4-9 待ちきれず
「俺たちがここで待つと衛兵さん達の首が飛ばない代わりに、俺たちの首が飛ぶの?」
衛兵の懇願に対し、ターロは冗談めかして返してみるが、
「いえ、そのような事は、、、ないと思いますが、、、。我々も詳しくは聞かされていないのです。ともかく王家の手形を持つ者はお引き留めしろ、との厳命で、、、」
と歯切れが悪い。
(まあ、何か理不尽なことをしてくるようなら、ひと暴れすればいいか)
と物騒なことを考えるターロだが、皆を見ると、同じ考えのようだった。
開き直ると、急に強行軍の疲れが出てくる。
食事を要求すると、すぐに作りたての平焼き麦餅の肉野菜挟みが出てきた。
「待遇はいいね。やっぱり首を刎ねる気はないのかな?」
などと言いながら毒がはいっていないかを魔法で確認。
大丈夫なので美味しく頂いて、昼寝。
椅子での昼寝なので少しして皆起きるが、まだ何も言ってこない。
いつまで待たせるのだろう、と思い始めた頃、知っている気配がする。
バン!
勢いよく扉が開かれ、入ってきた人物がターロを確認するといきなり飛びついた。
「お兄様〜〜!!」
「リ、リトス!? なんでここに?」
驚きながらも、リトス王女を抱きとめてターロは尋ねる。
メトドは面識があるが、他の者も”リトス”といえば連邦盟主国の王女であることくらい知っている。
その王女が、ターロに飛びついて胸に頬ずりをしている目の前の光景をどうすればよいのか分からず動けずにいた。
「待ちきれなくて、来ちゃいました」
えへっ、という顔をするリトス。
「おいおい、陛下は御存知かい?」
「知っています。最初は自分で行くって、煩くて、メタメレイア様に叱られていました」
「煩いって、、、」
苦笑するターロ。
メタメレイアは現宮廷魔術師で、魔術学院の学院長でもあり、大賢者イッヒーの高弟だ。
彼こそ後継者だと言われていたが、何故か辞退している。
そしてライン王子留学時の専任教師でもあった。
アルテューマからの手紙が届き、次にターロ達が向かうのはスケロスと知るや、オルトロス王、自ら赴こうとするも流石に止められたらしい。
そして代わりにリトスが、よい修行になるから、と、メタメレイアの許可を貰って来たということだった。
「そうか。メタメレイア様のお許しが出ているのなら問題ないね。でも、他国の検問所を私的に使うのは感心しないな」
そうターロがリトスに言うのに対して入り口から声がした。
「いえ、リトス様の命令ではありません。リトス様はむしろ反対し止めさせようとなさいました」
見ると、女性剣士三人が立っていた。
王女の近衛、キュアーノ、エリューにクローロ。
ライン王子留学時からのリトスのお付きの護衛で、勿論ラインも彼女らのことはよく知っている。
三人とも優秀な魔法剣士だ。
「お久しぶりです。ライン王子。姫よりご無事と聞かされていましたが、信じられませんでした。今こうしてご尊顔を拝しても尚信じられません。またお会いできて嬉しゅうございます」
そう挨拶するのは青い武具で身を固めたキュアーノ。
長髪を編み上げた髪で束ねている。
いかにも優等生風。
「キュアーノ、、、久しぶり。俺も嬉しいよ。でも相変わらず堅苦しいな」
この答えに三人は顔を見合わせる。
彼女らの知っているラインは”俺”などという一人称は使わないし、キュアーノの口調を堅苦しいなどと指摘する事は一度もなかった。
「本当に中身はライン王子ではないのですか?」
今度はクローロが訊く。
緑が基調の服装。
おっとりした印象だが、背負っているのは男でも振るのが難しそうな大剣だ。
「そうだよ。今はターロと名乗っている。そっちで呼んでもらえるとありがたい。ただし全くの別人ではなくってライン王子とは融合したんだ。だから君たち三人のことはちゃんと覚えているよ。例えばエリューがリトスに悪い事ばかり教えていたとかね」
とライン王子の記憶にある二人で城を抜け出して叱られていた事などを言ってみる。
「、、、そういうのは忘れてくれてもいいのに、、、」
恥ずかしそうにする彼女の軽くて動きやすそうな鎖帷子の金具は赤で統一されている。
それが赤い癖のある長髪とよく調和していた。
「本物なのですね?」
キュアーノが確認するように言うが、
「疑ってたの?!」
とリトスが頰を膨らませるので、これ以上の追求はなかった。
「それより、この検問所に命令を出したのがリトスじゃないのなら誰なんだい?」
ターロが話を戻す。
「それは、、、」
言いたくなさそうなリトス。
「パヌルよ」
代わりにエリューが吐き捨てるように言った。