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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第五章 山岳の国 ”プース”
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5-5 山岳の民

「次は何時(いつ)来られるか分からないからな」


途中、カルテリコスの潜伏していた小屋に寄り、近くの湖でプテリュクスに水浴びをさせてやる。


「父君のお(はか)はどうするんだい?」


そうターロが尋ねると、


「うん。ポーロスの歴代将軍が眠る墓へ移そうかと考えているんだけれども、このままでもよいとも思えてきた」


「そっかぁ。確かに、ここは気持ちいいからなぁ」


ターロの隣でアウロが同意して頷いている。


木漏れ日の中で、綺麗に苔の絨毯に覆われたその墳の周りは、飛び回る精霊達が薄っすら見えるくらい魔力が濃い。


「何にせよ、汚名を(すす)げて父も喜んでいるだろう。ありがとう、みんな」


改めての礼に、皆は笑顔だけで応えた。


ここの管理は村の人にお願いしたし、そもそも人が(おとな)うような場所でもないので問題ないだろう。


プテリュクスが満足したようなので旅を再開させる。


更に西に歩くと徐々に平地から上り勾配へと変わっていく。


「そろそろ、プースに入った?」


「分かりません。プースは国とはいえ、国境も曖昧で住人がほとんどいないので何を(もっ)て入国したといえばよいやら、、、、」


メトドがそう困ったように言った。


この国は、樹海の国"ケイル"と似ているようで違った形態をとっている。


人口が少なく、幾つかの集落に分かれている事は共通しているが、それぞれが独立自治を保っているケイルと違い、プースは全ての集落がゆるく一体となっている。


理由の一つは山羊の遊牧にある。


遊牧は、群れの山羊を引き連れて集落を巡っており、どこが拠点と決まっていない。


夜になる前に一番近い集落に帰る。


山羊は全員の所有物で、面倒も持ち回り、採れる山羊乳は山分け。


そこから作られる乾酪(チーズ)等の産物も山分けだという。


「あ、山羊!」


その山羊の群れを、アウロが遠くに見つけて叫んだ。


山羊も皆、此方を見ている。


「オマエラ! 何もんだ! 山羊さ、盗みに来ただか!」


その近くで、小さいおじさんが長い武器を持って睨みつけてくる。


怒鳴り声にプテリュクスが嘶いた。


「あんれっ! ペガサス! ペガサスライダーさいるんか? そ、それとも、ペガサスさ(さら)ってきただか!」


「おじさん、、、私がペガサスライダーですよ」


カルテリコスがひょいとプテリュクスに乗ってみせる。


「ああ、失礼した! てっきりまた盗人かと思っただよ」


「また?」


「ああ。最近多いんだ。せっかく作った乾酪(チーズ)だの何だの持ってかれて、しまいにゃ、山羊もだ。全く、どこの誰だか分からんが、ペガサスライダーなら、そんな事しねえべ?」


「ああ、しないよ」


ペガサスライダーへの信頼はこの国でも変わらないらしい。


カルテリコスのお陰で誤解も解けたところでそれぞれ自己紹介をする。


彼の名はアプセウデース。


おじさん、だと思ったら、カルテリコスと大して変わらない年だった。


身長はアウロと同じくらい。


がっしりしていて腹も出ている。


たっぷり生えた髭は綺麗に切りそろえられていた。


手にしている長い武器は矛槍(ハルバード)


身長に合っていないが、筋力で強引に使いこなすようだ。


(ド、ドワーフ! 、、、ということは、、、エルフとは相性悪いのかな?)


前世の幻想文学(ファンタジー)の定番設定を思い出して、エルフの特徴を備えたメトド達との関係を心配するターロ。


「おお〜、お前さん方は高名な樹海の魔術師かぁ! 一度会ってみたかっただよ」


そんなことはなかった。


仲良くなっている。


人知れずホッとするターロをドーラが不思議そうに見ていた。


彼の本業は金属細工師だという。


集落がゆるい連携を保っている理由のもう一つが、金工だ。


手先の器用なものが選ばれて子供の頃から修行に入る。


金工所は精霊銀(ミスリル)坑道のすぐ近くに一箇所あるのみだ。


坑道も、金工所も、やはり山岳の民全員の所有物である。


プースの民は無骨な外見に似合わず、手先が器用である。


総じて頑固であることも細工師に向いている一因らしい。


そして、彼の持っている長い武器が最後の理由を象徴している。


軍事だ。


無論、ミスリルの鉱脈は帝国も喉から手が出るほど欲しい。


この島の西半分には、南北に分けるように東西に山脈が横たわっている。


それが連邦と帝国の国境となっているが、帝国軍が山越えをして連邦側に攻め込む事は難しい。


先ず戦闘装備のまま越えられるような標高の山ではない。


山頂付近では息苦しくなり、慣れないものは動くことすらままならない。


しかし先祖代々この地に住むプースの民は例外で、ひょこひょこ動き回る。


更に彼らの小さな体躯がミスリルで完全武装したとき、弓兵は全く役に立たなくなる。


的が小さく中々矢があたらないない上に、あたったとしてもミスリルの防具に弾き返されるのだ。


帝国は過去何度か侵攻を試みたが、プースの民による、無尽蔵にある岩の投擲と、彼らが自在に操るハルバードの餌食になるばかりで、大軍を持ってしても山の民の鉄壁の守りを崩すことは結局出来なかった。


その失敗以来、帝国はこの国の攻略をすっかり諦めたようだ。


帝国の侵攻を撃退し続けた経験が、この国の民の団結を強めた。


そして今に至っても集落を越えた連携を保っているという事らしい。


「お前さん方、山羊盗人でねえなら、こったらとこさ何しに来ただよ?」


普段、何もない山の中を態々訪れる者等いないのだろう。


尤もな質問をするアプセウデースに、ターロが応える。


「我々は国内視察をしているんだ。王家の依頼でね。それと、この地に呪いを受けた古代竜がいるって話があるんだけれど、知ってる?」


「王家の、、、そうだったんか。古代竜なんてものは聞いたことはねえなあ。皆にも訊いてみっか?」


そう言うと、彼は先頭に立って、一行を集落へと案内した。


小さい体だが、アプセウデースは健脚で、険しい山道をどんどん登っていく。


時々振り返って山羊達を呼ぶと、山羊の群れはおとなしく付いてくる。


アウロとテュシアーが限界に近づいた頃、幸いな事に集落に着いた。

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