1-12 継承の儀1
分数はちょっと読みにくいかもしれません。
ご存知ない方はノートに書き出して試してみてください。面白いですよ。
「ここが継承の間、、、?」
階段を下りた先に会った部屋は地下なので勿論窓などない。
だが明るい。
明るいのに光源が見当たらない。
壁・床そして天井そのものが発光している様だ。
広さは大体十五メートル四方、高さ五メートル位のようだが、全面が発光しているためどこまでも空間が広がっているような錯覚に陥る。
部屋のほぼ中央に直径二メートル弱の、碧く輝く魔法陣が見える。
「この部屋に入る日が、生きているうちに来るとは思いませなんだ」
感慨深げに言うロエーにオルトロスがこう応じた。
「全くだ、継承の儀に立ち会えるなど、何という幸運。リトス、今から起きることをよく見ておくのだ」
「はい! お父様!」
何だか盛り上がっている。
「さあ、ターロ様。あの魔法陣の中央にお立ちくだされ」
ロエーに促され大田は魔法陣の真ん中に立った。
ウゥーン
魔法陣が起動し、合成された様な声が響く。
『サンカシャハ、ナンメイ デス カ?』
大田は後ろを振り返る。
「ターロ様のみです」
とメトドが言うので、
「俺一人だ」
と大田。
『オナマエ ヲ ドウゾ』
「大田太郎」
『ヨロシイ、ケイショウ ノ ギ ヲ ハジメ マス』
何が始まるのだろうと緊張する一同。
『デハ ダイ イチモン』
ジャージャン!!
(ク、クイズ番組?!)
ご丁寧に効果音付きだ。
ブイーン
大田の前に巨大スクリーンが現れる。
『ツギ ノ ケイサンシキ ヲ サンジュウ ビョウ イナイ ニ トイテ クダサイ』
声と同時に計算式とカウントダウンがスクリーンに表示される。
1/2+1/6+1/12+・・・・・+1/56+1/72+1/90=
「何じゃあの面倒臭そうな式は! しかも途中が抜けとるじゃないか! 三十秒で解けるわけ、、、」
とロエーが言い終わらぬうちに、大田が何でもない様な顔で答えた。
「10分の9」
『セイカイシャ ニ ハクシュ! ヨク デキ マシタ』
ワー!! パチパチパチパチ!!
芸の細かい事に、ギャラリーの効果音まで入る。
(おい、これじゃあ、 ホントにクイズ番組じゃないかよ!)
大田は心の中で激しくツッコミをいれると同時に、大賢者が元日本人であると確信した。
大田の心中とは裏腹に見ているロエー達は大盛り上がりで、効果音と一緒に拍手している。
「信じられん! あの計算を一瞬で! まさに大賢者様の再来だ!」
(何だこの茶番は、、、)
大田が呆れていると、
『セイカイシャ ノ オオタ サン。カンキャク ノ ミナサン ニ カイセツ ヲ オネガイ シマス』
(何ですと? 観客? 観客でいいの?)
大田が振り返ると四人が、早く教えてくれ、と、ウズウズしている。
「あ〜、、、何ですか? これ本当に、継承の儀式なのですか?」
メトド達に聞いたつもりが、
『マチガイ ナク ケイショウ ノ ギシキ デス。セイカイシャ ハ ハヤク カイセツ ヲ』
と天の声に促される。
大田はヤケクソ気味に、
「これは中学入試の定番問題です。知っていればなんてことは無い。」
「チュウガクジュケン?」
(ああ、そうか、中受って言っても分からんか、、、)
ホワイトボードが欲しいな、と思うと、
「メ ノ マエ ノ スクリーン ハ マリョク デ カキコミ ガ デキマス」
との天の声。
(至れり尽くせりだな、、、)
とりあえず指先にマリョクを少し込めてスクリーンをなぞると、字が書けるので、説明を続ける。
「1/2の分母、2は、1×2と言い直せます。で、それを分母にして引き算に言い換えると1/2はこうなる」
といってスクリーンに
1/1−1/2
と書き、
「これを通分すると」
2/2−1/2
「となるので、答えは1/2。だから、この言い換えは問題ありません。ここまで宜しいでしょうか?」
という大田の問いかけに、メトドが、
「な、何のためにそんなややこしい事を?」
「まあ見ていてください。2つ目の分母、6は2×3、3つ目の12は3×4、と規則正しくなっています」
「おおー!確かに」
「だから隠れているところの分母はそれぞれ、4×5の20、5×6の30、6×7の42で、次の見えている56、これは7×8で作れますね、これに繋がるんです」
ここまで付いてきているか、確認するように一同を見回してから、
「では全ての項をさっきの方法で言い換えてみます」
1/2+1/6+1/12+1/20+1/30+1/42+1/56+1/72+1/90=
1/1−1/2+1/2−1/3+1/3−1/4+1/4−1/5+1/5−1/6+1/6−1/7+1/7−1/8+1/8−1/9+1/9−1/10=
「となります。で、よく見てください。最初の1/1と、最後の1/10以外、相殺されて消えてしまうんです。だから残った1/1−1/10だけ計算すれば答えが出る、という仕組みです」
「おおー!! 本当じゃ!」
「何という事だ、こんな方法どうやっても思いつかんぞ!」
四人は称賛するが、
「いや、これは俺が考えついたわけじゃありません。俺のいた世界じゃ、ある意味常識でした」
と大田が慌てて訂正すると、
「これが常識!何という世界だ!」
「異世界とは恐ろしいところですな!」
余計に盛り上がってしまった。
『オミゴト!』
響く天の声を、何じゃこりゃ、と思いながら聞く大田だった。