4-15 来襲、再び
「先生、、、精霊達の気配が、なくなりました」
アウロがターロに知らせる。
海の国では天使の周りに精霊がいなかった。
それから考えると、、、
「来たな」
ターロは短く言い、辺りを警戒しつつ皆に警告した。
「天使が来ます。皆、備えて。アウロ、精霊は消えたの? それともいなくなっただけ?」
「なんか、”いられない”、というより、”いたくない”って感じです」
「やっぱりそうか。じゃあ、無理に助力は頼めないかな?」
「訊いてみます」
アウロは手をあげて魔力の手を伸ばし、精霊を探す。
風の精霊が一体だけ応えてくれた。
少しの集中の後、
「天使はすっごく嫌いで近くにいたくないけれど、やっつけるなら力を貸すって」
「そりゃいい。じゃあ、風の精霊にお願いして皆を避難させて」
と言うと同時に空中に魔法陣が現れた。
「来た!」
魔法陣が下にずれていき、その軌跡に天使の躰が現れる。
足先まで転移が完了すると魔法陣が消え、天使は落下し始めるが、すぐに翼を広げ、空中にとどまった。
ブラキーオーンの天使と似ている。
全身白い。
違うのは翼が二対、四枚あるところか。
「ふむ。人族であっても、流石は王族と言ったところか。見事な演説だな」
先程のリトスの事を言っているらしい。
「へっ、盗み聞きかよ。趣味のよろしいこって」
ターロが挑発。
避難が終わる時間を稼ぎたい。
《アウロ、急げ!》
テレパシーで急がせる。
パオの中にいた人は顔色を変えて出ていくが、悲鳴などは上がらない。
アウロが上手くやったようだ。
「ふふふ、人族の浅ましさよな」
何のことだ? と皆は身構える。
天使は宝玉を取り出し、
「その男の事だ。これを通し、その男の視界や意識が伝わってくる。今、将に処罰されようというときに女に欲情しておるぞ」
見ると、レマルギアの腕を捻り上げ片膝をついて取り押さえているのはエリュー。
その脛当の上の太ももは露わになっている。
それをレマルギアは凝視していた。
「!!」
エリューは無言で掴んでいる腕を捻り上げる。
ボキッ!
鈍い音がした。
うぎゃああああーーーー!!
レマルギアの悲鳴があがる。
「折れたな」
「折れましたね」
ターロとアウロは痛そうに顔を顰めた。
エリューはカルテリコスに代わってもらうと、
「手を洗う所はどこですか?」
と退出していった。
「ふむ。座興にしても下らなかったな。もうその男に用はない」
それを聞いてレマルギアは何かを察したのか、折れた肩の痛みも忘れて叫ぶ。
「ま、待ってくれ! 殺さんでくれ! 何でもする! 頼む!!」
「人族も壊れたり、飽きたり、使いみちが無くなった玩具を、、、」
と言いながら天使は宝玉に魔力を込める。
同時にレマルギアが苦しみ悶え始め、やはり最後には吐血して事切れた。
レマルギアが動かなくなったところで天使は、
「こうするだろ?」
宝玉を手から零し落とした。
いずれは死刑と決まっていたレマルギアではあったが、この様な最期は流石に惨めだった。
自分の吐いた血に塗れて死んでいるレマルギアを目の前にしてパヌルは、へたりこんで失禁している。
もうレマルギアの事などなかったかのように天使がターロを見て静かに言った。
「この所、帝国の仕掛けた工作が悉く妨げられておる。海の国での蟲の量産に首都攻略、砂漠の国での政権簒奪、そしてここでの事、全てお主の仕業だな?」
感情は伺い知れない。
(蟲の量産? 何ことだ?)
と思いながらも、こう返すターロ。
「だったら何だ?」
「ただの確認だ。それから海の国で一人、我らが同胞が殺された。これもお主だ」
「ああ。俺と他に二人でやった。俺たちはあのときより強くなっているし、今日は他にも戦力がある。一人でのこのこ出てきて大丈夫かよ?」
それを聞いて天使は失笑した。
「あれは我等、”名無し”の中でも最弱。光輪もやっと使える程度。我は違うぞ。名無しではあるが序列は高い」
「名無し?」
「そうか。久しく帝国外の人族との交わりを断っていた故知らぬも当然。一部の上級天使を除いて、我等は名を持たぬ。意識を共有している故、個と全とを区別する必要がないのでな」
唐突に意外な天使の生態を聞かされる。
「だったら、蟲を通しての情報だけじゃなく、ブラキーオーンの天使の体験も筒抜けだってか?」
「そうだ。隅から隅まで鮮明に、というわけにはいかぬが、夢で見る程度には伝わる。お主の手の内も知っておるぞ」
(ディスパージョンが使えないって事か、、、)
舌打ちをするターロ。
「それにな、」
天使は四枚の翼を羽ばたかせ少し上昇。
「我は一人ではない。帝国には面白いことを考える人族が何人もいてな。蟲の躯体を作る技術もその一つ。そ奴らが作った人形に我が魔力を込めるとこうなる」
頭上に光輪を浮かべる。
一枚ではない。
四枚重なって現れ、それが、
ブンッ
ターロ達の頭上を越えて飛び、床に落ちると少し広がって、そのそれぞれから金属の偶人が現れた。
(速い!)
発動の速さに舌を巻くターロ。
海の国で倒した天使の比ではない。
「金属の偶人だと!」
オケイオン等が驚きの声をあげる。
立ち上がってこちらに向き直ったゴーレムは大賢者の方丈のと比べ、より人に近い形状だった。
それだけ動きの制御も高度なのだろう。
ターロが皆に向かって叫ぶ。
「ゴーレムのどこかにある制御用魔法陣を狙うんだ! ドーラ、皆を助けて! メトドさん、どこに魔法陣があるか見つけられる?」
言われてドーラはリトス達の所に向かい、メトドは目を凝らした。
蟲の量産は3-0-2でドーラが潰しました。