【第25話】アレックside - 異質な存在 -
アレックは今年12歳になる妹のリリアーナのお茶会で使用している部屋の扉の前で、ルイの好奇心に巻き込まれた面倒事に今日何度目かの深い溜息が漏れる。
母からはリリアーナのお茶会に顔を出して上貴族の令嬢達に挨拶しろと散々言われているが、あからさまに媚びを売るようで一回も顔を出した事はない。
公言はしていないが、騎士の爵位を足掛かりに自分の力で功績を立て国王となったルイより上位の爵位を賜る事を目標としている身としては妹のお茶会に顔を出すのは是が非でも避けたい。
それなのに毎日顔を合わせる度にあまりにも執拗なルイからの偵察の催促を流せなくなり致し方ないと渋々覚悟を決めたのはいいが、ルイが興味を持ったフォスター卿の娘の顔など知らないし、果たして初見で見分けられるのだろうかという疑念が思い返される。
令嬢達の外見はみんな同じに見えて、紹介されなければ正直見分けがつかない。
リリアーナのお茶会に呼ばれるのは決まって生粋の貴族の令嬢か富を得た新興貴族の娘達。
きっとどこかで顔を合わせ紹介されているだろうから消去法で見覚えのない令嬢を割り出すしかない。
(…しかし面倒だ。)
アレックはもう一度、深い溜息を吐いて扉をノックした。
「アレックお兄様!どうされたのですか?」
すぐに使用人によって扉が開けられると、今まで一度たりとも訪れた事のないお茶会の場に初めて顔を出した兄へとリリアーナは驚きと嬉しさに弾けるような笑顔で駆け寄って来た。
家族といえど、人というものにあまり興味を持てないが、見知った令嬢達のようにアレックに対して媚を売るわけでもなく親の爵位に奢る事ない純真な妹にここまで懐かれると可愛く思える。
「子女のお茶会の場に突然、押しかけて悪かったね。足りない物はないか?」
王子の頼みである令嬢を偵察しに来たとは言える筈もなく、妹を気にかける兄のもっともらしい言葉を選ぶ。
「ふふふ、お兄様に気に掛けて頂いて嬉しいです!」
アレックの言葉を受けて純粋に喜ぶリリアーナに笑顔で応えて、目当ての令嬢は何処かと嬉々とした様子でこちらを伺い見ている令嬢達に目線を向ける。
令嬢達の何とも言い難いその視線に見せ物小屋の動物にでもなった気分になり、作った笑顔の口元が引き攣るのを感じたが、幸い目当ての偵察対象の令嬢はすぐに見つかった。
長テーブルの出入口近くの下座の隅の席に鎮座し、上座に位置するこちらに視線を移すも特に気にする様子もなく何食わぬ顔で再び振舞われた紅茶を啜る少女。
下座の最下位の席という事に恥た様子も諂う様子などは一切なく、座る位置など関係ないとばかりに姿勢を正し優雅に紅茶を啜る所作は周りの令嬢達と比べても遜色ない。
それなのに、その存在に酷く違和感を覚える。
自分が抱いた感覚にも関わらず、彼女の何に対して違和感を感じているのか理解できない事にひどく困惑する。
「お兄様の席を今すぐ用意しますね!」
アレックの思考はリリアーナによって遮られた。
「いや、お茶会の邪魔をして悪かったね。もう行くよ。」
「お兄様もお茶会に参加してくれればいいのに…残念。」
気落ちして拗ねるように口を尖らせる妹の頭を軽く撫でるとリリアーナは気を持ち直したのか微笑みに返す。
「では皆さん、お茶会の続きを楽しんで。」
アレックは胸に手を当て軽めの会釈と別れの言葉を口にすると令嬢達は「まぁ」だの「あぁ」だの言葉にならない吐息を漏らす中、偵察対象だけが着席したまま姿勢を正し会釈を返していた。
垢抜けなさはあるが、分をわきまえた礼儀作法、周りの令嬢達と比べても遜色ない所作、偵察としてはそれだけで問題ない筈なのに突如として湧いて出た言い知れぬ違和感。
自身の感情なのに断言できない釈然としない感情はたまらなく不快で気持ちが悪い。
アレックはお茶会の場から離れても、彼女に対して感じた異質な違和感の正体がわからず苦悶した。




