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『従士』

 日が沈んだ後の夜の街は、街灯などの明かりで爛々と煌めいている。そんな街の喧騒とは裏腹に、真っ暗な夜空には月が静に浮かんでいた。


 とある高層ビルの屋上。


 街の喧騒とは無縁の物静かな場所で、二人は対峙していた。


 ドラマのワンシーンでよく目にする光景だが、これは撮影などではない。本物の『現場』だ。

 互いが“本気”であることなど、手に握られた武器や場に満ちる殺意だけで理解できるだろう。


 片や剣を構えた凄まじい気迫を放った壮年の武人、片や明らかに戦い慣れていないように見えるが覚悟を決めた様子の少年。


「小僧……このワシに勝てるとでも思ったか」

「……勝てるなんて思ってないさ。爺さん、アンタは何年も戦ってきた。対して俺は、ついさっきまで平和を甘受するだけの一般市民だ。勝てる道理なんて、ない」


 顔を合わせるのは、これで二度目。


「ならば、道を譲れ。無意味にその命、散らすこともないじゃろう」


 武人は、初めは少女に寄り添う老紳士で、今はその少女に刃を向ける一人の剣士。


「断る。あの子を守れるのは、この俺だけだ」


 少年は、初めはどこにでも居る平凡な一般人で、今は少女を護る一人の騎士。


 互いの立場は、最初の頃とまるっきり逆になっていた。


「勝つためなんかじゃない。殺すんために力を手に入れた訳でもない。……俺は、ただ──一人の女の子を守り抜くだけだ……!」


 その戦闘は熾烈を極めた。幾度も激突し、秘めたる心の内を吐き出し、掲げる信条をぶつけ合い、打ち合った武器と武器が甲高い音と共に火花を散らせ、互いが互いに身を削る。


 そして。何度かの衝突の末に、この戦いは終幕を迎えた。


 少年の持つ剣が剣士の身体を貫き、紛う事なく致命傷を与えたのだ。


「アリスティア様のこと……頼んだ、ぞ…………」

「……アンタに、言われるまでもない」


 自分の終焉を悟った彼はそう言い残し、ビルとビルの間──深い闇の中へと呑み込まれていった。



 とある少女は、心に深い傷を負い。

 人々に尊敬されていた老騎士は、乱心の末に倒れ。

 一人の平穏に生きた少年は、その後の人生が大きく狂った。


 これほど大きなことが起こる夜も、そうそうあるものではないだろう。



 己の無力さを嘆いた少年に望みを叶える力──守護の力を授けたある者は、この日のことを『運命』と称した。



 *



 この世界は、本来の史実とは異なった歴史を辿る地球。


 この地球は異世界<セインルミナス>と交流することにより、独自の発展を遂げていた。


 地球との関係を築いた異世界とは、魔導文明で栄える、所謂『魔法』が存在する世界であった───

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