4-23 テュシアーの魂力
「やはり発現しているようです」
そうメトドに告げられ、
「、、、私に魂力が、、、?」
信じられないが、あの時の不思議な感覚はそういう事だったのか、と思い当たりもするテュシアー。
「魂力の銘は、"破邪の手"。他者を害する意図を持って発動された魔法を打ち破る魂力です」
目を開いたメトドが皆に聞かせた魂力の能力に、ターロは、
「すげえな、、、無敵じゃん」
と呟いたが、
「いえ、万能ではありません。害意のない魔法を無効にはできませんし、打ち破るのに魔力が足りなければ、やはり無効にする事はできないようです。それに発動には手で直接触れる必要があるようです。なので、炎等の攻撃魔法を無効にする事は難しいかと思います」
「そっか、そりゃそうだよね。それにしても強力な魂力だよ。魔法陣だったら魔力さえ足りれば壊せるんでしょ?」
「そうですね」
「対天使の切り札になるじゃん。この魂力があれば、あの祭壇の仕掛けみたいなものは全部破れるんだからさ。いや〜、祭壇で怖い思いしたけれど、凄いご褒美が来たね」
とテュシアーに笑いかける。
テュシアーは赤い顔のまま、メトド様の御蔭です、と小声で呟いた。
「、、、ターロ。魂力とは、簡単に発現するものなのか?」
カルテリコスが尋ねる。
「簡単かどうかはわからないけれど、そんなに珍しいことじゃないんじゃない? ここにいる人は皆持ってる訳だし。まあドーラは人族じゃないから、よくわからないけれど」
そんな呑気な物言いのターロをメトドが透かさず訂正する。
「ターロ様。珍しい事なのです。本来魂力を持つ者など、千人に一人いるかいないかです」
「え? そうなの? 俺、何個もあるのに?」
「幾つもの魂力を持つなど、イッヒー大賢者様とターロ様以外、聞いたこともありません」
「え? そうなの?」
ターロとメトドのやり取りを聞いて、また始まったよ、と眉をハの字にして笑うアウロ。
「、、、何個も、、、」
薄々感づいていたターロの規格外ぶりを実際目の当たりにして絶句するカルテリコス。
「まあ、あったら便利だけれど、無くたって死ぬわけじゃないし」
変なまとめ方をするターロ。
「あの、、、ドーラちゃんが人族じゃないっていうのは、、、」
テュシアーが恐る恐る尋ねる。
サッカルから、砂漠管理団の街での蜂起をドーラがたった一人で防いだ事も聞いているし、先日の戦いでゴーレムを一殴りで沈めたのも見ている。
人族離れした戦闘力も、実際人族ではない、という事ならば納得もゆく。
納得はいくが、やはりこの珍しい目と髪色以外は普通の可愛らしい女の子が竜であることが信じられない。
「本当だよ」
事も無げに応えるターロ。
ねぇ、と膝の上のドーラの顔を覗き込むと、
「ん」
と、いつもの短い返事。
「なんかね、気がついたら強くなってて人化出来ちゃったらしい」
「そんな事が、、、」
カルテリコスが信じられぬという顔になる。
「それがターロ様の魂力の力らしいのだ」
メトドは言うが、ターロは否定する。
「いや、違うでしょ。テュシアーはメトドさんへの愛の力がきっかけだし」
"愛の力"の所は流して、メトドが続ける。
「いいえ。テュシアーの魂力も、事前の魔力量の底上げ無しには、発現はしなかったでしょう。ターロ様の教えを受けていなければそれはありませんでした」
頷くテュシアー。
「アウロの魂力もターロ様のお導きです」
アウロもうんうん、と首をブンブン縦に振る。
「お導きって、、、」
ターロは苦笑いするが、メトドは更に続けた。
「私の魂力も今回の経験で一つ段階が上がりました。未来視の感覚が掴めたので、短時間なら魔力の底上げなしにやれそうです。今まで破れなかった限界を破った。これもターロ様のお陰です」
「いや、だからメトドさんの努力でしょ」
「しかしそのきっかけはやはりターロ様です。そして、ドーラの人化とスザクさんの一件、、、」
と、メトドがカルテリコスに、砂漠の国で起きた事を語った。
封印された火の精霊を不死鳥に転生させた事、そして"スザク"から告げられたターロの魂力"木鐸"の力。
それを聞いたカルテリコスは、
「そうか、、、なら、私もターロと旅をしているうちに魂力を授かるかもな」
と軽く言うが、
「そう簡単なものではないと思うぞ」
メトドは更に、アウロや、テュシアーの魂力が発現した経緯を聞かせる。
「それは、、、きついな、、、」
カルテリコスは自分が幻覚を見せられたかのように顔を歪めた。
「そうだよね、きついよね。本来ならそれで狂い死にするような像を送り込まれたのをさ、耐えてあの祭壇から生還したんだから大したもんだよ。魂力の一つくらいもらえないとわりにあわんよ」
というターロに、テュシアーが、
「ターロ先生と、、、メトド様の御蔭です」
今度ははっきりと声に出していった。
それを見て、
《アウロ君》
と、またテレパシーでアウロにからかうか? と確認すると、
《今はからかうときじゃないですよ、先生》
《はい》
大人になっていくアウロを頼もしく思う反面、少し寂しいターロだった。