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11-4 消失者たちからの招待状 - ネコは勝手に忍び入る者 -

 それは寝る前あの時ふと浮かんだ思い付きです。


「では不可解な話かもしれませんが、お約束の品をご受け取り下さい。わたしの底無しの眠気を、スリープ」


 出発前にわたしは寝室の1つに年少組10名を集めて、毛皮の上に横たわらせた。

 それからナコトの書を開き、禁断の黒魔術――もとい、わたしの深淵より深き眠気を彼らにお譲りした。


 まぶたが一斉に閉じていきました。効果を意識的に増幅して発動させたので、起きるのは早くとも明日の今頃になるかもしれない。

 これでわたしの活動時間が大幅に引き延ばされた。

 しばらくは眠らずに行動を続けられるはず。ギガスライン越えと、レゥムの街への潜入に軽視できないリスクがある以上、少しでも活動限界時間という弱点を克服しておきたかったのです。


「ご協力感謝します、おやすみなさい皆さん」


 同時に寝かされた子供たちも無駄なエネルギーの消耗を抑えることが出来ます。

 蒼化病の里からの長旅で、くたくたになった体も癒えるでしょう。ならばこれは良いことずくめです。


 部屋の扉を静かに閉めて、それから東のバルコニーから飛び降りた。

 畑の方に立ち寄ると期待した顔触れがそこにありました。


「行くのか教官。切迫しているのは理解しているが、あまり無理をしないでくれ。パナギウム王国では花嫁クークルスを誘拐した犯人、フードをまとった小柄な魔族を追っているのだからな」

「そうだぞー。あ、そうだ、しろぴよつれてくかー? これでも、しろぴよちゃんはー、かしこぉいんだぞー、てんさいぴよぴよだ」


 あの白い小鳥はまだパティアにくっついておりました。

 このまま娘の頭を巣にされたらどうしたものでしょう。それはそれで面白そうな気もしますが、頭の上で糞をされたらたまらない。


「結界の外側に連れて行くのは気が引けますので、それは遠慮しておきましょう。リック、何も問題ありません。夜逃げ屋タルトはわたしに大きな借りがあるのです、接触さえしてしまえば、後は簡単な人任せの潜入です。……では行ってまいります」


 ゆっくりしていたらいつまでも出発できない、老いたネコヒトは東を目指して彼らに背を向けた。


「ねこたん、いってらっしゃいー! こんかいは……おみやげ、がまんするぞ。パティア、おねえちゃんだからー、みんなのふく、かってきて! よるは、さびしいけど……うしおねーたんの、おっぱいでがまんするっ!!」

「うっ……は、はずかしいことを言うなっ……。ッッ……教官、くれぐれもどうか、ご無事で……」


 ささやかな親離れを感じて、わたしが小さな寂しさをいだいたのは自分でも少し意外でした。

 それとこれはどうでもいい話ですが、わたしの娘は寝癖と、その際の手癖がとんでもなく悪いのですよ。


 牛魔族ホーリックスは己の教官を心配しながらも褐色の肌を紅潮させていました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 中略、日没と同時にギガスラインの(おお)きな壁を越えた。

 そこは当然ながらどこぞの花嫁泥棒と、ヤドリギウーズの群れによる兵員の死傷という二大事件により、これまでの平和ボケな警備体制が見直されていました。


 城郭では燃料代が恐くなるほどのかがり火が赤々と輝いていた。

 増強された警備隊がそれはもう活発に、要塞近隣の森をぐるぐると巡回しておりました。


 そこでネコヒトはいつもの潜伏魔法ハイドとアンチグラビティを用い、城壁を垂直につたってすみやかに駆け上がって差し上げました。


 城郭部にたどり着くと同時に風魔法を発動させて急な突風をよそおい、周辺のかがり火を全て消し飛ばして、まんまとこうしてまかり通って差し上げたというわけです。


 残念ながらわたしに言わせればこんなもの、まだまだ平和ボケしたハナタレ坊主の域です。

 もし魔軍にここを突破されてしまったら、パナギウムの国土は荒廃する。


 否応なく人間と魔族の果てしなき戦いに巻き込まれ、こんなことならもっとギガスラインの維持に金と人員をかければ良かったと、必ず後悔することでしょう。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 貧しく寂れたレゥム旧市街、どこかカビた匂いのする、手当のしようのない貧民の街。

 目に映るのは私生児、浮浪者、夜店、薄着の売春婦に、思わぬ行き止まり。


「……ん、今そこに誰かいなかったか?」

「おいおい何言ってんだ、怪談話にはちと時間が早いだろ。そういうのはね、女子供にしてやれ」


 整備されていない無秩序な街区が、外部から来た人間を惑わせる。


「おかしいな……でも確かにそこに……」

「いやそういうの止めろよなっ、お、脅かすんじゃねーよ……っ」


 そんな妖しい夜の貧民街を、フードをかぶった花嫁泥棒は再びハイドを使いつつ、誰にも気づかれずにタルトの骨董屋を目指さなければならなかった。


 ハイドはけして透明になる魔法ではありません。

 ただ気配を消すだけで、正面から目視されるとこういうことになるのです。


 それから少々苦労してようやく目的地に到着した。

 折よく店はその晩も営業しているようでしたが、念のため人目を避けることにしましょう。

 つまり勝手ながら、2階の窓から忍び込むことにしました。


 明かりは階下から薄ぼんやりと漏れるのみ、人間からすればそこは蒼い暗闇に包まれた部屋なのでしょう。

 わたしは琥珀色の瞳を光らせて、堂々とこの前のテーブルに腰掛ける。


 後は移動の疲れを癒しながら、何もせずぼんやりとこの建物の主を待ちました。


 来ませんね。


「ニャァオ……」


 とでも鳴いておけば気づいてもらえるでしょうか。

 いえ念のため申します、猫がわたしたちネコヒトの猿マネをしているだけで、ニャーはわたしたちが本家です、あしからず、誤解なきよう。


「姉御、ところでダンのやつは……」

「ああ、あたいが首を縦に振らせたよ。金ももう貰ってる」


「なら良かった」

「……それよりすまないけど、あたいはちょっと上に行ってくるよ。今日のしのぎはもしかしたら、アンタに任せるかもしれないよ」


 ほどなくして階下から足音を鳴らして赤毛の女が現れた。

 ローブをまとった怪しいネコヒトを見ても驚かず、剛胆にも向かいのイスに座った。

 それからあきれた目でわたしを見たようです。


「店の入り口から入りなよ、心臓に悪い……。ここじゃ強盗なんて珍しくないんだからね」

「フフ……驚いているようにはとても見えませんが。それにわたし、強盗ではなく人さらいですので」


 人には不便な暗さのようです。

 タルトがテーブルの上にろうそく台を置きましたので、わたしが火種を差し上げました。


「なんだいアンタまで。あたいはこれでも中身は乙女なんだよ。……おい、待ちなよ、なんだいその顔はッ!」

「はて、それは誤解ですね。わたしネコヒトですので、人間と違った表情をするときがあるのですよ」


 嘘です。タルトも当然ながらそんなこと分かり切っているようでした。

 しかしさすがに、乙女と呼ぶには彼女は勇ましすぎるかと。


「で、用件は? 今度は誰を誘拐するんだい?」

「おや、さすがに察しが良いですね」


 その勇ましい女がテーブルを両手で叩いて立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待ちなよっ、冗談だろ!?」

「いえまあ、冗談というより、既に事後でして。それで他でもない貴女に、ご相談したいことがあるのです」


 タルトはまだ知らないようです。

 蒼化病の里に殺戮者が現れたのが一昨日の晩、今頃パナギウムのお偉いさんは戻らぬ刺客に当惑していることでしょう。


 あるいは既に情報を得ており、蒼化病患者という厄介者と刺客の口封じが同時に片づいて安堵しているか。


「事後ってアンタ……。この夜逃げ屋タルトさんを差し置いて、一体誰をさらったって言うんだい……」


 とても大事なところです、わたしはその言葉を待っていました。

 そこで返答にわざと間を置き、立ち上がった彼女に合わせて大げさなお辞儀をした。



「――リセリです」



「リ……リセリ……だって……? あ、アンタ、あの子を……さらったって……。あ、あぁ……っ、何だ、そういうことかい……。ぁぁ……」


 まぎれもなくリセリはタルトに愛されている。

 驚きに次いで大きく安堵するその姿が事実を語ってくれた。

 ……しかしバーニィほどではありませんが、意地悪ですねわたしも。


「はい、リセリを含む、蒼化病の里の住民31名全てを、わたしがさらいました」

「それは、アンタの言う隠れ里にかいっ!?」


「はい、彼らにとって、この地上で最も安全な土地にです」


 震えたおぼつかない手で、タルトがいつもの砂時計をテーブルに置く。

 恐らくだが、その砂が流れ落ちるまでに平静を取り戻すよう、己に課したものでしょう。


 顔を合わせるのはこれで3度目、何となく彼女のことがわかってきました。

 砂が全て流れ落ちるとタルトの目線が上がる。いい女の瞳が涙をこぼしそうなほどに潤んでいた。


「驚いたよ……アンタがそこまでしでかすバカ野郎だなんて、思ってなかったからね……。そうかい、あの子たちを保護してくれたんだね……うちの、リセリを……」

「フフ……わたしは現実主義寄りですからね。ですがリセリとわたしの娘、それにバーニィが願ったのです。ですのでこれは、里の総意というヤツですよ」


 これならば計算通りにいきそうです。

 タルトはわたしに恩ができた、クークルス誘拐の際の協力を、帳消しにできるほどの。

 やがて少し余裕が出てきたのか、女の手で火酒がグラス2つに注がれた。


 飲めとそれがわたしの前に差し出されます。

 まあわたしはお尋ね者、人間の街では自由に動けない。断らずそれをあおることにしました。


いつも沢山の誤字報告ありがとうございます。

若年層でも読めるように難読漢字はできるだけ避けております。

いつでも感想お待ちしております。

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