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11-2 カールとフリージアと出立の準備

 わずかなブラッディベリーと、カブと山芋の汁物、後は骨付き肉だけの朝食は、まるでお祭り騒ぎのようでした。

 なにせ37人もいるのです。こうなると食堂が欲しくなってくる。

 器はパティアの作った物があるから良いとして、やはりイスとテーブルがないとなかなかわびしく食べにくいものです。


「なあパティア、そのベリーもらっていいか?!」

「いきなり、なにをゆう! カールはー、パティアよりおにいちゃんでしょー! これはあとで、べつのこに、あげるからだめー!」


 パティアはカールとジアと一緒に食べていた。

 リセリは年少組の世話があるようで、そちらの方に手を取られている。


「何だよ、パティアくらい強かったら森で取り放題じゃん、くれたっていいだろー」

「カールッ、アンタ昨日パティアに守ってもらったの忘れたのっ!? ごめんねパティア、こいつバカで恩知らずなの」


「だいじょうぶだ。たいていのことはー、バニーたんでー、なれてるから。バニーたん、よるなー、こわいはなししたりしてなー、パティアを、おしっこいけなくするんだ……」


 ええ、本当にしょうがない大人ですよ。

 それは罪深い許せないと、周囲の子供たちから同情的な言葉が口々に上がるのでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 朝食を終えると9歳以下を年少組、10歳以上を年長組として子供たちを15:15に班分けした。

 年少組は軽作業、クークルスの受け持ちにして、パティアを手伝って陶器をこねたり、リセリとパティアという護衛を付けて森での採集、水くみを任せる方針になりました。


 対して年長組は畑とバリケードの増築、水路整備、バーニィの木工仕事、料理に慣れている女の子はリックの調理補助を任せます。それぞれに役割が割り振られて引率されていきました。


 しかしそれらの作業は30人もの人手は必要なく、多くても20名もいれば交代で休憩出来るくらいには人が余るようでした。


 道具が足りていないとこうなります。

 特に人間は道具を持つことで真価を見せる種族ですから、わたしが思っていた以上に道具不足は深刻な影響を及ぼしました。

 それとリックの負荷を減らすためにも、まとめて煮炊きできる大鍋も欲しい。


「持ってきたぞエレクトラムさん!」

「手伝わせてしまってすみませんね、カール」


「いいってことよ!」

「カールより私の方が沢山運んでるのに、なんでそんなに偉そうなのよっ」


 肉が凍り付けになった倉庫で出発の準備をしていると、カールとジアが来て荷造りを手伝ってくれました。

 夜逃げ屋タルトに貰った大きなリュックに、わたしは上手く入るようにあれこれと順番に商品を詰め込んでゆく。


 今回は毛皮を持って行きません。

 備蓄の全てを子供たちの部屋に回すことになったので、在庫がもう0なのです。

 例外的に首狩りウサギの毛皮は(ガルド)になるので、リュックの底にしき詰めました。


「なぁ、これってなに?」

「魔界側に生える希少薬草の数々です。こちらの布に詰めて下さい」


「へーー。じゃあこっちの緑の綺麗な石は?」

「それ綺麗だよねっ、何だかいかにもお金になりそう……。でも、これって売っちゃっていいものなの……?」

「ええ、その石は邪精霊トロルから得られるトロールストーンです、わずかに生命力を増幅する力があるそうです。まあそこは気にする必要ありませんよ。結構レアですが、うちの娘とコンビを組めばトロルなど敵ではありません。その気になれば再入手が可能でしょう」


 後は珍重されるキノコを干したもの、薬効を持つキメラの角など、モンスターから得られた有用な魔物素材の数々、それらをリュックに工夫して詰めていきました。

 今は少しでも道具を確保したいので、売れる物は売ってしまうべきなのです。


「俺もエレクトラムさんくらい強かったらなぁ~、魔界の森も、ただ歩いてるだけで楽しいんだろな~。あ~、俺も早く強くなりてー!」

「カールは戦士とか向いてないよ。だって10歳にもなって私よりチビだもん」


「だからそれはお前がでけーんだよ! 同い年なのにこんなの理不尽だ!」


 カールとジアはパティアから見て2つ年上のお兄ちゃんお姉ちゃんです。

 何だかんだいつも一緒にいるので、口には出せませんが本当は仲が良い。

 ちなみにジアは略称で、フリージアという麗しき花の名がジアの正式名称だとか。


「ありがとうございます、お二人のおかげで後はどうにかなりそうです。もうこちらはいいので、畑の方を手伝ってあげて下さい」

「え~、でもあっちはあっちでさ、やることなさそうだったけどなー」

「ねえねえ、それより何を買いにいくの?」


 座って荷造りするネコヒトは、左右から毛並みに寄り添われてしまいました。

 わたしはどうもジアとカールに好かれているらしいです。


「クワとか斧です、それと種も。それがあればみんな仕事に困らないでしょう。……さて、こんなものでしょう」


 わたしは大きく膨れ上がったリュックを背負い立ち上がる。


「とにかく畑の方に行けば仕事を割り振ってもらえるはずです。それでも見つからなかったら、自分で探すか、体力を温存させておいて下さい。わたしは少し寝ます」

「えっ、今から寝るのっ?!」


 ジアが驚いて女の子らしい高い声を上げる。

 いいのです。わたしは昔から皆が働いたり戦っている中、ゆうゆうと昼寝をするけったいな生き物でした。


「はい、わたしそういう生き物ですので」

「猫だもんなー!」

「ちょっ、猫って言っちゃダメだよカール! うん……どう見たって猫だけど、それは口に出しちゃダメだから……ッ」


 すみません、聞こえてますよ……。

 わたしのどこが猫っぽいのか詰問したいところでしたが、眠いので寝て忘れることにします。


「では、おやすみカール、ジア。あまりケンカばかりして、周りに迷惑をかけないようにして下さいね」

「はははっ、それ無理だよ。ジアが何しても突っかかってくるし」

「カールがバカするからでしょっ!」


 そういうことです。わたしは凍り漬け肉で涼しい倉庫を出て、自分たちの部屋に戻って書斎ベッドに横たわった。

 そうすると急にいいことを思い付きました。人余りがそこまでひどいならばいっそ、アレを使ってしまえばいいじゃないですか……。


 まあ、起きたときにこの思い付きをまだ覚えていたらの話です。

 寝ましょう、昼過ぎまで、皆が働いている中、優雅にネコヒトはネコヒトらしく。


 わたしは古種、魔王に仕えた古い生き物、若者の仕事を奪ったら老害と言われてしまいます。


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