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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第四章 草原の国 ”スケロス”
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4-14 審判は下る

「儂の兵になれ!」


そう叫んだレマルギアが投げたのは、足を折りたたんだ”蟲”。


それが足を開き、背を向けていたカルテリコスの後頸部に取り付く。


レマルギアから目を背けていたターロは反応が遅れた。


「しまった!」


気付いたターロが瞬間移動で近付こうとする前に、どういうわけか、ギギッと苦しそうに鳴いた蟲が首から離れた。


ターロはすかさず唱える。



【ハイ・エレクトリック(高電流)・コーレント】



バッシュッ!


蟲の中身が焦げる嫌な匂いが立ち込めた。


レマルギアは調停者とエリューに取り押さえられている。


「ぐ、ぐおお、何故とりつかん?!」


押さえつけられているレマルギアが呻く。


ゾンビにしたカルテリコスに守らせて逃げようとでも考えたのだろう。


「あの頸環(トルク)、、、微かに魔力を纏っています」


メトドがカルテリコスのトルクを見てターロに言った。


「魔力ですか?」


メトドの側にいたテュシアーが訊く。


「そうだ。あれには何か邪悪な物を退ける性質があるようだ」


「邪を退ける、、、あのトルクにその様な力が、、、」


テュシアーは精霊銀(ミスリル)のトルクを凝視している。


「、、、そういう事かぁ。 ユーキリスさんも、カルテリコスも、思人(おもいびと)に守られたんだね。そんな不思議が、二度も続くなんて、、、」


許嫁からの贈り物だと言っていたな、と思い出したターロが呟くのを聞いてテュシアーが、


「思人、、、人を想う強さが?」


と、考え込む。


「済みませんターロ様。隠し持っていた蟲と、体内のものを混同してしまいました」


メトドは詫びるが、


「いや、起動前だったからあれには気付けないよ。俺も分からなかった」


ターロ達は砂漠調査団長のゼーロと同じ様にレマルギアの体内に蟲が仕掛けられている事は見抜いていたが、蟲のゴーレムを所持していることまでは分からなかった。


それも腹の脂肪の間に隠し持っていたのだ。


体内にあるように感知してしまい、見つけられなくても仕方ない。


場内は騒然となったが、調停者が声を上げる。


「採決するまでもない。この男が人に取り付く蟲を所持し、使役しようとしたのは皆も見たとおりだ! 審判を下す。 レマルギアは有罪! 死刑とする!」


会場は同意の拍手で包まれ、部族審判は終わりとなった。


そこへ、パヌルが怒鳴りながら入って来る。


「これは何の集まりだ! 盟主国の公使を差し置いて何をしている!」


御冠(おかんむり)である。


部族審判が始まってからの会場は神聖な法廷の場。


何人(なんぴと)たりとも途中での入退出は許されない。


結果パヌルは閉め出された形になっていた。


「うわっ、本当に間が悪いな」


鬱陶しげに顔を顰めるターロ達。


取り押さえられているレマルギアを見て、パヌルが喚く。


「何故将軍が取り押さえられている!」


「公使様、お助けを。反逆者の息子と従弟が私を無実の罪で陥れ、この国を乗っ取ろうとしているのです!」


レマルギアはこれを逃すと助かる目はない、とばかりに必死に訴える。


将軍に公使様と持ち上げられていい気になったパヌルは、


「なんだと! そのようなことが許されるものか! その男を放して、この盟主国公使であるパヌルに一から説明しろ!」


と醜く喚くが、すかさずリトスが、


「その者は公使などではありません。勝手に付いてきただけで何の権限も無いのでお気になさらず!」


ピシャリと言い放つ。


リトスに気付いていなかったパヌルはぎょっとなった。


そもそも取り押さえているのはエリューなのだからここにリトスがいる事に気付けよ、とターロは心の中で突っ込む。


リトスはパヌルを一顧(いっこ)だにしないで一歩前へでると、その場の皆に聞こえるよう言った。


「この審判はケパレー魔法国にして連邦盟主国の第一王女リトスが見届けました!」


水を打ったように静まり返った会場に、凛とした声が響き渡る。


「スケロスが帝国の工作により、先の反乱をおこすよう仕組まれた事は明白。あの不幸な出来事は過去の事と水に流し、連邦の未来の為に手をとりあいましょう! そしてこの様な卑劣な手を使う帝国に共に立ち向かおうではありませんか!」


会場から大喝采が起こる。


姫の言葉に皆の心は一つになった。


「ターロ様、、、」


「うん。凄いもんだね、、、」


これがケパレー王家の血を引く者。


無意識ではあるが、リトスはその声に魔力を込めていた。


その言葉は聴く者の心に深く突き刺さる。


精神魔法の一種だ。


魔力の流れが見えるメトドとターロだけが気付いた。


悪用されれば恐ろしい力だが、指導者としては必要な力でもある。


皆が一体となり盛り上がっている中、呻いているものが一人いた。


「帝国に、、騙された、、」


レマルギアが悔しそうにしている。


「オマエなど悔しがる権利もない! 父やモノミロス、義母(はは)上と、そして内乱で無駄死にした者達にあの世で詫びるんだな!」


「儂は、、、儂が、将軍だ!」


天馬(ペガサス)に乗れぬ将軍がどこにいる!」


カルテリコスがレマルギアの頭を踏みつけた。


「中にいる蟲はどうしましょう?」


メトドがターロに訊く。


「え〜、どうする? 言っちゃう?」


面倒そうなターロ。


「そうすると自爆してしまうのでは、、、」


とメトドが言うが、


「いんじゃね? どうせ死刑なんだし」


と興味なさそうにターロは応えた。


「何のことですかな?」


二人の会話に疑問を持ったオケイオンが尋ねと、


「こいつの体の中にも蟲が仕込まれているんですよね〜、砂漠管理団の団長と同じやつ。 団長のはっすね、ばれた瞬間に自爆しましてね。団長、苦しみながら死にましたよ〜。そりゃぁもう、内蔵グッチャグチャ」


そうターロは態とらしくレマルギアに聞こえるように答え、


「こいつのもそのうち自爆するんじゃないですかね〜」


とせせら笑ってレマルギアに一瞥をくれるや、


「い、いやだー! そんな死に方はしたくない!! 何でもする、なんでもするから助けてくれー!!」


レマルギアが見苦しく命乞いしだすのを、


「お前のした事で、大勢の者が命乞いも出来ずに死んでいったのだ! 騒ぐな!」


カルテリコスが踏みつける足に更に力を込める。


「あがぅうぅ、、、」


頬を踏まれて口が開き呻くことしか出来ないレマルギア。


「じゃあ、こいつは死んじゃっていいんですよね?」


と確認してから、ターロは抑え込まれているレマルギアの背中辺りに語りかけた。


「おーい。聞いているんだろー? 出てこいよー」

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