ってやつにならなくってさぁ。体がひしゃげて全く動けないのにだよ〜。本当に痛くって痛くって、、、。この魂力、ちょっと微妙だよね〜」


「ははは、、、ターロ様、、、」


相変わらずのターロに少し安心し笑うしかないメトド。


古代竜が気を失ったので押さえる必要の無くなったドーラが寄ってきて、甘えるように、そしてその生存を確認するようにターロに頭を擦り付ける。


「ド、ドーラ、、、。ちょっと会わないうちにずいぶん大きくなったね、、、」


そんな事を言うターロを、何言ってんだ、とグイと鼻面(はなづら)で押し退けたドーラが光り始めた。


ドーラの立っている辺りが盛り上がっていく。


「おおう? 竜の大きな体を土に変換しているのかな?」


光が収まると、小高く盛り上がった土の上に人の姿のドーラがいた。


「ぬししゃま!」


ちょっと怒っている。


勝手に死にやがって、と言ったところなのだろう。


跳んできてターロの腹に一発入れた。


「ぐふっ、、、。 いい正拳突き(ストレート)だ、、、。 でもドーラ、、、本当に死んじゃうから、もう、止めて、、、」


腹をおさえながらもターロは裾長衣(ローブ)を脱ぐと、何も着ていないドーラに羽織らせてやる。


満足したのか、激しい愛情表現は終わりにしたドーラはピットリとターロに引っ付くと、さめざめと泣いた。


ターロは、


「ごめんよ、心配かけちゃったね」


と、優しくその背をさするのだった。

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