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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第四章 草原の国 ”スケロス”
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4-10 パヌルが来た

「アイツが来てるのか、、、」


パヌル。


年齢はライン王子より二つ三つ上だったはずだ。


メタメレイアの高弟の一人で、ライン留学時には何かと張り合ってきた、正直、煩わしい存在で、連邦設立前から続くケパレー魔法王国の貴族の長男。


王位継承権こそないものの序列がかなり上の家柄なので、人格に難があっても排除もできない。


ラインには、育ちのよさからくる柔和なところがあったため彼とは揉め事にはならなかった、いや、ラインが彼を相手にしていなかったというのが正確なところだ。


リトスに懸想しており、あわよくばリトスを物にして王族に連なろうと考えているらしい。


更には魔法の実力は全くないくせに政治力で宮廷魔術師の座も狙っているという野心家だ。


そんなパヌルに対し、ライン王子の顔をした男があからさまに不快を示し”アイツ”などと呼ぶのを見てリトスのお付きの三人は驚いたように顔を見合わせた。


ライン王子ならけっしてそんな態度をとったりしないだろうに目の前のターロと名告る男は大分くだけた性格をしているらしい。


「”アイツ”、だって。あたしはこっちのライン王子もいいな」


エリューがニヤッと笑う。


「ははは、エリュー、今の俺なら一緒に街へ繰り出して酒だって呑めるよ」


とターロも調子にのる。


「お兄様! リトスをおいてお酒ですか!」


すかさず膨れっ面で割ってはいるリトス。


「姫にはまだ酒は早いかな〜」


エリューがリトスをからかうそっちの馬鹿話には参加せず、キュアーノは話を続けた。


「パヌルは、姫が特命を受けた樹海の魔術師を訪ねに出る、という話をどこからか嗅ぎつけ、頼まれもせぬ目付役をかって出て、、、父のヴロミコスに泣きつき貴族院を動かして強引に同行してきたのです、、、」


苦々しげにキュアーノが言う。


彼の父はケパレーの中で大きな発言力を持つ貴族院の実力者の一人だ。


貴族院からの要請は王家でもそう簡単に断れない。


「樹海の魔術師を、って、俺の事をパヌルは知らない?」


「はい。ライン様が生きていらっしゃる事実は最高機密扱いです。王妃様、メタメレイア様、それと姫に近い我々にしか知らされていません」


「訪ねる相手がライン王子だと知ればもっと強硬に妨害してくる事は分かりきっていますしね」


と、クローロが続ける。


リトスがターロに懐いているため、パヌルは一方的にターロを敵視していた。


「それで、勝手(・・)についてきた”アイツ”が、勝手(・・)にこの国のお偉いさんに要らない事を言って、気を使わせたってわけ」


エリューが締めくくった。


「そう言う事なのです。国権を振り(かざ)すのはくれぐれも慎むようメタメレイア様に言われていたのに、、、困ったものです」


とリトス。


「権力大好き男だったからな〜。盟主国の威光を笠に着る機会を逃すはずもないか」


と呆れ顔でターロが言った。


そこへ、ドーラが寄ってきてピトッとターロに後ろから張り付く。


ずっとリトスがターロに抱きついているのを見て羨ましくなったのだろう。


そのドーラを見つけたリトスは早速話しかける。


「まあ! かわいい〜! 私はリトス。あなた、お名前は?」


「、、、どーら」


「ドーラちゃんね? なんて綺麗なお目々と御髪(おぐし)。もっとよく見せて」


初対面なのにグイグイくるリトスに怖気づいたのか、ドーラはアウロの後ろに隠れてしまった。


それを気にしたりせず今度は目に入ったアウロに、


「あら、あなた。樹海の魔術師ね。私より若そうなのにもう精霊樹の杖を貰ったの?」


と絡むリトス。


えっと、、、と視線を泳がせアウロがターロに無言の助けを求めるので、


「ちょちょ、リトス、、、皆、困っているじゃないか」


ターロが嗜める。


「タ、ターロ殿、、、貴方はライン王子?」


混乱の極みのカルテリコスがやっとここで口を開いた。


「ああ、済みません、カルテリコスさん。忘れていたわけじゃぁないんですよ」


言い訳がましくターロが謝る。


「色々ありまして俺の体は確かにライン王子のものですが、中身が違いまして、、、まあそこら辺のことは追々説明します。あれ? これって秘密だったんだっけ? ともかく俺はターロ。それ以上でもそれ以下でもない。ああ〜面倒だ! これから共闘するんだから堅苦しい関係は止めにしよう。ターロ、カルテリコス、の仲でいくよ」


ターロがニカッと笑って右手を出す。


一瞬あっけにとられたカルテリコスだが、直ぐにその手を握り、


「ああ、宜しく頼む、ターロ」


と、爽やかに微笑んだ。


「そのお方が、カルテリコス様なのですね。私はケパレー魔法国第一王女が近衛、キュアーノと申します」


話を聴いていたキュアーノが堅苦しい自己紹介と敬礼をした。


「だから、硬いって、、、。アルテューマさんの手紙を読んでここへ来たってことは大体のことは把握しているよね?」


とターロが訊くと、頷いたキュアーノが応える。


「ええ。皆、手紙を読んで、やはり、と言う感想しか浮かびませんでした。あの内乱はおかしなことばかりでしたから」


「お兄様、さすがです! 短い間にこんなに調べ上げるなんて!」


ターロ達の旅の成果にリトスが感心していると、外から声が聞こえてきた。


「ここか、樹海の魔道士というのがいるのは。やっと見つかったのか。手間をかけさせやがって。どれ、田舎者の顔を見てやろう」

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