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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第五章 山岳の国 ”プース”
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5-9 ニパス

「あれ? 思ったより小さいな?」


座っている仔犬を見てそう言ったかと思うと、ターロはその場でばったり倒れてグースカ寝はじめた。


魔力切れを起こしたらしい。


スザクの体は精霊が物質界で顕現する際の仮初の体と似た性質の物だったので、精霊を魂として定着させる作業に注力すればよかった。


しかし今回は精霊の魂化に加えて、物質的な肉体を再構築したのでライン王子の魂力でも耐えきれないほどの魔力を持っていかれたようだ。


崩れ落ちた変な格好のまま寝息を立てるターロを寝違えないように真っ直ぐにしてから、


「き、君はさっきのコボルト?」


アウロが仔犬に尋ねた。


「アン!」


それに返事をする仔犬。


脚が、がっしりしている以外、普通の仔犬と何ら変わりない。


美しい銀鼠の毛並み。


メトドやアウロの髪色に近い。


目の色は深い蒼。


天使の支配を脱したかをメトドが魂力で確認して驚く。


「天使の呪いは解けている、、、が、この仔犬、、、犬じゃない、、、」


どう見ても犬だけど?


皆、はてな顔になる。


「ターロ様、、、またとんでもないものを、、、。この仔犬は魔獣、、、というより幻獣に近い存在だそうだ。風と氷を操る山の王者、、、。氷狼(フェンリル)、というらしい。ターロ様の世界の生き物なのだろうか?」


起きたらしっかり問いただそう。


そして、世界の均衡を崩しかねない生き物をホイホイつくるのはやめるよう説得しよう。


そう決意したメトドだった。


一人、深刻な顔をするメトドだが、皆はその原因が直接見えているわけではないので仔犬の可愛らしさにしか目が行かない。


「せ、成功したのですね」


メトドに魔力を分けてもらっても魔力切れ寸前でフラフラしているテュシアーだが、成功したことに安堵し仔犬を抱き上げて顔を覗き込むと鼻を舐められた。


「まあ」


嬉しそうに、うふふ、と笑ってアウロに渡す。


「テュシアーさん、ありがとう!」


受け取ったアウロの顔を仔犬は早速舐め回している。


面倒を見るように言われたアウロは笑ってされるがままになっていた。


プテリュクスや、ドーラも仔犬の匂いを嗅いでいる。


「さーて、先生が起きる前に名前を考えなきゃ」


というアウロ。


「どうしてだ?」


カルテリコスの質問に、今までの事を告げ口のように話すアウロ。


それを聞いて、苦笑しながら、


「そうか。それは、今のうちに考えるべきだな」


カルテリコスは同意した。


協議の結果、仔犬の名は、


ニパス


となった。


「宜しくね、ニパス」


ニパスを抱え上げながらアウロが言うと、皆の頭の中に、声が響く。


『ヨロシク』


「!!」


驚いて皆、顔を見合わせる。


「、、、念話?」


メトドの誰に対するでもない問に、ニパスが、


「ワン!」


今度は肉声で応えた。


長い、難しい会話は出来ないらしい。


「念話が使えるとは、、、、メトド殿の言う通り、ただの仔犬ではないのだな」


さっきのメトドの言葉を思い出すカルテリコスに、頷いて、


「やはりターロ様は、とんでもないお方だ」


改めて心の師の規格外ぶりを思い知るメトド。


「そうか、、、ターロさん、いんや、ターロ様はすんげえお方なんだな、、、」


アプセウデースも、コボルトに似た生き物が、仔犬に生まれ変わり、それが念話を使う、という奇跡を目の当たりにしてターロがどういう人なのか理解し始めていた。


当のターロは気持ち良さそうに寝ている。


それを運んで山羊を連れて帰ると山岳の民は喜びニパスの今までの盗みは不問となった。


皆で夕食を頂いてから就寝。


真夜中、ターロは空腹で目が覚めた。


枕元には食べ物が置いてある。


皆を起こさないように静かにそれを食べていると、何かがテケテケと近づいてきた。


ニパスだ。


『アリガト』


「お? 念話が使えるのかい? 生まれ変わりが上手くいってよかったな」


と言って、頭を撫でてやる。


ニパスは尻尾を振った。


「でも、思ったより小さく生まれ変わったなぁ。 あの量の魔力でその大きさって、お前、相当強いんじゃないの? 何でもいいけど、アウロと仲良くやれよ」


『ウン』


ターロは残っていたチーズをやると、


「じゃあ、疲れたから寝るな」


と言って、またガーガー寝てしまった。


そして次の日、終にターロは起きてこなかった。

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