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1-5 水瓶と突剣、娘が見つけたおいしい水

「あっそうだ! ねこたん、あのなー、ちょとまってろー? パティア、いいもの! みつけたんだぞ。……ほら、これー!」


 パティアが書斎机の陰に駆けていった。

 一体何を拾ってきたのかと内心不安を抱いたものの、それはすぐさまひっくり返っていた。


「けん!」

「おお……これはエペではないですか。しかも錆びていない。これはこれは……」


 それはわたしが得意とする小剣の一種、突剣エペです。

 レイピアのような斬撃性能こそ高くありません。それにあれよりだいぶ重いです。


「どうだねこたん、つかえそーか!?」


 それでもショートソードよりずっと軽く、的確に急所を突けばどんなモンスターも1撃で倒せる刺突能力を持っています。


「はい、お手柄です。これほどまでに活動的で頼もしいお子様とは、昨日まで思いもしませんでした。今日のご飯は期待して下さっていいですよ、では行きましょう」

「あ……。うん、みずうみな、すごいぞー! ねこたんにー、はやくみせたい! あれはな、すごいんだぞー!」


 わたしはネコヒト、気まぐれで現金です。

 手柄を上げたパティアと手を結び、彼女を寝床、つまり司令部の外へと連れ出しました。


「ところで小さな水瓶はありましたか?」

「みずがめか? んんーー……けっこう、われてたな。……わかんない!」


 パティアに引っ張られて城を下り、1階の奥に案内された。

 そこは土くれの地面むき出しの四角い部屋で、なんとその中央には井戸があった。


「残念ながら埋まってますね。いえ、埋めたというのが正しいでしょう」

「うん。ためしてみたけどな、だめだったぞ」


 水瓶の方はパティアの腰のあたりまである中型が4つ生きてた。

 ところがそれ以外となると、半壊した小型の水瓶がわずか1つだけという残念な成果です。

 ところどころヒビも入っており、これじゃいつ壊れるかわからないボロ中のボロでした。


「わたしこういうことを言うタイプではないのですが。パティア、あまり危ないことはしないで下さい」

「あぶない? あぶないかー?」


「ここに落ちたらどうなると思いますか」

「いたい。……あと、くらい。せまい。おおっ、おちたら、こわいな、いど!?」


 わたしとパティアは力を合わせて中型の水瓶を司令部に運びました。

 それから小さい方の水瓶を手に、城の外へと抜け出すのでした。


 

 ○●(ΦωΦ)●○



 少しばかし落ち着いてきたおかげでしょうか。

 わたしの心に、今立っているこの場所について意識や好奇心を向ける余裕が芽生えかけていた。


 ここは山と森に囲まれたすり鉢状の盆地に位置しているようです。

 東の森から城の方角を見上げると、その向こう側に緑豊かな山と、無数の崖が確認できた。

 こういった地形は大地の傷痕ではそう珍しくない。


 何かとてつもない力が降り注ぎ、大地が底までえぐれ消し飛んだ土地、それがこの場所です。

 よって湖があったというパティアの報告は、わたしの認識からすればちょっと意外な報でした。


 今日も変わらず東の空は青く晴れ渡り、西の空は赤紫の暗雲を渦巻かせ、ここが境界の土地であることを自己主張している。

 湖があるとすればそれは当然、すり鉢の中心側に他ならない。

 わたしを引っ張るパティアも、わたしの予想通りの方角に歩んでいきました。


「ほら、キラキラで、でっかいみずうみ!」

「フフフ……今日は目と耳を疑うことばかり起きますね。これはまた大きい、それに清らかな素晴らしい水質ではないですか」


 静かで美しい湖がそこに眠っていた。

 対岸のどこに目を向けても青々とした木々に包まれて、深く澄んだ水の向こうには魚影がいくつも確認出来る。


「へへーんっ、すごいだろねこたん。パティアがさいしょに、みつけたんだぞーっ」

「ええ、城からそう遠くないとはいえ近くもない。こんなところまで独りで森を歩いてしまったのですから、つくづくとんでもないお子様ですよ、あなたは」


 そこにある清浄な静けさは、わたしに神聖な力を錯覚させるほどです。

 その中で小鳥がさえずり、サラサラと常緑広葉樹の木々がそよいでいる。

 マグノリア、ヒメシャラ、カエデ、アベリア、鳥たちの餌が豊富なのだろうかここは。


「キラキラがなー、おしろからみえてなー。パティアは、キラキラさがしにいったんだ。キラキラは、きれいなみずだった」

「お手柄ですパティア。しかしそうですね、ふむ……」


「ん~~、どうしたねこたん?」


 わたしは湖を背にして来た道に振り返った。

 周囲を慎重に見回し、自慢のカンで気配を探る。……鳥ばかり。


「……まあ大丈夫でしょう。パティア、役割分担です。あなたは飲み水の確保をお願いします」

「おお、わかった、まかせろー! これは、せきにんじゅうだいだな……がんばるぞー。よーし、みにあまるこうえいだ」


「パティアは難しい言葉を知っているのですね」

「お、おう……。いみは、パティアしらないけどな……」


 パティアに向けて軽く笑う。それに続いて腰元のレイピア――ではなくエペを確認した。

 まともな状態の物が他にあるとは限らない、丁寧に使わないと。


「ではすみませんがわたしは狩りに向かいます。残念ですがあなたを連れて行く余裕はありません。水を城に運んで下さい、これはとても重要な任務ですので」

「じゅうだいか……」


「重大です。ほら、ご飯が喉に詰まったら大変でしょう?」

「それは……それはたいへんだ! いきができなくて、しぬ!」


 おかしな子ですね、本当に。

 豊かな想像力がそうさせたのか、パティアは両手で自分の首を抱えておりました。


「では大変かもしれませんがお願いします。……あ、ちなみにですが、ここの水を飲みましたか?」

「うん、のんだぞー。つめたくて、すごくうまかった! どろじゃないみずって、うまいなー!」


「害はないみたいですね。もう少し警戒して飲むべきだったと思いますが……ん、泥じゃない水?」

「まあ、いろいろあってなー。じんせい、たいへんだった……」


 魔界に逃げてくるほどです、さぞや悲惨な逃亡生活があったのでしょう。

 この子、明るさからは想像がつかないですが、何だか普通に幸薄です……。


「8歳とは思えない深みがありますね。……ふぅ、確かにコレは良い水です、しみる。ニャー」

「おお、ニャーっていった! ニャーいうほど、うまいんだなー!」


 わたしは湖水で喉を潤した。

 これはなかなかの名水です、水質と直感を信じて水分をたっぷりと補充した。


「そんなところです。ではこのうまい水を城にお願いします。……ではいってきますパティア」

「いってらっしゃいねこたん! ここはまかせろ、きれいなみずは、パティアもほしい、しょ、しょぞん?」


「フフ……一緒にがんばりましょうね。わたしの娘となったからには、持ちつ持たれつ手を取り合っていってもらいますよ」

「まかせろー! まほう、つかえるようになったから、あしはひっぱらない、なんでもいえ! がんばるぞぉー!」


 本当に頼もしいものです。

 普通の子供ならこうはいかなかったでしょう。

 父親を殺されたことにへこたれて、この慣れない環境に参ってしまったに違いない。

 これがただの子供ならさぞや手を焼かされたはずです。


「だてに人類最強の8歳児ではありませんね。たくましくて剛胆というか……つくづく末恐ろしい……」


 わたしはパティアと別れ、湖の北部で狩りを始めることにした。

 パティアという鷹のヒナに、わたしという小鳥が餌を与えるために。


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