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【第28話】アレックside - 不躾な娘 -

アレックは母親に予告された来るつもりのなかったリリアーナのお茶会が催されている部屋の前で無言に扉を凝視する。


ランディア家の爵位を継げない自身を上貴族の娘へと縁談にこじつけたい母親の思惑通りの行動をとって喜ばせるのは後々の面倒事に発展しかねない為に是が非でも避けたいところだが、フォスター卿の娘に感じた説明のできない違和感の正体をつきとめるには再び会ってみるしか術はないのではという思いに、足が勝手に妹のお茶会の場へと向かってしまった。


「アレック坊っちゃま。扉をお開け致しましょうか?」


ノックもせずに扉の前に立つだけのアレックに使用人が声を掛ける。


「…あぁ、頼む。」


扉の前で踏みとどまったものの、使用人へと承諾の言葉を口にしたからには致し方ないと後々の面倒ごとへの覚悟を決める。


ゆっくりと開かれる重厚な両扉に、お茶会へと訪れる代償は大きいが、違和感の正体を必ず突き止めてやると決意を新たに臨む。


扉が開かれた瞬間に一番手前に座るフォスター卿の娘の後ろ姿が目が入り、マナーに反すると分かっていても思わず凝視してしまう。


「お兄さま!」


妹の嬉々とした声に我に返り視線を剥がし笑顔を作る。フォスター卿の娘を観察したい衝動に蓋をして何食わぬ顔で通り過ぎ、妹の元へと歩み寄る。


「またお兄さまにお越し頂いて嬉しいです!」


屈託なく微笑む妹の顔にアレックの心はチクりと罪悪感の棘が刺さる。


「リリィ、いつも突然に来てしまって申し訳ない。」


「いいんです。お兄さまはいつもルイドリッヒ王子殿下のお手伝いでお忙しいのに私のお茶会に顔を出してくれるだけで嬉しいです!」


リリィの言葉にお茶会に集まった令嬢達は言葉にならない吐息を口にする。


「今、皆さんとルイドリッヒ王子殿下のお話しをしていたんです。」


リリアーナの言葉に傍観する令嬢達は固唾と息を飲み、目を輝かせている様子から歳幅も離れている普段拝謁する事のできないルイドリッヒの情報が少しでも欲しいのだろうという事は意図も簡単に察する事ができる。


アレックはこの手の状況に些か辟易していた。

今年から通い始めた王立の学舎でも簡易に近寄る事のできないルイドリッヒとお近付きになりたい令嬢方が側近である自身に言葉巧みに言い寄ってくる。


無下に断れば良家の子女のプライドを傷付け、家の権力に物を言わせて問題事に発展しかねない為に無駄に神経を使う。


とはいえルイドリッヒを煩わせる事は側近としては避けなくてはならない暗黙の了解。女子達はよほどに夢物語の王子が好きなのか、はたまた権力の頂点を狙っているのか、親からお近付きになるよう言われているのか真相は定かではないが彼女達の目には異様なまでの執念を感じる。


この類の欲望は令嬢方の求める物を何かしら与えないと収拾が付かないことも嫌と言うほど経験している。


「第一王子殿下は常に国民の事を第一に考えていらっしゃる、とても優秀な方だよ。」


言い慣れた差し支えのない言葉がさらりと口からでる。


アレックの言葉に合わせて令嬢達の食いつくような目の輝きは幾度となく見てきても未だに慣れずに目を背けたくなる。


そんな中、フォスター卿の娘に視線を向けると一人だけ目の前に振る舞われた菓子に手を伸ばし口へと運んでいる様子が妙に異質に浮いている。


周りの令嬢達は身体を乗り出すようにこちらへと顔を向けているのにも関わらず、フォスター卿の娘だけが我関せずと優雅に菓子を頬張り、慣れた手付きでお茶を飲み、狙いを定めているのであろう菓子を確実に口へと運ぶそのそつのない所作が余計に癇に障りアレックの苛立ちをさらに増長させる。


前回もそうだったが、年上であり目上でもある人間が話しているというのに、目の前の菓子やお茶に手を伸ばす行為は躾のなっていない犬を見ているようであまりにも不愉快極まりない。


「お兄さま、ルイドリッヒ王子殿下は剣の腕前も素晴らしいとお聞きしましたが本当なのでしょうか?」


夢見る少女のように瞳を輝かせながら上目に見つめているリリアーナの質問に、不躾で不快な娘に気を取られていたアレックは自分を取り戻して妹へと笑みを返す。


「そうだね。殿下の事や王宮の事はあまり口外してはならない決まりにはなっているけれど、ルイドリッヒ王子殿下の剣技の才は素晴らしいよ。」


「まぁ!ルイドリッヒ王子殿下のお噂は本当でしたのね!幼少より剣技を嗜むお兄さまが認める程に殿下は剣技がお得意でいらっしゃるなんて。」


リリアーナが胸の前で両手を握り、さらに目を輝かせてうっとりと天を見上げる。妹も含め集まった令嬢達も我が国の第一王子へと夢を馳せている様子に退室の頃合いを見出す。


アレックは初見こそ見誤ったが、フォスター卿の娘に抱いた違和感は貴族の子女には有るまじき不躾さを自ずと感じとって違和感を抱いたのだと納得し、不快な自問自答から開放された悦びに満足して妹のお茶会を後にした。


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