4-22 メトドの目が覚める
「従叔父上を中心に、この国は遠からず立ち直るだろう。ありがとう、ターロ」
「なるようになっただけさ」
カルテリコスの礼を、何でもないと流すターロ。
国政・組織改革はオケイオンを中心に始まった。
両統のどちらに属するか、などは関係なしに適材適所で一から組織造りをしている。
当面の混乱は避けられないが、これを乗り越えればこの国はいい国になるだろう。
カルテリコスと、どこまでも広がる草原を望みながらそんな事を思うターロであった。
「ターロ先生、、、」
テュシアーが青い顔をしてやって来る。
「どうしたの?」
「メトド様がまだ、、、」
「ああ、目を覚まさないんでしょ? きっと二、三日は起きないよ。魔力はカラカラだったっぽいし。脳にも大分負担をかけていたしさ。心配なのは分かるけれど、ゆっくり休ませてやりなよ。今は眠るのが一番なんだ。次に起きるときは全快しているからさ」
そう聞いても尚心配で、いても立ってもいられない、という感じのテュシアーをみて、
「しょうがないなぁ〜、気を紛らわすために何かすっか。青空教室でもやるかい?」
ということになり、街の子を集めて、急遽青空教室が開かれた。
この街にも学校はあるが、上流階級にしか門戸は開かれていない。
だから今回は一般市民を対象にする。
「オケイオンさんに教育にも力を入れるように伝えておいてよ。国の力は、結局人材の質に比例するからさ」
とターロはカルテリコスに言う。
小さな子には字の読み書きや算学、年齢が上がるに連れ魔法や武術などを教える。
先に目を覚ましたアウロとテュシアーが中心になって教えるようにした。
なのにターロの周りには小さい子が集まってきて、騒がしい。
(、、、託児所と勘違いされている?)
と思わないでもないターロだったが、言い出した手前投げ出せなかった。
リトス達も手伝おうとするが、
「今回の事を陛下に報告しといてよ。海の国、砂漠の国、そしてここ平原の国、それぞれに帝国の暗躍があったってさ。きっと樹海の国と山岳の国は人口も少ないんで大丈夫だろうけれど、警戒は必要だし、何より、盟主国ケパレーでの工作がないかが一番心配だ」
そうターロに頼まれ、渋々従う。
「お兄様。これ、私からの贈り物です」
リトスから吊下装飾具を渡された。
精霊銀にターコイズのような美しい青い石が嵌められている。
「肌身離さずお持ちください」
という。
「ありがとう。そうするよ」
と、ターロはその場で革紐に吊って首から下げた。
そして、四人は転移魔法の使い捨て巻物で帰還していった。
「、、、先生、姫様たち、、、あの、煩い人、忘れていきましたね」
「あ」
憐れ、パヌル。
彼もまた、文句を言いながら一人寂しく船で帰っていった。
(あいつ、結局、何しに来たんだ? もっと人に嫌われないような生き方は出来んもんかね? 結局自分が辛いだけだろうに、、、)
ターロはその姿に少しだけ同情した。
パヌルが帰っていった船着き場が騒がしい。
捕物があったようだ。
オケイオンの密旨でレマルギアの出入りの商人を張っていた所、財産を持って国外に逃亡しようとしたので召し捕った、ということだった。
「今まで散々甘い汁を吸っていたんだ。どんなあくどいことをしていたのか洗いざらい吐いてもらうからな!」
と、引き立てられていった。
その調べの中で、レマルギアの天使への支援とその潜伏先が分かった。
「潜伏先って河口付近のどこかじゃないですか?」
オケイオンにターロが言った。
「何故分かった? その通りだ」
川を下っていった所に小さな港町があり、そこにレマルギアの別宅があった。
そこが潜伏先だったらしい。
調べたが既に蛻の殻だったそうだ。
ターロがそこだと言い当てられたのは、マーキングを施した矢をカルテリコスが見事、天使に中ててくれたからだ。
「転移で逃げられても追撃する予定だったのですが、メトドさんがああなってしまったのでやめにしました。まあ、駄目だった時の事も考えてあるんですけれどね。ともかく、メトドさん抜きではなにかと不安なんで」
「メトド殿を買っておられるのだな」
ニッと笑うオケイオンにターロがこう応える。
「ええ。心強い仲間です。本人は自分を過小評価する嫌いがあるので困っちゃってます」
ははは、実力のない者が威張って、有る者は自覚がない、世の中そんなもんだ、とオケイオンは更に笑った。
その日の夜、メトドの目が覚める。
もうすっかりよい、と言うのでメトドが寝ている部屋にカルテリコスも含め、皆で集まった。
テュシアーはずっと横で甲斐甲斐しくメトドの世話をしている。
「ターロ様、ご心配をかけました」
と言うメトドに、
「俺にじゃなく、テュシアーにでしょ?」
とからかってみる。
顔を赤くして困ってしまう二人。
《アウロ君》
《ハイ、先生》
ターロがアウロにテレパシーで話しかける。
最近ではメトドもアウロもターロのこうした行動を魔法の無駄遣いと言わなくなった。
日頃からイタズラだろうとなんだろうと魔法をどんどん使う事が魔力の底上げになると分かったからだ。
《あまりからかうのはかわいそうかね?》
《どうでしょう? 少しからかってやらないとこの二人は何も進まないと思います》
《、、、言うね。アウロ君、、、》
アウロの大人な面を見た気がするターロ。
しかし、その意見を採用し、一頻りからかったあと、許してやる。
「ところで、メトドさん。色々聞きたい事だとかあるんだけれど」
真面目な顔になったターロに、やっと開放されたことを悟りホッとしたメトド。
「何でしょう?」
「先ずテュシアーの事だ」
また何を言われるのかと身構える二人。
「いやいや、真面目な話だから。あの天使の拘束の魔法を破った力」
「ああ、、、」
あのときテュシアーは、詠唱魔法などを使ってはいなかった。
メトドでも純粋な魔力では押し返せなかったし、ターロにも直ぐには外から破壊できなかった。
なのにテュシアーには魔力のみで破壊できた。
となると、可能性は、
「魂力、、、」
「だと思うんだ。今後のためにどんなものだか把握しておいたほうがよいと思って」
「確かに」
といって、メトドがテュシアーの方を向いて集中、何やらゴニョゴニョやる。
因みにターロは、このゴニョゴニョがなんだか気になって、前に質問した事があった。
詠唱とかではなく、ただの集中のため手順だという答えが返ってきた。
何と言っているのかは教えてくれなかった。
そこが知りたかった。