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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第五章 山岳の国 ”プース”
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5-2 ターロの逆鱗

「ふ、ふざけおって!」


「ふざけてんのはてめーらだろ!!」


どうやら、ドーラを生け捕りにしようとした事が、ターロの逆鱗に触れたらしい。


格上の四枚羽がやられ、二枚羽三人が硬直している一瞬の隙きを付いてターロはすぐに次の行動をおこす。



テレポート(瞬間移動)



一人右手側に少し離れている二枚羽天使の真後ろに移動。


テレポートは自分の視界も切れるし、先読みされて転移が完了した直後に攻撃されると(かわ)し様がないので、実のところ実戦で使うには危険すぎる魔法だ。


が、天使等が炎の右手に驚き隙きだらけの今なら問題ない。


ターロは燃え上がる手で目の前の天使の羽の付け根を掴み、焼き(むし)った。


「ぎゃああああ!!」


その悲鳴にハッとなった残りの二枚羽ニ人が、翼を広げドーラの方へ飛ぶ。


(さら)って逃げるつもりか、人質にするつもりか。


(いず)れにせよそれを許すターロでは無い。



テレポート(瞬間移動)



ドーラの前へ転移。


燃え上がる右拳をグッと握ると、それは炎の剣と化した。


精霊樹の木刀と、不死鳥の剣の二刀流。


ターロはその二本を開いた中段に構えた。


天使二体は低空飛行し迫ってくるがそこへ突風が襲う。


左の一体は上からの風に押しつぶされ顎から落下し地面を滑った。


もう一体は大量の砂埃が目に入り、上体が浮くような形になる。


そこを逃さず、ターロは地面が凹むほど踏み込んで、左の天使が地面から浮き上がろうとして羽を大きく広げたその付け根を精霊樹の木(地獄丸)刀で薙ぎ払い、右は炎の剣で目を抑えている硬化の解けた右腕を切り飛ばした。


残心を取りながら後ろに下がりドーラのところまで戻る。


二枚羽は三体とも地面に(うずくま)って痛みに苦しんでいる。


四枚羽も未だ、片膝を突いて焼き切られた左手を抑えたままでいた。


ターロは一瞬だけ後ろを確認すると、メトドとテュシアー、アウロがいる。


メトドの未来視による指示でアウロが風の精霊を使って二体の天使を阻んでくれたのだろう。


ターロは炎の剣を手の形に戻すと、天使たちを見据えたまま後ろの三人に親指を立て援護の礼を伝える。


ターロをにらみ返している四枚羽の天使が、


「なぜその炎を前回使わなかった」


ゆっくりと立ち上がりながらそう尋ねると、


「いざって時にとっておくから切り札って言うんだろ? 知らねえのか?」


馬鹿にしたように言い捨てて挑発するターロ。


天使は自尊心が高く、この手の挑発に乗りやすい事をターロはいままでの経験で知っていた。


「矢に追跡の魔法を仕込んでおいて、追ってこなかったのは何故だ?」


「追跡の魔法を仕込んどきゃ、何時襲いに来るか、って不安でしょうがなくなるだろ? その不安に耐えきれなくなれば追跡魔法を逆探知して仕返しに来るんじゃねえか、って思って泳がせといたんだよ。まんまと(はま)ったな」


「、、、そのための追跡魔法だったか、、、」


悔しさを滲ませる天使。


「俺たちは追えなかったんじゃない。追わなかったんだよ。こんな簡単な罠に引っかかるなんて、案外単純なんだな」


ターロは鼻で笑ってみせるが、


「ふん。何とでもいえ。」


天使は挑発に乗ってこなかった。


それどころか、頭上に出した光輪を、


バシュッ、バッシュ!


羽を失った二体の天使へ光輪を飛ばすと、その首を、、、落とした。


てっきり光輪が自分達の方へ飛んでくると思い身構えていたターロ達は、意表を突かれる。


「お、おいっ! 仲間じゃねえのかよ!?」


思わず声をあげるターロ。


「翼を失ったのだ。こうするしかあるまい?」


何の感情も込めずにそう言う天使に、ターロはうすら寒いものを感じた。


ちょっと空を見て、また天使に視線を戻す。


(足手まといを処理して転移で逃げる気か?)


とも思ったが、残った二体の目をみる限りまだやる気のようだ。


ならば、先手必勝!


と、ターロは再び右手を炎の剣に変え、駆け出す。


天使も羽を広げ手刀の右手を硬化させて向かってくる。


炎の剣で突いて、その右手を封じ、上段に振りかぶった精霊樹の木刀をお見舞いしてやるつもりのターロに光輪が飛ぶ。


発動が速く(かわ)すのがやっとだった。


左に体を大きく捻って躱したせいで体勢を崩し、仰向けに倒れ込む。


その腹を踏みつけられた。


「オフッ!」


ターロの息が詰まる。


「ふん。正面からやりあって人族が我らに勝てるものか。残念だったな」


勝ち誇った天使は硬化させた右手刀でターロの首に止めを刺そうと構える。


そして、


ビュッ!




「ゥグッ!」





天使の右腕はターロへ突き出されず、かわりに天使の喉から矢が突き出ていた。


空からカルテリコスが放ったものだ。


ターロは透かさず炎の剣を天使の胸に突き立てた。


「俺が倒れ込んだのは(わざ)とだよ。お前の注意を空から逸らす為にな。二度も空からの矢を喰らうなんて学習能力が低いぞ、って聞こえてないか」


ターロは倒れ込んできた天使を押し返しながら、炎の剣を引き抜いた。


仰向けに倒れた天使の胸と背、首から血が溢れ広がる。


最後に残った二枚羽の天使は、テュシアーのファイヤーボールで脚を焼かれ、動けなくなった所をメトドのファイヤーダートに心臓を貫かれ、ダメ押しのドーラの下顎突き上げ(アッパーカット)で絶命していた。


その死に様を見て、


(敵だけど、可哀想だな、、、)


とターロは思った。


カルテリコスがプテリュクスとともに空から降りて来る。


「ターロ。上手くいったな」


「ああ助かったよ。俺の合図によく気付いてくれたね」


ちょっと空を見上げたとき遠くのカルテリコスと目があっていた。


その時、囮になる、分かった、と短く確認しあっていた。


「皆も援護、ありがとね」


とメトドたちも労う。


アウロが効果的に天使二体の動きを止められたのはメトドの未来視による指示があってのもの。


「未来視はやっぱすげーな。狡だよな。天使にバレたら真っ先に狙われるからばれない様にしておかなきゃ」


狡と言われて苦笑するしかないメトドだが、ターロの忠告はしっかり受け取っておいた。


ターロが辺りを探りアウロも精霊に確認するが、天使の気配はもうない。


建物の中から成り行きを見守っていた村民たちが恐る恐る出てきた。


「皆さん、お騒がせしました。もう終わりましたよ〜」


念の為に村全体に警戒の結界を張って、今度こそ酒に集中するターロだった。

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