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蛍光色のチカ先輩は異界の迷子を保護しています  作者: 阿井りいあ
迷子の王女を保護します

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30/35

独白


「エミリアは鋭い人でね。私の表情からすぐに察してしまったんだよ。……この子の、何かよくない未来を視たのね、って。隠さずに教えて欲しいと言う彼女の目は母親のそれだった。私に、話さないと選択肢はなかったよ。


 彼女は泣き崩れた。その場は人払いをしてあって、私しかいなかったから。彼女は遠慮なく泣いたんだ。そうして、一通り泣き喚いた後、私に言った。


 この子を助けて欲しい、と。


 方法はある。だけど、それをすればエミリアから死の運命を遠ざけることができなくなる。あと三年でエミリアは死ぬことになるし、この子には一生会えなくなってしまう、とも。でも、彼女の意思は固かった。


 私は悩んだ。悩んで、悩んで……そして、とうとう折れた。約束した。この子を守ると。


 子どもが助かるには、あの世界から離れるしか道はなかった。あの世界にいれば、死の運命は容赦なく回り続ける。いくら私が妨害しようと、子どもが成人前に死ぬことは変えられない。


 私は何度も聞いた。エミリアに。子どもの母親に。


 今、この瞬間から二度とこの子には会えなくなる。生まれたばかりで、まだ親が誰かも、ここがどこかもなにもわかっていないこの子は、エミリアが本当の親であることを知らずに育つ。それどころか、どこの誰ともわからない者を本当の両親と思い込み、エミリアの存在すら生涯知ることはないだろう。


 この子が初めてハイハイした日も、初めて立った日も、初めて歩いた日も、初めて喋った日も。この子の成長をほんの僅かでもその目で見ることはない。エミリアと愛する人との、初めての我が子だというのに。


 国王にも告げないのなら、彼はこの子を一目見ることも出来ない。……とてつもなく悲しむだろう。だけど、エミリアはこの事実を誰にも打ち明けてはならないと伝えたよ。少しでもこの子の生きる可能性を高めたいのなら。

 本当は自分が逃したのだという事実を胸に秘め続け、国王の悲しみや私への憎しみを聞き続けるのはさぞ辛いと思う。でも決して誰にも口外してはならない、と。


 貴女はただ、魔女に騙されたのだと言いなさい、と。悪い魔女が、自分の愛しい我が子を攫っていったのだ、と。それしか言ってはいけないと約束させたんだ。


 酷く残酷なことを言ったと思ってる。エミリアは優しい子だから、全てを私のせいにしてしまうことも辛かったろう。

 だけど、これは徹底しないといけないことだった。少しでも子どもの生存率を上げるために。世界を渡ったとしても、成人前に命を落とす可能性がなくなるわけではなかったからね。つながりを少しでも残さないために、名付けさえも許さなかった。名前の持つ縛りは強力だったから。エミリアは何も、この子にしてやれない。


 でもまぁ、耐えきれずに日記に書いたみたいだけどね。それが、エリカに見つかったってわけか。……ん? ああ、別に責めているわけじゃないよ。エミリアのことも、エリカのこともね。エミリアはどこかで発散しないと保てなかったんだろうし、エリカはどうしても現状を打破したかったその強い思いがその日記を引き寄せたんだろうしね。


 まったく、運命の作用は強力だよ。こうなることは、薄々気付いていたしね。狭間に迷い込む者が増えてきたあたりで。……いや、この世界に来るために穴を開けた時から覚悟はしていたんだ。穴があれば、そこから入り込む者も出て行く者もいて当然でしょ? 穴は開けっぱなしなんだから。それでも、ここを探り当てるのはかなりの使い手じゃないと無理だったわけだけど。そこへいくとエリカ、貴女はその能力を誇っていい。間違いなく一流の魔法使いだから。


 っと、話が逸れたね。ともかく、私はエミリアには遠回しに言うのではなく、ストレートに伝えたんだ。それを彼女も望んでいたからね。

 エミリアにとっては、残されたわずかな余生が辛く苦しいものになるって。だから、それでもいいかと私は聞いたんだよ。


 エミリアは、迷わなかった。この子が幸せに生きることが、自分の幸せだと。そう言った。目にいっぱい涙を溜めて。本当は子どもと離れたくないとか、私を悪者にしたくないだとか、その目はわかりやすく語っていたけど、それを口に出すことも、目に溜めた涙を一粒だって流すことをしなかったんだ。


 覚悟は決まった。移動するなら早いほうがいい。死の運命が絡みつく前に、一刻も早くこの子を別の世界へ連れて行く必要があった。

 私はすぐに魔力を練った。そうして、世界を渡ろうとしたその間際に、エミリアはお守りを私に託したんだよ。これをどうかこの子にって。そして私に、本当に、本当にありがとう、って。あなたと会えて良かったって。言ったんだ……。


 本当は、お守りという繋がりだって許してはならなかった。だけど、もう二度と会えない親友の、僅かな頼みを聞かずにはいられなかったんだよ。だから私はお守りに念入りに魔法を施して、受け取った。そして、私から子どもに贈ったんだよ。あくまでも、私からの贈り物と世界に認識させるためにね。


 そしてエミリアのその言葉を最後に、私は子どもを抱いて世界に穴を開けた。そうして、世界の狭間まで逃げたところで、ふにゃふにゃと泣く子どもに……君に、言ったんだよ。


『私たちは、迷子になってしまった。だが心配はいらないよ。私が、君に合う世界を必ず見つけ出してあげよう』


 ってね。ふふ、今にして思えば、君こそが最初の迷子だった。私はこの世界に来た時すでに、異界の迷子を保護し続けていたってわけだ。


 それからというもの、私はこの世界で色んな手を回してきた。子の持てない夫婦の中で、君を大切にしてくれる者たちに君を託したりね。身寄りのない子どもを引き取る、という記憶操作はさせてもらったけど、それだけだよ。君がこれまで過ごした思い出に嘘偽りはない。彼らの君に対する愛情は本物だし、血の繋がりがないことも彼らは知っている。いずれ君にも話すつもりだろう。


 私? 私は離れた場所からずっと君を見守っていたよ。生活をしなきゃいけないからと女優業を始めたのはこの頃から。なんで女優業かって? 私の特技は魔法と演技だけだったからね。この世界の常識には疎かったし、世間知らずでもどうにかやっていけそうだったから、スカウトされてそのままオッケーしただけの話さ。え? それだけだよ。なんでそんなに不満そうな顔なんだ。


 後になって他にも色んな仕事があるって知ったけど、すでに女優として働いていたからね。まさかこの世界が、こんなにも色んな仕事が選べるなんて思ってもみなかったから。先に常識を学んでおくべきだったね。ま、お金がいっぱい入ってくるから辞めなかったってだけのことさ。


 と、いうわけで、私はこの世界で仕事をこなしつつ、影から君を見守る生活を続けていたんだよ。時に犬に姿を変えて君の近くに行ったこともあったな……。君は覚えていないかもしれないけど。なかなか楽しかったよ、君と犬として遊ぶのは。

 本当なら、そのまま君のそばで犬として飼われていても良かったんだけどね。そうもいかなかったんだよ。わかるでしょ? 異界から迷子が流れ着くことに気付いたからだよ。


 あの世界に穴を開けてしまったのは私だ。そのせいで、あの世界から罪もない者が狭間に迷い込んでしまうのをそのまま見過ごすことは出来ないと思ったんだ。私には、迷子を元の世界へ返す義務がある。でもそのためには一度この世界に呼ぶ必要があった。

 そして、気付いた。みんなが対価を払おうとすることにね。無償で元の世界へ返してもらう、というのはどうも気がひけるらしい。それどころか、何か裏があるんじゃないかと、かえって警戒されてしまうんだよ。人というのは難儀なものだね。


 だから、私はそれを利用して、情報を得ることにしたんだ。あっちの世界が今どうなっているのか、それを知るチャンスでもあると思ったからね。

 そうして何年もかけて、たまにやってくる迷子から得た情報で、エミリアが第二子である王女を生み、そして……死んだことを知った。


 死の運命は、確かに彼女を連れていってしまった。それなら、彼は? エミリアの子どもの死の運命は? 私は小学生へと成長した子どもを見つめた。

 ある程度薄くはなってきている。でも油断はならない状態だった。気を抜けば、いつでも死は彼を連れていってしまう。でも、いつか完全に、その運命の糸が消える時が来るというのも確信していたんだよ。


 向こうの世界での成人を確実に過ぎた、十六才まで。


 気付いていないかもしれないけれど、君は幾度となく死の運命に襲われてきた。野良犬に噛まれる未来、交通事故に遭う未来、誘拐される未来、高所から落下する未来。あげたらキリがないくらい。そのどれもを、私がそんな気配を察知する前に悉く潰してきたんだ。

 平和だったろう? そのお守りだって、君を守ってくれていた。仕事の間は君を見ていられないからね。かなり色褪せているだろう? それが君を幾度も守ってくれた証拠だよ。ふふ、覚えていないかな? それ、最初は蛍光ピンクだったんだぞ? 恥ずかしがって、みんなには見られないように隠し持っていたっけ。でも、決して手放そうとしなかったことは、嬉しかったな。


 ……エミリアに託された命。私が絶対に守ってみせると決めた。君を、絶対に守るって決めたんだ。何を犠牲にしてもね。エイジくん……私の、王子」


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