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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第五章 山岳の国 ”プース”
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5-7 コボルト?

「あれま! さすがペガサスだべ! オラ達が血眼になって探しても駄目だった盗人さ、捕まえたか!」


一緒に来たアプセウデースが驚きの声をあげた。


咥えられているのは、身長四、五十cm位の小さな生き物。


人族と同じ二足歩行のようだが、頭が異様にでかく、しかも犬のような形をしている。


狗頭族(コボルト)?」


ターロが訊くと、


「コボルトはもう少し背が高いはずですし、頭だけあんなに大きいというのも聞いたことがありません」


メトドが応える。


「なんだ、あの化物は、、、」


山岳の民も初めて見るらしく気味悪げにしている。


アウロの顔色が悪い。


「どうしたの、アウロ? 具合でも悪いの?」


テュシアーが気付いて気遣うが、


「ううん、大丈夫」


そう応えてから、アウロはターロに言った。


「先生、、、あの子、、、天使たちに造られた、、、」


「そうだね、被創造生命体(クリーチャー)だ」


ターロが、言葉を継げないアウロの代わりに言った。


「あれが? アウロが精霊たちから聞いた合成生物だというのか?」


そう言いながらカルテリコスが、早くこいつを何とかしてくれ、という目で訴えるプテリュクスに近づく。


「カルテリコス、不用意に近づいちゃいけない」


ターロが言い終わらないうちにカルテリコスが吹き飛ばされた。


コボルト似の生き物が風魔法を放ったようだ。


主人に攻撃を加えたことに怒ったプテリュクスがコボルト似を振り回す。


「キ〜ッ!」


堪らず悲鳴をあげるコボルト似。


「プテリュクス、許してやってくれないか」


ターロがそう声をかけプテリュクスからその生き物を引き取って、やはり首根っこを掴んでぶら下げる。


「なあ、お前。喋れないのか?」


とターロが訊くとコボルト似は素直に頷く。


こっちの言う事は分かるようだ。


盗んだと思われる自分の頭ほどのチーズ塊を大事そうに抱えている。


「先生、、、。 その子をッ!」


アウロが涙を溜めて、精霊樹の杖を構えたかと思うと、


ビュシュッ!!


魔力を込めた一撃をコボルト似に向けて突き出した。


「!!」


ターロが(すんで)のところで杖を掴んで止める。


「おおぅッ、アウロ! どうしたどうした!?」


「せ、先生! 止めないで! この子を自然に還してやらなきゃ!」


コボルト似は危うく死ぬところだった事を理解しているようで、ブルブル震えている。


「まてまてまて、アウロ。そりゃあ、こいつが死にたいくらい辛い、って言っているならそうする必要もあるかも知れないけど、、、。 先ず、ちょっと話を聞いてみようよ」


「でも! 精霊達が!」


大声を張り上げたアウロを、ターロは空いている方の腕で抱きよせて落ち着かせる。


「精霊たちから頼まれたんだもんな。約束したんだよな」


アウロの背中を擦るターロの言葉に、大泣きするアウロ。


約束したものの、命を奪うという行為に押しつぶされそうになり混乱していた。


(精霊達め、、、会う機会があったら説教だ)


ターロは精霊達にちょっと怒りを覚えた。


「アウロ。殺す他に方法があるかも知れないし、そもそもこいつが、何でここで盗人なんてしているのか、聞き出さないと。分かるね?」


「殺さなくていいの?」


「それは話し次第だけれど、そうしなくてもいい方法がないか探してみようよ」


「、、、はい」


ターロは、やっと落ち着いたアウロの頭を微笑みながら撫でてやる。


流石に空気を呼んでドーラは自分の頭を出しては来なかった。


「よし、じゃあ、、、」


ターロが、コボルト似を持ち上げて目線をあわせてみると、相変わらずブルブル震えているが、ターロが命を救ってくれたことは理解しているらしく、大人しくしている。


「なあ、お前さんは天使に造られたんだろ?」


コボルト似は、ターロの問にコクリと頷いた。


「ここには古代竜に人を近づけないようにするために送られてきたのかい?」


それにも頷く。


「やっぱりそうか」


一人合点するターロに、メトドが、


「どう言うことでしょう? ターロ様」


尋ねると、


「うん。人の入れない地域があって、そこに入ると死ぬ、ってさっき御老人達が言っていたでしょ?」


確かに、と、メトドたちは頷く。


「でさ、最近は入り込んでも殺される前に警告するように突風が吹いたり足元を凍らされるって」


それにも頷く。


「それ聞いて思ったんだよね。見張り役が代わったんじゃないかって。本当は殺すように指示されているけれども、そうはしていないんじゃないかって」


「どう言うことでしょう?」


話が見えずメトドが再び尋ねる。


「本来、合成生物は、偶人(ゴーレム)みたいに自我のない、命令を聞くだけの生き物でいいはずでしょ? でもこいつは、何らかの理由、例えば天使が想定したよりも強い精霊だったとかさ、それで、自我だとか、記憶が残っているんじゃないかと思うんだ」


それを聞いたコボルト似が、そうそう、と言うかのように首を縦にブンブン振る。


「やっぱり。それでお前は、殺せと命令されていてもそうしたくないから、殺さなくちゃいけない地域に入る前に魔力を使って警告していたんだね?」


一層力強く首を縦に振る。


「、、、そうだったんだ。 、、、ぼ、僕、、、なんてことを、、、」


また泣き出したアウロの背をテュシアーが擦ってやる。


「知らなかったんだし、精霊との約束があったからしょうがないけれどさ、確認することは大事だって分かったでしょ?」


ターロはそう言って、もうこのことについて自分を責めるのは終わりにさせた。


「しかし、何でまたチーズだとかを盗んだ挙げ句、プテリュクスに捕まったんだ?」


自分が吹き飛ばされた事など忘れて尋ねるカルテリコス。


ターロは、


「そりゃあ簡単だ」


と言うと、またコボルト似と目線を合わせ、


「君は風の精霊と氷の精霊が貼り付けられているんだろ?」


と聞く。


何で分かった? と、目を見開いて頷くコボルト似。


「警告の方法が、突風と氷なんだからそれはすぐ分かるよ。でさ、氷はともかく、元々が風の精霊、ってところが問題だ」


「?」


皆どう言うことだ? と言う顔になる。


「精霊だった時は、物を食べる必要がない、っていうより、食べられないから、人族が美味しそうに食事をしているのをみて、羨ましかったんだろうよ。で、肉体を手に入れて是非、あのとき見たあれを食ってやろう! ってことになったんでしょ?」


コボルト似は、バツが悪そうに項垂れて小さく頷く。


「ふふふ。そんなこったろうと思った。プテリュクスに捕まったのだって、同じ風の申し子としてちょっと挨拶しておきたかった、とかなんだろ?」


また恥ずかしそうに頷くのを見て笑うターロ。


だが、アプセウデースは納得がいかない。


乾酪(チーズ)やなんかはそうだとしても、山羊さどうしただよ? まさか一匹まるまる食っちまっただか?」


コボルトにはその剣幕にビクッとなるが、今度は首を横にブンブンふって山の方を指差した。


「なんだ? あっちに何かあるのかい?」


との問に頷くので放してやると、案内する様に歩き出す。


付いていくと集落からほど近い崖にでた。


コボルト似はそこを降りようとする。


「おいおい、チーズを抱えたままで、そこを降りるのは無理だろう」


ターロに言われたコボルト似は、ニカッと笑ったような顔をすると、魔力でフワリと浮いて崖の下に降りていった。


「あーそうか、アイツは風の精霊だった。皆、ちょっとここで待ってて」


そう言うと、ターロもコボルト似を真似て、



レビテーション(空中浮揚)



と唱えて、崖下までフワフワと降りていった。

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