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12-1 音楽を忘れた猫 誰がために笛は鳴く - 忘れられた旋律 -

 気晴らしの狩りを済ませるとわたしたちの部屋、その書斎式ベッドに戻るとパティアがそこに眠っていた。

 ジアたちの部屋に行ったはずなのに、寂しくなって戻ってきてしまったのでしょうか。


「すぅ、すぅ……すぴー……けだま、しょうぶだ……クー……」

「どんな夢ですかそれ……」


 わたしもベッドに上がって、パティアの大好きなふかふかで包み込む。

 それから遅い眠りについた。

 安らかに眠るパティアがわたしに眠気を授けてくれたのかもしれない。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 翌朝、パティアがフルートの存在に気づきました。

 きっと吹こうとして不協和音を立ててしまったのでしょう、それがわたしの覚醒を招きました。


「あ、ねこたん、おこしちゃったかー。ねぇねぇ、それよりね、このふえ、もしかしてねこたんのかー?」

「はて、どうしてそう思うのでしょう」


「ねこたんのそばにあったぞー、それにー、ささぶえ? ふくのうまかったからなー、かんたんなー、すいーりだ」


 わたしとしたことがフルートを隠すのを忘れていました。

 ただ銀色のその笛をパティアが抱いているだけで、どうしてかわたしは気恥ずかしくなる。


「すいーりですか」

「すいーりだ」


 身を起こして軽くネコヒトなりに身だしなみをする。それから伸びとあくびをした。


「ねぇねぇ、あのね、ねこたん、ふえ、ふいてみてー」

「こんな朝っぱらですよ、みんなを起こしてしまいます」


「へーき、これからみずくみいく、ねんしょーぐみさんと。ねこたんもいっしょにー、いこー。そのほうが、みんなあんぜんだ。おお、パティアかしこい、やはりてんさいか……」


 何を言っているのやら。しかし不思議なこともあるものです。

 純真な娘に願われると、少しだけその気になりかけたわたしがいました。


「かまいませんが吹けるかどうかわかりませんよ。もう300年吹いてません」

「おお、それ、わかるー」


「フフ、わかるんですか」

「うん! パティアもー、まほー、しばらくつかってないやつ、わすれそうになる……」


 なるほど楽器も魔法とそう変わらないと。


「あるあるですね」

「あるあるだー。じゃ、ねんしょーぐみさん、おこしに、いくぞー、ねこたーん」


「はい、ご一緒します」

「じゃ、て、つなごー♪ へへへ……かかったな、ねこたんのにくきゅう、さわりたかった、だけでしたーっ」


 そんなの最初から知っています。

 わたしたちは年少組の子らと一緒に東の湖に向かいました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 到着すると水瓶、古城に残されていたガラス瓶、その他ありったけの容器に湖水を集めた。さあ後はこれを持って帰るだけです。

 なにせ客人タルトと男衆を含めて40人以上が城にいる。飲料水だけでも調達が大仕事でした。


「ねこたん、ふえ、ふけそうかー? ここなら、みんなおこさない、パティアかしこいだろー、かんねんしろー?」

「わー、エレクトラムさん、笛吹けるのー?」

「私も聞きたい、音楽なんてもうずっと聞いてないよっ」


 そう求められて恐る恐る笛を構えました。

 フルートに唇を当てて、指をそろえ、後は息を吹き込むだけのところまで準備した。

 楽曲は……300年前のあの忘れられた曲がいいだろうか。


 娘が期待のまなざしを向けてきている。

 娘だけではない、すっかりやんちゃになった子供たちがネコヒトの笛を期待している。


「…………」


 そこからはあえて客観的に申しましょう。

 下手くそなフルートの音色が森に響き渡り、音程のずれまくったお粗末な演奏を終えました。


 すると合計11対の手から熱烈した拍手がわき起こる。

 300年前にあった忘れられた曲です。音程がズレようとも彼らは気にしませんでした。


「すごいすごい、エレクトラムさんじょーず!」

「綺麗な曲だね。私……お母さんのこと思い出しちゃった……」

「お、俺も……」


 ここは再び吹けたことを喜ぶべきだろうか、いや……。


「へへへー、パティアのねこたんだぞー。あっ、しろぴよきた、しろぴよちゃんが、アンコールだってー。……あれ、どしたー、ねこたん?」

「いえ、別に……」


 リックのときはダメだったのに、なぜかここでは吹けてしまった。

 そしてここから先が重要なのです。


 このわたし、魔王様のご寵愛を受けた楽士が、あり得ないくらいのド下手に成り下がっている……。なんたることでしょう。


「ピヨッピヨヨッピヨヨヨッ! キュルルルッピュィピュィーッ♪」

「すみませんシロピヨさん、アンコールは無しでお願いします。では急用を思い出したので、朝食は勝手にやっておいて下さい。パティア、帰りの護衛は任せましたよ」


「お、おう……。ねこたん、よくわかんないけど、がんばれ……」

「慰めは要りません。それでは……」


 ネコヒトは大地の傷痕を飛び出していた。

 結界の外側の落ち着ける場所で、猛烈に300年のブランクを埋めたくなっていた。


 魔王様の名誉、わたしのプライドのために、わたしは昔の腕を取り戻さなければならない。

 魔王様の喜んで下さったわたしのフルートは、こんなものではないのです。


 わたしは笛を吹く楽しみを取り戻しました。

 あなた様のためだけに捧げてきた旋律を、彼らに捧げることをお許し下さい。

 わたしは……もうあの頃の弱いネコヒトではないのです。


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