4-21 新将軍
「メトド様〜!!」
気を失ったメトドを見て勘違いし取り乱すテュシアーを、
「大丈夫だから。魔力切れで気を失っただけだから。そんなに激しく揺すると本当に死んじゃうから!」
と、やっとの事で落ち着かせる。
魔力切れで寝ているメトドとアウロをゆっくり休めるところへ運び、取り敢えず中央天幕の補修。
何を決めるにしても、先ずは新しい将軍を選ばなくてはならない。
それはこの国の事だから、と、リトスらは席を外そうとするが、見届け人として立会を望まれたのでそうする。
パヌルは失禁の上、気絶、という屈辱的な失態を晒した為、逗留先としてあてがわれた部屋に籠もっている。
下着でも洗っているのだろう。
惨めではあるが居たら居たで、面倒をおこす事は目に見えているので、放置。
「やはりここは慣習通りカルテリコスが新たな将軍と成るのがよいであろうな」
オケイオンが口火を切る。
この場には両統の代表が揃っているがレマルギアの血縁の者は皆、大人しい。
「慣習ではそうかもしれません、、、」
何か思いつめたようなカルテリコス。
「そうかも知れませんが、、、私のような若輩者が将軍になったところで、この国を立て直せるとは思えません」
「そんな事はないだろう」
「いえ、私は父の死を前に逃げ出しました。 正直どうすればよいか全く分からず、父の亡骸を奪う事しか思い付かなかった。後はプテリュクスにただしがみついて彼が飛ぶのに任せるだけだったのです。あの時の私がもっとしっかりしていれば違った行動が取れただろうし、そうしていればモノミロス達が死ぬこともなかった、、、」
「、、、あの場合、他にやりようがあったとは思えんがな、、、」
悔恨の念を滲ませるカルテリコスに慰めの言葉をかけようとするが思いつかないオケイオン。
「いえ、部族審判では、つい皆を責めるような言い方をしてしまいましたが、、、逃げた私にはあんな事を言う資格は無い」
黙ってみていたのか! と、詰ってしまった事を言っているのだろう。
「私は弱い自分が許せないのです。従叔父上、私がターロ殿に付いて旅に出ることをお許しいただきたい」
「! っしょ、将軍の座を捨てて、旅に出るのか?」
レマルギアの親類の一人が、信じられない、と思わず声を出す。
「はい。次の将軍は別の方にお願いしたいのです」
顔を見合わせる一同。
長い歴史の中で将軍になりたがった者は数あれど、辞退したものはいない。
「むう、、、別の者、と言ってもだな、、、両統迭立の慣いからいくと、お前の次は、お前の子だぞ。おらんではないか」
「そうなのですが、、、。ターロ、いい考えはないか?」
ここでカルテリコスはターロに助けを求める。
思わぬ指名に、
「え? 俺? 部外者だよ? 口はさんじゃ駄目でしょ」
授業中に窓の外を見てぼ〜としていたら急にあてられた時の感覚。
「いや。部外者だからこそ客観的に見られるだろ?」
レマルギア側の者等はいささか胡散臭い目でターロを見ているが、盟主国王家の特使であり、先程の天使との闘いも知っている。
無下には出来ない。
「ん〜、そう言うなら、、、。じゃあ、一つ訊いていいかい? 両統迭立は絶対なのかい?」
平原の民は、何を言い出すんだこの若造は、と言う顔になった。
その顔を見て、
「いや、そうでしょ? よく考えてくださいよ。今回のことはこの仕組みが招いた悲劇だと言ってもいい。レマルギアは将軍に成れる立場なのに、順番で成れなかった、っていう不満から今回のことを起こしたんでしょ? 実際は順番云々関係なしに実力的に将軍の器じゃなかったにもかかわらず、だ」
これには、確かにそうだ、とレマルギアの血縁者も頷かざるを得ない。
「二度とこんな事が起きないようにするのなんて簡単だよ。実力がある者、その資格があると皆が認める者が将軍になる仕組みに変えればいい」
「そんな仕組みがあるのか?」
オステオンに訊かれ、ターロは、
「この国だからあるのですよ」
一同を見回し、こう尋ねた。
「この国で一番の尊敬、憧れの対象は? 子供が皆なりたいと思っていて、大人の誰もが信頼できる、と思っているのは?」
その問に、
「、、、ペガサスライダー、、、」
誰ともなく呟く。
「そう。天馬を駆る者だ。ペガサスは人格者にしか背を許さないって事は子供でも知っている。ペガサスライダー達が、自分等の中から選ぶようにすれば間違いはないでしょ? そもそも歴代の将軍でペガサスライダーじゃなかったのは?」
「、、、レマルギアだけだ」
「でしょ? まあ、世襲じゃなくなっちゃうけれど、開国の祖の血を引くってことより、ペガサスライダーである、ってことのほうが分かりやすくて、国民の納得も賛同も直ぐに得られるんじゃありません?」
皆、ううむ、と腕を組んで考え込む。
「伝統ってのは大切ですよ。深い意味があってそうなった事が多い。だから簡単に無くしていいものではありません。でもそれは大きな害が無い事が前提だ。今回はどう? ケパレーが許しているからこの国は存続しているだけで、本来なら併呑されていてもおかしくないでしょ? 国のあり方を決めるための決まりが国を滅ぼしちゃ、本末転倒ってもんじゃないですか?」
言われてみれば至極当然。
その"当然"に気付かなくなってしまう事に"伝統"や"仕来"の危うさはある。
思考停止、というやつだ。
「皆さん。私もターロ殿の言うとおりだと思う」
カルテリコスが再び発言した。
「従叔父上、いや、オケイオン殿こそ次の将軍にふさわしい。年齢、人望、経験、どれをとってもです」
他のペガサスライダーも、オケイオンなら誰も反対しないだろう、と太鼓判を押す。
他の者からも反対意見はでない。
「むむ、、、」
いきなり重責を背負わされ困却しているオケイオンに、
「決まりですね」
とカルテリコスは爽やかに笑った。