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11-5 夜逃げ屋タルトの我が道を行く返礼

 翌日の夕方、約束通りタルトが旧市街の骨董屋に戻って来ました。


「な……何やってんだいアンタ……」

「おやお帰りなさい店長さん。実は暇なら店番を代わって欲しいと頼まれまして、眠気もありませんし、バイトのマネ事をさせていただいておりました。何せ皆さんお忙しいようですしね、わたしのせいで」


 仮面とフードの怪しい店番に店主は驚き、呆れ、うさんくさい見てくれでカウンターに立つなと、複雑な感情を押し殺したようです。


「ていうか寝なくて平気なのかい? アンタってそういう生き物だろ?」

「ええ、今回は事前に裏技を使って来たので問題ありません。物のついでに来店客――というより暇そうな冷やかし老人から、レゥムとパナギウム王国の情勢を聞かせてもらえましたしね」


「そんなのあたいがしてやるよっ! ああもうっ、客人に店番なんてさせやがってっ、どこのどいつだいっ!」


 壮健で有名だった現王の健康状態がよろしくなく、退位の噂と、サラサール王子への禅譲の可能性が高まっていること。

 つい最近100前後の冒険者が失踪して、業界で一時的な人手不足が発生していること。


 まあこれは自業自得としか言いようがない、わたしたちは降りかかる火の粉を消し払っただけです。他の誰かに害が及ぶ前に。


 最後に、ネヴィアという現宰相と、サラサール王子の対立が水面下で激化していること。

 宰相といえば、蒼化病の子供たちを虐殺しようとした張本人、つまりクズとクズの権力争いが始まろうとしているそうです。


 あまりそうやって、魔軍に隙を見せないでいただきたいのですがね……。


「た、タルトさん、やっぱり、お、おら、こういうの……夜逃げなんて、よくねぇ気がして――」


 いえそれよりも今は、タルトが妙に卑屈な大男を連れてきたことが気になりました。


「今さら臆病風に吹かれるんじゃないよっ! ダンッ、アンタはこのまま街に居てもろくな目に遭わないんだ、助けてやろうっていう、あたいの気持ちを裏切る気かいっ?!」


 夜逃げ屋の顧客でしょうか。

 性格に反してとんでもなくたくましい体躯、黒髪剛毛のそれが大きなリュックを背負っておりました。


「そ、そういうつもりで言ったんじゃ……でも借金は……ぅ、ぅぅ、借金取りより、タルトさんの方が、怖ぃぃ……」

「そりゃどういう言いぐさだい!」


 大の大男が女の前で縮こまっています。

 情けない。いいえ、さすがに相手が悪いですか。


「……ああ、すまないね、コイツはダン、あたいから手みやげさ」

「あっ、あいたぁっ?!」


 ダンの背中が大きな音を立てた。犯人は言うまでもない。


「あの……まさか、彼を我々に下さるのですか?」

「まあそういうことさね。ダンはね、死んだ育て親の借金をバカ正直に返そうしてたんだけどね……、この通りの愚図でバカだ、だからそこら中からカモられて、もう大変なのさ」

「う、うぅぅ……お、お世話に、なりますだ……」


 里の人間として受け入れて良いものやら、わたしは返答を急がずに姿から見定める。

 愚図でバカは言い過ぎです。それに対して怒らず、わたしに頭を下げるのだからかわいそうになってくる。


 だからといって穏和な善人とは限らないが、大事なリセリのいる里に連れて行こうというのです。

 ならばタルトが人格の保証をしているようなものですか。


 わたしはフードを下ろして仮面を外し、自己紹介をいたしました。


「エレクトラム・ベルです。ダンさん、以後お見知り置きを」

「ご、ご丁寧に、よろしく……、ね、ネコヒト、初めて見た……噛まない、よな……?」


「噛みませんよ。……ああ、噛まれたいのですか?」

「ひぇっ、こ、怖い……ッ」


 牙を見せるとダンは両手を突きだして後退した。

 どうやらこれは……、戦闘力としてはまるで期待できそうもありません。


「さ、始めようじゃないか、夜逃げ仕事をさ」

「しかしタルトさん、注文の物資が見えないのですが」


「アハハッ、そりゃたーんとっ、外の台車に乗せてあるよっ!」

「台車ですって……?」


 アリ並みに力持ちなネコヒトの算段では、籠にタルトや物資を乗せて、往復でギガスラインの向こう側に運ぶ予定でした。

 しかしさすがに台車は持ち上がりませんよ。ダンもまた重そうです。


「た、タルトさん……ぼ、ぼうけん、しゃ、の、支援物資、運ぶ、ふりするって……」


 何とそうきましたか。わたしの手助けなどなくとも、自分は向こう側に行けると。


「はぁぁ……石工としての腕はあるんだけど、口下手過ぎるのがアンタの弱点さね……。神は凡人に二物を与えずさ」

「おお、あなた石工ですか、それはぜひともわたしどもの里にご招待したい。大歓迎しますよダン、そうならそうと最初に言って下さい」


 なにせ古い城です。老朽化で使えない部屋がいくつもありました。

 単純に大人が増えるというのもありがたい。わたしたちにそれだけ余裕が生まれます。


「とにかく外に出な、すぐ出発しようじゃないか」

「フフフ、まさか主導権を奪われるとは思いませんでしたよ」


 フードと仮面を戻し、タルトを追って店の外に出ると話が見えてきた。

 というよりダンのこともそうですが、話が勝手にタルトの手で膨らまされていました。


 なにせ台車の数は一人用の物が合計6台、タルトの配下の男衆が5人もそこにいたのです。

 その誰もが冒険者らしい軽装の革鎧と、狭い迷宮でよく使われるショートソードを身に付けている。


「アンタに抱き抱えられるなんて、それはアタイのプライドが許さないよ。そんなスリルを味わうくらいなら、コネと偽装でアレをまっすぐ通過させてもらうさ。こんだけあれば、リセリは困らないだろ。あの子を、あたいの代わりに幸せにしてやってくんなよ……」


 タルトはギガスライン要塞をそのまま真っ直ぐに、城門から通過するつもりでした。

 わたしからの注文を超える、台車6台分の物資を、今から部下を使って里に運んでくれるという。


 さらに言えばこちらが持参した交易品だけでは、金額的に買えるのはこの台車2台分が関の山でしょう。


「フフフ、あなたには降参です。お任せ下さい、リセリは必ずわたしたちが守り抜きましょう」


 リセリ、彼女はわたしたちにとって幸運の女神だったのかもしれない。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 一方その日の昼頃、パティアは――


「いーち、にーい、さーん、しーぃ、ごーぉ、ろーく、しーち、はーち、きゅうっじゅうっ! もういいかーい!」

「まーだだよー」


「もーいーかいー!」

「もーいいよー」


 みんなでかくれんぼをしたそうです。

 夕飯の担当以外をのぞく、ジョグとバーニィまで付き合わされて、それはもう盛大な催しになったとか。


「うーん……あとは、バニーたんかー……みつからないなー。だれかしってるー?」


 居場所を聞くのは反則ではないですかね。

 人数が人数なので、ノーヒントはつらいものがあるかもしれませんが。


「じゃあジョグさんがお父さん役で、リセリがお母さんね」

「な、なんかそれ、配役おかしくねぇべか……?」

「うん、わかった。えっと、その、ふつつか者ですが、よろしく、ジョグさん……」


「結婚したところから始まるべかっ?! お、おらぁ、ペットのうり坊でいいべよぉ……っ!」


 ちなみに見つかった子たちは子たちで別の遊びを始めたそうで、ジョグとリセリは年少組と一緒にママゴトをすることになったそうです。

 いえ、その巨体でうり坊の方が無理がありますから。


「こうなったら、アレをつかうしかー、ない……。よーしっ、ゆけー、しろぴよー!」

「ピュィーッ♪」


 あの小鳥はパティアが餌をくれるからか、それとも波長が合うのか、娘に使役され始めていました。

 その翼を持つ者の絶対的な視界、機動力がバーニィ・ゴライアスを見つけ出すのにそう時間はかかりませんでした。


「バニーたんみっけー! しろぴよ、おてがらだ、パティアのおやつ、いっぱいくえー♪」

「おいパティ公、その鳥使うとか卑怯だろ……」


「えー、バニーたんだって、ずるっこだぞー。そんなところ、わかるわけないでしょー、こどもが、まねしたら、どうするのー!」


 大人げないおじさんは、新設した東側のバリケードの向こう側で、水路に釣り竿をたらしてカモフラージュに草木を身にまとっていたそうです。


 たかがかくれんぼに、なんて大人げないことをするんでしょう……。


「そうカリカリすんなって、俺はそういうポジションなのよ。ダメな大人で結構だ、俺みたいにはなるなよガキ共」

「はぁ……41さいにもなって、こどもみたいなこと、いわないのー。きめたルールはー、まもらないと、だめだぞー?」


 まあ正論だわ、聞く気ねぇけど。悪いおじさんは後でそう言っていました。

 本当にしょうがないおじさんなんです。


 釣りがしたいならかくれんぼを断れば良いのに、それができなかったんですねあなたは、まあおやさしいことで。

 わたしはそう言い返してやりましたよ。


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