4-18 対金属の偶人
4-15の直後の話です。
「ゴーレムのどこかにある制御用魔法陣を狙うんだ! ドーラ、皆を助けて! メトドさん、どこに魔法陣があるか見つけられる?」
そのターロの言葉を聞いて、キュアーノとクローロが抜刀した。
パオ内に残った平原の民も守刀を抜く。
彼らは成人すると自分の肘から指先までと同じ長さの刃渡りを持つ小刀を誂え、常に身につける習慣がある。
が、それは飽くまで護身用の小刀なので心許ない。
平原の民の戦闘は弓を主な武器とする。
特にペガサスライダーは弓しか使わない。
刀や槍では、ペガサスの翼を傷めてしまうからだ。
そんな彼らの手にしている小刀を見てクローロが言った。
「皆さんは牽制のみに徹してください。相手は私がします!」
平原の民はクローロが背中に担いでいた大剣を軽々扱う様子を見て素直に従う。
「クローロ、左脇の下に魔法陣があるそうよ!」
メトドの声を聞いたリトスが伝えると、
「腕一本くらいなら!」
そう言って踏み出したクローロ。
腕一本くらい、とはどういう意味だろう? と平原の民が見守っていると、クローロは詠唱して、
【ウェポン |リーインフォースメント《強化》】
大剣を振り下ろした。
ガッシュッ!
金属の強度を一時的に上げる土魔法のかかった大剣は鈍い音と共に偶人の左腕を切り飛ばした。
”腕一本くらい”、切り飛ばせる、という意味だったと知って皆は唖然とするが、腕一本どころではない。
その一太刀はゴーレムの胴半分までめり込んでいて制御魔法陣も破壊したらしく、それは停止した。
「イヤ〜ン、抜けないわ〜」
めり込んでしまった剣を抜こうとゴーレムを踏みつけて剣をグリグリするが上手く抜けないクローロ。
カルテリコスらはなんだか残念なものを見てしまった気分になる。
「後三体!」
キュアーノが動く。
一体が常識的なゴーレムでは考えられない速さで迫って来た。
【ウォータージャベリン】
その顔に魔法攻撃を中て、後ろに仰け反らせて、体勢を崩す。
金属の偶人に魔法は効かないが、衝撃も無効になる訳ではない。
刺突剣の狙い澄した一撃が仰け反ったゴーレムの左脇に吸い込まれていく。
そして剣先に魔力を流すと、
バズッ!
短絡する音と共にゴーレムは停止した。
「まだ二体います!」
素早く身を翻したキュアーノがそう警告を発するとその残り二体の片方に素手で殴りかかっていくドーラ。
「ドーラちゃん! 危ないわ! 下がって!」
リトスが叫ぶが、大きく振りかぶり打ち出されたドーラの右鉤形打撃がゴーレムの左肩に炸裂。
胴体を大きく凹ませられたゴーレムは吹き飛び、何度も床を跳ね転がった。
無論、魔法陣は潰れたのだろう、ゴーレムは停止する。
「だいじょーぶよ」
と、埃を落とすかのように手を叩いて、ドーラは言った。
「あ、、、あ、、、」
リトス以下、声が出ない。
キュアーノがいち早く我に返って、
「向こうに最後の一体!」
叫んだその時、ちょうどエリューがそちらの方から帰ってきた。
「エリュー! メタルゴーレムです。魔法陣は左脇の下!」
キュアーノの短い指示だけで反射的に動き出すエリュー。
腰の左右に佩いた左手用短剣を引き抜くと中段に構えたままゴーレムに近づく。
マン・ゴーシュ。
本来攻撃補助や防御に使う、利き手ではない方用の武器。
そのマン・ゴーシュの二刀流は珍しい。
彼女の物は盾型護拳が大きく、刀身の根本が刀剣砕きになっている。
ゴーレムもエリューを標的と定めて接近。
ゴーレムは両掌を組んで振り上げ、エリューの頭めがけて打ち下ろした。
エリューは、体を右にさばいて躱しつつ左のマン・ゴーシュでその腕を抑えて動きを封じ、右のマン・ゴーシュを下から突き上げ短く唱える。
【ファイヤーダート】
マン・ゴーシュの先端から小さな火矢が放たれ魔法陣を短絡させた。
そして素早く後ろに下がり二刀を下段に構えて残心をとる。
停止したゴーレムは鈍い音を立てて床に崩れ落ちた。
こうして四体のゴーレムは一瞬のうちに停止。
眼前で繰り広げられた一方的な制圧に、今後ケパレーとはなんとしても仲良くやっていかねばならぬ、と平原の民は肝に銘じるのであった。