表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第四章 草原の国 ”スケロス”
104/678

4-12 角笛は鳴り響く

「何だか変な邪魔が入っちゃったけれど、当初の目的を果たそう。カルテリコス、従叔父さんのところに案内してよ」


スケロスは平原の国。


もともとは皆が遊牧民で、定住していなかった。


少人数の集団ならそれでよかったが、国家として形がととのってくるとそうはいかなくなる。


常に移動する生活ではいざという時連絡が取れず、不測の事態に対応できない。


定住し、街をつくると食料が必要なので、遊牧だけではなく農業を始める必要が出てくる。


そこで選ばれたのが川の南側の広大な土地だ。


ここはたまに起こる川の氾濫によって運ばれる栄養をたっぷり含んだ肥沃な大地が広がり農業に適していた。


定住しだしても遊牧時代からの伝統的な天幕式家屋(パオ)で生活している者がほとんどで、川が氾濫しても大した被害はない。


街の中心に将軍の執務室兼居住用の超巨大なパオがあり、そこから放射線状に整地され割り当てられた区画に住民がそれぞれのパオを設置している。


将軍のパオは直径三十メートルはあろうかというもので移動の際、流石にいちいち解体してまた組み立てるのは大変なので下に板と車輪が仕込まれていて馬五十頭で牽くと動くようになっている。


移動時は大地が動くような錯覚を覚えるほどの壮観さだという。


従叔父のオケイオンは、カルテリコスの思っていた場所にはいなかった。


住民に聞いて分かったが、内乱の首謀者の従兄弟だということで、区画替をされ、中心から少し離れた所に移されていた。


天馬を駆る者(ペガサスライダー)なので流石に平民扱いは出来ず、一応上流階級区画の中ではあった。


従叔父(おじ)上!」


パオの横の広場で弓の稽古をしていたオケイオンを見つけ、カルテリコスが思わず声をかける。


それに気付き振り向いたオケイオン。


「、、、カ、カルテリコスか?」


「そうです! 私です!」


と言って、変装のために被っていた頭巾をとる。


「心配していたのだぞ! どこへ行っていたのだ!?」


駆け寄って腕を取り合う。


「従叔父上、聞いてください」


父の無実を話そうと心逸るが上手く話せない。


「と、とにかく中へ入ろう。後ろの方々は?」


「それも話すと長くなると言うか、、、」


自分自身もよく分かっていないカルテリコスの説明によると、リトス王女とその護衛に、隣国の氏族長の娘、謎の少女と特命を受けた樹海の魔術師達、その中の一人は一応内緒だがライン王子だという。


あまりの顔ぶれに(にわか)には飲み込めないオケイオン。


「ど、どう言うことだ?」


「従叔父上、私も何がなんだか、、、」


(らち)が明かないのでターロが王家の手形を見せながら、切り出す。


「ともかく前将軍は、填められたのです。その首謀者は現将軍のレマルギア。彼を断罪しこの国を正常に戻すために、国の重立った者を集めて頂けませんか? 皆の前で話します」


「王家の、、、そ、そうか、、、やはりアソーティタは反逆者などではなかったか、、、」


朧気ながら事態を把握して、尊敬する従兄の汚名を(そそ)げると分かるや、男泣きに泣くオケイオン。


二年の間、鬱積していたものがあったのだろう。


つられてカルテリコスも嗚咽する。


「モノミロスと母様も、、、」


「そ、そうなのだ、、、おのれ、レマルギア。 うむ、カルテリコス、泣いている場合ではないぞ、彼女らの無念も晴らさねば。 よし、皆を呼ぼう!」


パオから角笛を取ってきて高らかに吹き鳴らす。


パホーーーーン! パッ パホーーーーーンッ!!


街中に響き渡ったであろうそれは、集合の合図だそうだ。


ペガサスライダーは全ての役職・権限を超えて角笛で緊急事態を宣言する事が出来る。


「さあ、中央天幕へ急ごう。皆、集まるはずだ。儂も天馬を連れて行く。お前のプテリュクスはどうした?」


「置いてきましたが今呼びます! 火を拝借できますか?」


それを聞いて、待っていたとばかりにメトドが、


「私が()けよう」


と指先に火を灯す。


「ありがたい」


カルテリコスは懐から取り出した(たてがみ)をその火で燃やした。


「本当にこれで来るのか? 、、、あっ、薄っすら魔力が、、、」


興味津々のメトドには燃える鬣に何か特別な物が見えるらしい。


「メトド様。なにか見えるのですか?」


テュシアーも目を凝らすが何も見えない。


「我々も不思議には思っているのですが、、、、。原理も分からないままずっと使っています」


カルテリコスは燃え尽きた鬣の灰を払うように手を打ち合わせて、


「ともかくこれで相棒はやって来ますよ」


と爽やかに笑うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ