【第26話】アレックside - 自問自答 -
名家であり上貴族である伯爵家の出自だとしても家督を継ぐ者以外は婚姻か養子、または騎士となるか功績を立てなければいつか平民に落ちる身である事は重々承知している。
易々と平民になるつもりはないが、小さい頃より覚悟をしているせいなのか平民という立場に対して周りの貴族よりも偏見がない自負がある。
それ故に爵位が低いからといって侮った事など一度もないと言うのに、何をされたわけ訳でもなく初めて見知ったフォスター卿の娘に感じた嫌悪と似てるようで全く違った別の「何か」の正体は一体何なのか未だに分からない。
その異質な存在を安易に受け入る事ができないのは何故なのか、突如として浮上した不快な感情は何なのかと三日三晩もの間、自問自答するも答えは未だに出ない。
「アレック、フォスター卿の令嬢はどんな娘だった?」
頼んだ偵察内容をなかなか話そうとしないアレックに業を煮やしたルイが執務中にも関わらず聞いてきたが、アレックは執務の忙しさに考えないようにしていた自問自答が再び呼び起こされ、連日の答えの出ない苦悶の余りの不快感に目を瞑る。
「…それ程までに目も当てられないほどの令嬢だったのか。」
書類から目を離さずに問いかけてくるルイのその言葉に、貴族たるもの自身の感情を悟られてはいけないという幼い頃より教え込まれ染みついた貴族の矜持に我に返る。
「いえ…。所作も立居振る舞いも、他のご令嬢方と遜色ありませんでした。」
「そうか。ではなぜ今し方、不快感を露わにした?」
アレックの感情をアッサリと見破るルイの言葉に己の未熟さを知る。
「不快…。そうですね。あえて言うなら、他の令嬢…いや、今まで見知った人達とは違う異質な何かを感じました。」
ルイは執筆に走らせる手を止めてアレックの顔を見る。
「異質な何か?」
「はい。異質と感じた違和感がどこからきたのか未だに説明し難いですが、今まで感じたことのないものを感じました。」
「そうか。」
ルイはアレックの説明し難い“何か”を言及する事はなく、あっさりと引き下がり再び手元の書類へと視線を落とす。
ルイが執務にもどったのをみて、アレックも執務に集中しようとするも、連日繰り広げられている違和感の自問自答に再び苦しむ事となった。
そしてルイドリッヒによって呼び起こされた不快な違和感からようやく逃れて執務に集中できるようになった頃には日が暮れ、連日の寝不足もありアレックは疲れ果てて帰路に着いた。




