4-13 部族審判
「何が起きたのだ? 角笛を鳴らしたのはお主か?」
オケイオンを見付け寄ってくる者達。
中央天幕には既に他のペガサスライダー全員が集まっていた。
流石に行動が早い。
国の重役達はまだほとんど来ていない。
「アソーティタ将軍の名誉挽回が出来るぞ! 王家の特使殿が無実の証拠を見つけてきてくれた!」
「なんと!」
皆、沸き立った。
オケイオンは"アソーティタ将軍"と"前"を付けずに呼ぶが、誰も訂正しない。
角笛を聞いてぞろぞろと集まる最後のほうにやっとレマルギアが来て、
「何事だ! 角笛を鳴らすからには大事が起きたのであろうな! くだらない事ならただでは置かんぞ!」
オケイオンに不機嫌に言い放つと、その横のカルテリコスが目に入り驚いて動きを止めるが、直ぐに、
「カルテリコス! どの面下げて帰ってきた! 皆のもの反逆者の子だ! 捕縛しろ!」
と周りの者に下知を出す。
それを、
「待てーい!!」
遮るオケイオンの腹の底からの大音声が響き渡った。
皆が注目する。
「レマルギア。お主にはアソーティタ将軍を怪しき術で陥れ反逆行為をさせた嫌疑がかかっておる。よって儂はペガサスライダーの名誉にかけて部族審判の発動を宣言する!!」
それを聞いてパオ内がどよめいた。
「何? 部族裁判って」
ターロが小声でカルテリコスに訊く。
説明によるとこうだ。
"部族審判"
平原の民がまだ部族ごとの少人数で遊牧生活していた頃からの慣わし。
これを発動したものは、相手が無実だった場合、名誉を全て剥奪され追放される。
しかし、審判にかけられた者が逃げる事は勿論、権力による枉断も許されない。
現在の決まりでは、判決はそれぞれの言い分を聞いた後、被告・原告以外のペガサスライダー全員と両統の代表者で決議する。
そして審判は全てを優先する。
「な、何を馬鹿な! そんな事が、、、」
「黙れレマルギア! 部族審判であるぞ! 申し開きは全員が揃ってからだ!」
オケイオンに一喝され青褪めながら口をつぐむレマルギア。
心当たりしかない彼は何とかしてこの場を逃れようと頭を巡らせるが、良い案を思いつけるはずもない。
周りを見渡しても味方だと思っていた者も目すらあわせてくれない。
部族審判とはそれほど神聖かつ強い強制力を持つものなのだ。
やがて、審判を開くに足る人数が集まった。
「ターロ様、、、あの男」
レマルギアの方を見てメトドが言う。
「あの感じする?」
「はい」
短く確認し合った。
原告と被告には進行権がないので、ペガサスライダーの一人が調停役として場を仕切る。
会場が整えられ、中心の調停者と原告・被告を囲むように椅子が並べられていく。
皆が着席し、調停者が審判の開始を高らかに宣言した。
「これよりペガサスライダー・オケイオンの起訴により部族審判を執り行う。尚この度は盟主国第一王女リトス様にもお立ち会い頂く」
リトスの訪問を知らなかった者がざわつく。
原告、被告はそれぞれ調停者の右と左に座らされる。
レマルギアは爪を噛み足を小刻みに揺り動かしながら場内を睨め回している。
相当苛立っている様子が見て取れた。
「ではオケイオン、皆の前で訴えを、、、」
促されたオケイオンは立ち上がり周りを取り囲む者に訴える。
「オルトロス陛下の特使殿が、ブラキーオーンにて帝国の工作員等を殲滅なさった。その際、工作員の覚書より、二年前のアソーティタ将軍の乱心は仕組まれたものと知れた! 皆のもの! この御方が、その特使のターロ殿だ! 彼の話を聞いてくれ! ターロ殿、お願い致す」
「ご紹介に預かりましたターロです」
どうもどうも、と右手をチョンチョン振りながら腰を低くして中心へ歩み出ると、ブラキーオーンでの顛末を話し、覚書を調停者に渡す。
「確かに特使殿の言うとおりの事が書いてある。その、"蟲"とやらをアソーティタ将軍に寄生させるため、、、副将軍を使う、だと? 、、、副将軍は、将軍の地位欲しさに進んで協力している、とあるぞ!!」
読み進めるうちに調停者の声は激昂していった。
レマルギアは苛立ちのあまり、頭や首・顎の下を掻きむしっている。
「申し開きはあるか! レマルギア!」
レマルギアは、座ったまま不貞腐れたように言った。
「そんな覚書、信用なるか! どこの馬の骨とも知れん奴らの持ってきた物が何だというのだ! 大方そこのカルテリコスが、金でも払って仕込んだのだろう! こんな茶番に付き合ってられるか!」
「聞き捨てなりません!」
リトスが発言を求める。
許可の意を表すため頷く調停者を見て、続ける。
「彼らは間違いなく、我が王家の特使です! 馬の骨などではありません!」
王女の言質があるのだからもうどうにもならない。
「それと〜」
ターロも発言する。
「この書類は間違いなく、帝国工作員の潜伏先で、押収したものです。ブラキーオーンの評議員が二名立ち合ってますよ。必要なら確認してください」
「もう言い逃れは出来んな」
オケイオンが王手をかけるように言うと、
「私にも一言!」
カルテリコスが立ち上がった。
「皆さん! 私のいない間に、モノミロスや義母上様が自害したというのは本当なのですか?!」
レマルギアは首元から手を入れて、胸や脇の下を掻きむしっている。
ターロは汚いので見ないようにした。
「なぜ彼女らが死なねばならなかったのだ! この男に何をされた! 皆は黙ってみていたのか!」
聴衆に向かって必死に訴えるカルテリコス。
その時、彼の背後に座り服の下から手を入れて腹を搔いていたレマルギアが、手を引き出しいつの間にか握っていた何かをカルテリコスへと投げつける。
そして、左手にはめた指環の宝玉に魔力を流し込んだ。