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【第17話】- 貴族の華 -

お茶会でご令嬢方の話題がアンジェリー王女の生誕を祝う舞踏会の話しになった辺りから嫌な予感はしていた。


そして例によって空気の読めないリリアーナがマリーヌも招待を受けている事を口走り、その後に何が起きるかも予測できずに、それはそれは可憐な笑顔で話しをこちらに振るものだから、こちらへと集中した令嬢達の視線があまりにも狂気じみた形相と殺気を含んだ空気に身の危険を感じて思わず張り付けた笑顔の奥で身震いしてしまった。


今回の王女の生誕を祝う舞踏会は内輪という事もあってか招待客を絞っているらしく、20名近くいる今回のお茶会の令嬢達の中で招待を受けているのは特に位の高い令嬢と最低位のマリーヌを合わせた数名ばかり。


リリアーナとマリーヌの2人を抜かした令嬢達からの響めきが一斉に立ち上がり、あれよあれよと言う間に予想通り悪意のある辛辣な嫌味の応酬となる。


低位貴族は高位者に何を言われようと耐え忍び、決して怒りを露わにしてはならない。感情を一度でも爆発させようものなら揚げ足を取られ自分の立場をさらに悪くしてしまう。

低位者は”貴族の華”でもある嫌味を華麗に掻い潜り、そして失礼がないように無難な受答えをしなくてはならない巧妙な立ち回りの技術が必要なのである。

嫌味の返答技術が高ければ体裁を保ちながらに高位者をギャフンと言わせられるのだが、残念ながらマリーヌはまだその高等スキルを習得していない。


さっそく勃発した嫌味の応酬は、とある男爵令嬢の「我が国の王族は本当に寛容でいらっしゃるのね。」に始まり子爵令嬢の「ルイドリッヒ王子殿下をお慕いしているのでしたら、憧れに留めておいたほうが身の為ですわよ。」という謎の忠告。「舞踏会の、まして王族主催となると品位と気品が問われるのにそれは不安でしょうね。」などなど、言われた事を全て上げたらキリが無いが大方マリーヌ自身もその通りと思っている事柄や絶対に無いからと笑い飛ばしたくなる忠告がほとんどだったので、さほど苦痛もなく「さようですわね。」と微笑みを絶やさず対応できた。


そんな糠に釘の嫌味の言い甲斐の全く無いマリーヌに苛立ちがピークを迎えた斜向かいに座る子爵家の令嬢の一人が勢いよく立ち上がったと同時に避ける間も無く手元の紅茶をマリーヌの胸元へと勢いよく浴びせたのである。


子爵家のご令嬢の突然の行動にお茶会の場の殺伐とした空気は一瞬止まりはしたが、続いて嘲りを含んだ微かな笑いと心の無い同情の言葉が扇子で口元を隠した令嬢達から囁かれる。


「ごめんあそばせ、立ち眩みに手元が狂いましたの。」

子爵家のご令嬢は周囲の令嬢達に後押しされたのか立ったままマリーヌを見下し気に顎を上げて勝ち誇ったように目を細め、薄ら笑みすら浮かべた。ここまでくるとある種の驚きに言葉を失ってしまう。


マリーヌは苛立ちと妬みに駆られた令嬢の突然の実力行使に不思議と怒りは湧かず、ぬるい紅茶で助かったと心から安堵して、自身の体裁の為に具合が悪いと主張する先方への心配を装って「お加減が悪いのでしたらお座りになられたほうがよろしいですわよ。」と言うと、相手の令嬢は全く動揺した様子を見せないマリーヌに、怒りで頭に血が上ったのか茹でたタコの様に顔を真っ赤にさせて、中身をぶちまけた空のカップをワナワナと震えさせた。


他の令嬢達は怒りに震える子爵家の令嬢と、紅茶をかけられても平然としているマリーヌを交互に目線を這わせ平然としているマリーヌへと嫌悪の視線を強くする。


間も無くして茹でタコのようになる程の怒りから立ち直った子爵家のご令嬢は「わたくしったら突然によろけたものだから、わざとじゃないのよ。」と飄々と誠意のかけらも無い言い訳をして平然と席に座り周りへと同意を求め目線を配る。そして「立ちくらみなら仕方がないですわよね。」と周りも援護する。


そこからたたみ込む様に令嬢達による令嬢達の為の嫌味の第2回戦が始まる。


「マリーヌさんは紅茶で濡れても素敵ね。是非、舞踏会でも是非おすすめするわ。」と謎のアドバイスに、「何度も着る程お気に入りのドレスが台無しになってかわいそうに。」など心にも無い同情心を口にして、紅茶をかけた張本人ですら建前だけでもハンカチを差し出す様子すら無い辺りはアッパレとしか言いようが無く、マリーヌが最も得意とする対ご令嬢用の鉄壁の微笑みも引き攣ってしまう。

そんな人達のハンカチを使う気は毛頭無いが、相変わらずの令嬢達に呆れて苦笑が漏れる。


高位者は下位への言動の全てが許され善であると権力が存在する意味をここに居る令嬢達は盛大に履き違えた勘違いをしているのだろうか、それ故に体裁を整える必要も無いという事なのだろうか。

権力は下位の者を守る為の義務と責任の上に成り立っているというのに、権力が存在する意味や在り方を理解していないとしたら、そんな人達が国を守り民の上に立つ立場にいるなんて国の行く末が心配になってしまう。


一方、お茶会の主催者であるリリアーナは突然の事にそれは驚いた様子で今に至るまでオロオロと慌てふためいていたが、一拍して”自称立ちくらみ令嬢”の体調を必死に心配している。


そんなリリアーナの様子は毎度の事だが争いの発端を無駄に作っては放置し、時には余計な言葉で不必要に令嬢達を煽っている事にいい加減に気が付いて欲しいものだ。そもそも今も令嬢の言葉を真に受けて争いなどとは一切思ってはいないだろうし、マリーヌへと向けられた嫌味の言葉も表面上しか汲み取れてはいない素振りで、上位者からのアドバイス程度にしか考えてはいないだろう事にマリーヌは小さくため息を一つ吐く。


ドレスの現状把握の為に目線を下げて確認すると、マリーヌの瞳と同じ淡いグレーのドレスは胸元から腹部あたりまで紅茶の水分を存分に吸い込み濃くなっている。

そしていつもならマリーヌの慎ましい胸はドレスの袂にしっかりと収まっているのにコルセットによって無駄に押し上げられて露わになった胸の間に紅茶が入り込み腹部にまで伝って気持ちが悪い。


これは早くシミ抜きしないとマズイという思考が過った所で、令嬢達の息を飲む声が部屋に響き渡り令嬢達の視線が注がれる自身の背後へと振り返ると、そこには感情の読めないアレックが立っていた。


マリーヌは突然現れた宿敵の姿に驚きのあまり周囲の令嬢と同様にアレックを見上げて息を飲んだ。

お読みいただきありがとうございます!

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