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11-8 妹の彼氏はワイルドオーク

「たのむ、パティアに、ケツをおしえてくれ……!」

「何を教わろうとしてるのですかあなたは……。ああもしかして、秘訣って、言いたかったんですか?」


「そうっ、たぶんそれ! おしりじゃないやつ! ねーねーおじさん、おおきくなるほうほう、おしえてー?」


 口下手のダンは質問に答えるのは得意ではない。

 困ったように足下のお子様に目線を落として、どうも距離が近すぎると一歩下がる。当然すぐにそれも詰められた。


「え……あ、えと、んん、な、なんだべな……ま、豆か……? 豆、いっぱい食べた……」

「まめかー、ふつーだなー。まいいや、さんこうにする。ありがとー、よろしくなー、ダーン」


「だ、ダンだよぉ」

「……はぇ、ダ~~ン?」


「違うだ、おらは、ダンだよぉ!」

「……ダダーンッ!」


 すみませんうちの娘が……。

 パティアを背中側から引っ張って、ダンの目の前から引き離す。


「そ、そんな、勇ましい、名前、お、おら、似合わねぇだ……」

「よし、ダダーンでおぼえた」


「違うよぉ……ダンだよぉ」


 その申し訳ないやり取りが蒼化病の子供たちを安心させていった。

 どうやら大きいのは身体だけで、その反対に性格は臆病で穏和なタイプらしいと気づいたのでしょうね。


「おや、噂のリセリの彼氏が来たようですよ」


 そこにイケメンにしてワイルドオークのジョグが遅れて顔を出しました。

 リセリもジョグもわたしの不意打ちに驚いて、乙女の方が蒼い肌を血色良く恥じらわせる。


 他の連中はまだ寝ているのでしょうか、現れる気配がありません。


「えっ、か、彼氏だなんてそんな……ッ、恥ずかしい……」

「い、いきなり何言い出すべエレクトラムッ?! ひっひぇっ、あ、あんた誰だぁっ?!」


 たったその一言でタルトの矛先がバーニィからジョグへと、朝焼けよりもなお鮮やかに切り替わった。

 気の強い足取りと目線でジョグの足下まで迫りより、ワイルドオークの巨体を怒れる猛犬のごとく見上げる。


 それからリセリの姿をずいぶん遅れて見つけたようで、タルトは急に怒りと言葉を忘れて、愛しいその姿を呆然と眺め続けることになった。

 対するリセリは勘が強い、何かを感じてふらりとタルトのいる方向に一歩を踏み出す。


 けれども人違いを恐れてのことでしょうか、それはたった一歩だけの勇気でした。

 そうなればもはやたまらず、少女の前に姉貴分が駆け寄るのが当然の摂理と言えましょう。


「リセリッ、あたいだよっ、お姉ちゃんだよ! アンタに会いに来たよっ!」

「ぁ……ぁぁ……!?」


 それからワンテンポ遅れて、赤毛のタルトが盲目の少女を胸に抱き寄せていた。

 リセリはされるがままに抱擁を受け入れ、涙を堪えるようにまぶたを閉じた。


「ぇ……本当に、タルトお姉ちゃん……? そんな、まさかこんなところで、会えるなんて、会いに来てくれるなんて、思ってなかった……。嬉しいよ……来てくれてありがとう、お姉ちゃん……」

「病気になっても、街の連中みんなに否定されても、アンタはあたいの妹分さ! ずっと助けてやれなくてごめんよリセリッ、ああそうだ、リセリのためにありったけの物資を持ってきたよ! コレ全部持っていきな、おい野郎ども納品だよ!」


 もう色々とお腹いっぱいです、男衆に向けて腕を上げてわたしは案内役を受け持ちました。

 蒼化病の……いえ里の子供たちも手伝ってくれるらしい。


 バーニィとダンもこの後に発生するであろう台風を避けて、こちらに逃げて来ました。

 何せ台風の目は、リセリ愛しのジョグでしたので……。


「ところでアンタッ!」

「ひ、ひぇっ、な、何だべっ、リセリのお姉さん!?」


「ハァッ?! 誰がお義姉さんだいっ!! あたいの目が黒いうちは、アンタみたいな豚野郎にリセリはやらないよッ!! なんだいその態度はッ、ダンとそう変わらないヘタレ野郎じゃないかいっ人と話す時はシャンとしなッ!!」

「え、エレクトラムッ、助けてくれぇ! この人なんか怖いよぉっ!?」


 そうやって猛烈な反対を態度に示すと、かえって二人の愛が燃え上がってしまうのではないでしょうかね。


 それに人を見かけで判断してはいけません、

 ジョグは蒼化病の里の誰もが認める立派な英雄、それゆえにイケメンなのです。


「フフフ……無理ですね、関わりたくありません、ご自分とリセリでどうにかして下さい」

「お姉ちゃん、ジョグさんは魔族だけどイケメンなんだよ。とてもやさしくて、強くて、カッコ良くて、苦しいときの私たちを助けてくれたの!」


 まあとはいえリセリさん、それはそれで火に油かもしれませんね……。

 盲目の少女の言うイケメンというのも、この図ですと何だか、醜悪な男が若い子を騙したみたいですし。


「へぇ、ずいぶんリセリが世話になったみたいだねぇ……? 詳しく、教えてもらおうじゃないか、やさしくってどういうことだい? そもそもアンタッいくつだいっ!」

「じゅ、18です……」


 ジョグの返答はまさかの丁寧語でした。

 それほどまでにタルトの勘気は嵐のように荒々しい。


「あっはっはっそうきたかい、ああそうかい……じゃあ言わせてもらうよ」

「……では物資はあそこの城崩落部から搬入して下さい。倉庫への案内は任せましたよパティア」

「おーう、まかせとけー! ぜんりょくで、このにんを、はたしてみる、しょぞん……?」


 何だかジョグが心配になってきました、パティアや子供たちに役割を任せて後方に目を向ける。


「アンタみたいな18歳がいるかいっ、バカ言うんじゃないよっ!!」

「い、いるんだからしょうがねぇべさぁぁーっ?!」


 体毛の少ない種族からすれば、わたしたちモフモフっとした獣寄りの種族は年齢不詳になりがちです。

 ワイルドオークの荒々しい毛並みにイノシシ面からは、18と言われたところでとても信じられないでしょう。


「お姉ちゃんッ、これ以上ジョグさんを困らせないで! みんなジョグさんに感謝してるのっ、お姉ちゃんが思ってるような人じゃないよ!」

「だ、だって……リセリ、これ……ワイルドオークじゃないかぃ……」


「そんなの関係ない。エレクトラムさん言ってたよ、この場所では、種族の違いなんて関係ないって。それに私、こんな目だし、普通の人間の男の人は、無理だと思うの……」


「うぅ……っ、なんてこったい……」


 おやこれはこれは、やはり逃げておくべきでしたね。いえ今からでも遅くありません逃げましょう。

 ところが狂犬と化していたタルトがこちらに鋭い目を向けた。


「ちょっと待ちなよエレクトラム・ベル!! 話が違うじゃないか!! バーニィもどういうことだいっ、知っておいて放置してたっていうなら、あたいはアンタでも容赦しないよッ!!」


 すっかり頭に血が上っています、今はどう説明してもムダでしょう。

 ジョグはいいやつです、後でそう保証するとして、今はタルトの怒りをなだめるしかない。


「はぁぁ……姉御、落ち着いて下さいよ、これ以上は身内として恥ずかしいですって。夜逃げ屋タルトの顔が潰れますぜ、いいんですかい?」

「よくないよっ! くっ……ジョグッ、その顔ッ確かに覚えたからねッ!!」

「ひ、ひぇぇぇーっ?!!」


 タルトは旧市街の暗部に属する者、とても堅気とは言い難い。

 かわいそうにジョグはそんなヤクザ者に目を付けられてしまった。


 ところがパティアがこっちに戻ってきた。話を聞いていたらしい、修羅場なのにも関わらず平然と声を上げる。


「おとなはー、しょうがないなー。ねこたんもー、パティアにかれし、できたら、ああなるかー?」

「フフフ……そうですね、わたしの場合、もっと陰湿でたちの悪い手段に出るかもしれませんね。あなたにふさわしい存在か、四六時中張り付いて確認しませんと」


「そうかー、パティアのかれしはー、たいへんだなー♪」

「今のタルトの見苦しさから少しは学べやネコヒト……。それとジョグには後で美味いもんでも差し入れしてやろうぜ」


 こうして大量の物資が里に届きました。

 あとは夜逃げ屋タルトらを歓迎して、納得できる移民先としてプロデュースするだけです。


 それにしても、まさかここまでリセリを大切に思っていただなんて。バーニィが言う通り見苦しいですが、この暴走は強い愛情の裏返しでしょう。

 ……ええ、現在も引き続きジョグは、タルトにからまれておりました。


「しかしほっといていいのかよ?」

「関わっても朝食の食欲が落ちるだけでしょう。それに遠くから2人を見ればタルトも嫌でも理解しますよ」


 物資を城1階の空き部屋あらため追加倉庫に押し込んで、わたしたちは急な客人の歓迎準備を急いでいった。


「リセリとー、ジョグはー、おにあいだからなー。あ、そうだっ、パティアもー、きょうから、あたいにしよっかな~。へへへ、あたいは、パティアさ……」

「止めろ……アレだけは見習うな。はぁ……昔は生意気かわいかったのに、なんでああなっちまったかなぁ……」


 これであとは前に進むだけです。

 新しい農具で畑を広げ、仕立て道具で服を作り、材木で新しいバリケードと家具を作りましょう。


 そしてタルトがここを去る前に、どうにかネコタンランド以外の正式名称を付けませんと。


「それはなー、かわらないと、やってけないからだ。にんげん、そういうときも、あるんだぞー」

「お、おう……。パティ公のくせに、そりゃもっともなお言葉じゃねぇか……」


 ここは消失者たちの里、どこの世界にもいられなくなった者どもが集う場所。

 わたしたちはこの地で力を合わせて、それぞれが望む物を手に入れてゆくしかないのです。


「バーニィ、倉庫への運搬が終わったら、まずはタルトを北の森にでも連れて行ってやって下さい。彼女はゲストです、里のプロデュースはあなたに任せましたよ」

「狂犬の面倒を見ろってか? ま、しょうがねぇなぁ……アイツもビジネスの話になりゃ落ち着くだろ、そう願うしかねぇな」


「でーとだ!」

「はっ、冗談言うなよ、35のババァと恋愛する気はねぇわ」


 そうやって彼女の年齢をしっかりと把握しているあたり、どうも説得力が足りませんよ。

 かくしてわたしたちは不足していた仕事道具の調達に成功しました。


 これから一丸となってバリケードを張り巡らせ、広場に新しい畑を築いてゆくことになる。

 そうなることがもうこの時点で決まっておりました。


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