5-6 盗人
「ここが、オラたちの集落だ」
山間の少しばかりの平地に石を積み上げた住居が密集している。
集落を吹き抜ける風が家々を飾る色取々の祈祷旗をはためかせていく。
「アプセウデース、なんじゃ、その方々は?」
集落の入り口に座っていた年寄りが声をかけてきた。
アプセウデースが応える前に、ターロ達は王家の手形を見せて自己紹介をする。
その年寄は村の長老だった。
起きている時間はここに座って色々なものを見守るのが日課だそうだ。
ターロ達は集落の集会所に招かれる。
集合の鐘が集落に響き、他の老人達も集まって来た。
それに付き添ってきた者が食事の用意を始める。
今の時間、集落のほとんどの若者は山羊の世話か、山間の狭い農作地で作業をしているという。
何故、古代竜を調べに来たのか分かってもらうために、ブラキーオーン、オステオン、スケロスでの顛末を順に話す。
帝国からの侵攻を何度も受けたことのあるこの国の人々には、すぐに帝国とそれを裏で操る天使の脅威を理解してもらえた。
そしていよいよ本題に入る。
「古代竜か、、、それかどうかは分からんが、人が入れぬ場所が山の奥にある」
老人の一人が言う。
「人が入れない、っていうのは、仕来りか何かでですか?」
ターロが訊くと、そうではないらしい。
「何百年か前から、急にそこへ立ち入れなくなったそうじゃ」
他の老人が答える。
「入っていったものは必ず死んだのじゃ。何人かが犠牲になってからは、立ち入る者もおらん。昔はそれでも間違えて入って死ぬ者もいたがのお」
また別の老人から声が上がった。
長老がまとめる。
「じゃが、ここ何年かは、そこに近寄るだけで、突風が吹いたり、足元が急に凍ったりする、、、。まるで警告するようにな。不思議な事じゃ、と皆で話しておった」
老人たちの話を聞いて、ターロはもう一度質問する。
「何百年か前、っていうのは、だいたいどのくらいか分かりますか?」
老人達は、あそこの爺さんの爺さんが死んだ、だの何だのと話し合って、答えを出す。
「三百年位だと思うぞ」
「メトドさん、、、当たりだね」
「はい」
砂漠の国で火の精霊が実験台にされたのが三百年前。
何のための実験なのか、ということを二人は折りに触れ話し合っていた。
炎の精霊を制御する、というのなら、封印して放置、というのはおかしいのではないのか? という疑問が湧く。
何かしらの情報を得るための実験だったとしたら?
そう考えると放置した事と辻褄はあう。
しかし其の情報を使って何をするのか、というところまでは今知っている事からは分からなかった。
「火の精霊から得た情報を古代竜への呪いに使ったのなら時間もあうし」
「そうですね。其の古代竜の属性が"火"なら、おそらく間違いないでしょう」
「やつらが何を企んでこんな事をしたのかは分からないけど、どうせ碌なことじゃないんだ。行って潰そう」
という事になった。
「近くまででいいんで、その立ち入れない地域に案内してもらえませんか?」
というターロに、今からだと夜になるから今日はここに泊まって明日にしろ、と言われ、夕食をともにする事になった。
その時、
「あ! またやられた!」
台所から声が上がった。
「またか! 今度は何じゃ?」
老人が訊くと、台所から返事がある。
「また乾酪です。今晩用に持ってきた大きいのをやられました」
アプセウデースが言っていた盗人が出たらしい。
何か犯人の手がかりが残っていないか台所を見せてもらおうと、ターロ達が立ち上がったとき、外から奇声が聞こえてきた。
集会所の脇、プテリュクスを預けてある辺りからだ。
「キ〜キ〜!」
行ってみると何かの首根っこを啣えて困った顔になっているプテリュクスが、どうする、これ? と、こちらを見ているのだった。