4-11 パヌルが残された
「うわっ、面倒くさいのが来ちまったよ」
ターロが顔を顰めて、
「カルテリコスのことは内緒ね。話がこじれるから」
皆にそう言ったところでパヌルが入ってきた。
「お前らか、樹海の魔術師と言、、、お、お前はライン! 生きてい、、、」
「無礼でしょう、パヌル!」
ターロを見て目を白黒させ驚くパヌルをリトスが叱責するが、
「リトス姫、、、こ、この男は亡国の王子。今は平民以下の難民だ。無礼も何もないでしょう」
ケパレーの魔道士が着る紫がかった黒い裾長衣。
これもケパレーで一人前の魔道士になると持つ事を許される先端に貴石の嵌った杖。
ケパレーの貴族の慣習通り眉の上で切りそろえた前髪に後ろに垂らした長髪。
いかにも狡猾そうな慳のある目。
そんなパヌルがいやらしく嗤って言うのを、リトスは、
「いいえ。彼は陛下の特使です。彼への侮辱は陛下への侮辱!不敬罪で成敗しますよ!」
怒り心頭だが、ターロが宥めに入った。
「まあまあ、リトス。こんなやつにどう呼ばれようと、俺には何の痛疼もないよ」
”こんなやつ”呼ばわりされて顔色を変えているパヌルに向き直り、
「今の俺は階級に縛られない自由な身でね。お前が貴族様だからって敬意を払う気は露ほどもないんだよ。忙しくてお前の相手をしてやれないんだ。悪いな。どいてくれ」
パヌルは、自分の知っているおっとりとした与しやすいライン王子とあまりにも違いすぎる言葉を聞いて、口をぱくつかせて、絶句している。
「じゃあ、行こう」
皆を促して出ていくターロ達。
衛兵の詰め所を出ると後ろから声がかかる。
「待て! キサマ何者だ?! ライン王子がその様な口の利き方をするものか! 贋物め、姫から離れろ!」
とパヌルが怒鳴る。
振り返ると杖を構えて攻撃呪文を放とうとしているので、
【フィンガーフリップブレット】
ターロの指弾がパヌルの杖に命中。
パヌルはその衝撃に杖を落としてしまう。
「お、中った。どおよ、メトドさん。あんな細いのに中てたよ」
「お見事です」
「いや〜練習すれば出来るもんだね、やっぱさぁ、 為せば成る〜、為さねば成らぬ〜何事も〜」
アウロが後を引き取って、
「成らぬは人の〜為さぬなりけり〜」
旅の間、何度も聞いたのでアウロは暗誦していた。
あははは、と笑いあって、パヌルの事は眼中にないかの如く、楽しそうに雑談をしながらまた歩き始める。
「き、き、キッサマー!」
パヌルは顔を真っ赤にして怒っている。
こんなに虚仮にされたのは生まれて初めてなのだろう。
それに対して、
「煩いな〜。そもそもオマエの魔法の発動が遅いからこんな事になるんだろ。もっと修行しな。あっ、あと面倒だから今後、絡んでこないで。しつこい男は嫌われるよ」
とターロが言い捨てる。
皆ターロの言葉に笑いを噛み殺していた。
去っていく一行を睨みつけ歯軋りするパヌルがこう呟いた。
「、、、ライン。 何故生きている? 、、、しくじったのか?」