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10-10 終幕 蒼化病の里が終わる日

 その晩は城のバルコニーでの焼き肉パーティになりました。

 痩せっぽっちの蒼化病の子供たちに水浴びをさせて、メギドフレイムを熱源にして焼き肉と、わずかばかりのカブと山菜のスープを作りました。


 腹が満たされると次はそれぞれの部屋割りを決めました。子供たちが新しい安全な住処に大喜びしてくれたのです。


 家具も寝床も足りていないというのに、その不足した生活を楽しみに変えていました。

 これからどうするべきなのか、課題は山積みで、安定した未来なんてまだ見えない状況だというのに、バーニィまでもが希望を胸に抱いて、明日からの新しい生活を夢見ていたようです。


 といってもさして子らに手を焼くことはないでしょう。

 彼らは親と国に棄てられた私生児、即戦力になってくれるに違いありません。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「こんばんは、エレクトラムさん」

「よ、よぅ、ちょっといいべか……?」

「おやカップルそろってこんな時間に何のご用でしょう。仲むつまじいあなたたちに、屋上の見晴らしをお譲りするのも、やぶさかではありませんが」


 バーニィがからかうのもわかる気がします。

 リセリとジョグが恥じらいを浮かべて互いに目を合わせ、すぐにワイルドオークの方がそらしておりました。


「お、おめぇなにいってんべよっ?! お、おいらたちは、人間とワイルドオークだべよぉ?!」

「ここに逃げてきた以上、あなたは覚悟を決めるべきだと思いますよ」


「な、ななっ、何の覚悟だべさーっ?!」


 フフフ……笑ってしまいます。

 今日日ここまで純粋と申しますか、無垢なカップルをしている者も少ないでしょう。


「は、恥ずかしいです……。それよりエレクトラムさん、あらためてお礼を言いに来ました」

「そうだべっ、そのために来たんだべよ!」


 ネコヒトは城郭の上から魔界の方角を眺めておりました。

 夜になると魔界側の方が明るく見えるようになります。

 チカチカと走る雷光と、遠い日の思い出をさかなに、ずっとぼんやりしておりました。


「ありがとうございます! みんな、みんな無事にここに来れるなんて、ジョグさんとずっと一緒にいられるなんて、信じられない、夢みたいです……」

「おいらたちがんばるからよ、どうか見捨てねぇでくれよ。自分たちで自分の食い物くらい作れるようになるからよ、それまでは頼むべ、あの子たちをこれからも、食わせていってやってくれ、頼むべ……」


 身を起こして城郭に座った。彼らはバカ正直で、真剣でした。

 年寄りのわたしの方が不真面目でいい加減ときます。


「こんな気分の良い夜に、辛気くさいこと言わないで下さいよ。わたしもパティアもバーニィも、リックとクークルスもまた元の世界には居られなくなった者たちです」


 どうでもいいですけど、2人そろってこんなこと言いに来るなんて、何ともまあ……お似合いですこと。


「出ていくことができない以上は、この場所を理想の土地にするしかありません。手を携えて不便を減らし、町の生活では当たり前に得られていたはずの満足を、自分たちで、作っていくしかないのです。30人の子供たちというのは、そういった面で言えばとても好都合なのですよ。感謝など結構です、一緒にがんばって下さればそれで」


 わたし冷淡で性格が悪いんです。

 それだけ伝えてまた魔界の方角に座り直しました。


「つまり……ずっとここにいても、いいってことだべか……?」

「邪魔じゃないですか? 私たちがまた危険を呼び込むかもしれませんよ……? 他の人間の方が来たら、私たちを嫌がると思います……」


 そういう人間はこっちから願い下げです。

 強い力を持ったパティアを祭り立てて、その後に都合が変わると迫害するに決まっている。

 言うなればわたしは300年の歴史そのもの、どうなるか知っているんです。


「許可なんていりませんよ。ずっとここに居てください、お爺ちゃんお婆ちゃんになるまでずっと、うちの娘と友達でいて下さい。ではこの場所はお譲り――おや」


 城郭から飛び上がり、屋上の扉を抜けて戻ろうとた。

 けれどもその扉を開くと、蒼化病の子供たちそこに張り付いていた。全員ではありませんが10名ほどもいます。そして……。


「な、なにをするのですかっ?!」


 それが困りました。

 その少年少女たちがネコヒトの胸に、足に、ありとあらゆるところにいきなり飛び付いてきたんです。


「ありがとう、エレクトラムさん!」

「思った通り、ふわふわしてるー!」

「こんな毛布、私一度もさわったことない!」


 感謝の抱擁でした。しかしそれは次第に趣旨が変わっていきました。

 わたしの自慢の毛並みがそうさせたのか、それとも親のいない子供たちの寂しさゆえか。


「わたしは毛布ではありません。ちょっと、こら、モフらないで下さい……、疲れてるから今はちょっと敏感……ふ、ふにゃ……」


 魔王様、どうして人間はこんなに撫でるのが上手いのですか……。

 ああわたしの虚栄心が、わたしのクールなネコヒト像が、崩れて落ちてしまいます……っ。


「何でも言って! 私エレクトラムさんのお願いなら、何だってするよ!」

「俺も俺も! あそこじゃ苦しいことばかりだった、だけどここなら俺、がんばれるよ! あっちじゃどうにもならなかったけど、こっちなら!」

「ネコヒトってすごいんだな! 俺もエレクトラムさんみたいになりたい!」

「ふ、ふみゃ……ふにゃぁぁ……ゴロゴロ♪」


 止めなさい、おだてながらアゴの下をかいたり撫でるのはお止めなさい。

 こんな状況でゴロゴロ喉を鳴らしていたら、まるでわたしが猫みたいに大喜びしてるようではないですか……。


「あっ、みんなさがしたぞー。こんなところで、なにしてるのーっ? はっ……、ねこ、たん……」


 それを娘に見られました。

 クークルスとの一件からして、うちの娘はときに嫉妬深いところがあります。


 喉のゴロゴロを収めなければ、友人関係に亀裂を与えかねない、おさまれわたしのゴロゴロよ……くっ、ダメだ、こんなの無理ですよ……っ。


「それはパティアのもふもふ……うっうぐっ、ぐぐぐぐぐ……。い、いいだろーっ、パティアのパパ、ふかふかだろー! と、とくべつにー、いまだけ! さわらせてあげるからなー!」


 少し感動してしまいました。成長しています。

 クークルスとの和解がそうさせたのでしょうか、寂しい反面これは喜びです。


「なら私、今日はエレクトラムさんと一緒に寝たい!」

「え……」

「お、俺も! 俺たちの部屋に来てよっ、ねぇいいよね!」


 8歳児の顔から余裕と笑みが消えてゆく。

 今日はわたしと一緒に寝るつもりだったらしい。


「だ、ダメーっ!! ねこたんはー、パティアとねるのーっ、パティアのパパだからー、それだけはだめなのーっ、ねこたんはー、パティアのなのーっ!!」

「ふにゃぁっ?!」


 成長したと思いましたが、やはりそこは譲れないのですね……。

 わたしはパティアのタックルを食らい、子供たちに囲まれ小一時間モフモフ撫でまくられました……。


「いいかー、ねこたんのなでかたはー、こうっ。やさしくー、あいじょうをこめてー、うえからしたにだ。はやすぎてもいけない、おそすぎてもいけない……ねこたんのきもちいいかおを、よくみてやりましょー!」


 明日起きたら久々に水浴びでもしましょうかね……。

 お子様の匂いと皮脂がすっかり毛並みにこびり付いて、どうにも落ち着きません。


 こうして子供たちは元々持っていた明るさを取り戻し、当たり前の無邪気さでわたしたち大人を驚かせるのでした。


 わたしの毛並みで傷ついた心が癒えるなら、まあ少しくらいは我慢しましょう……。今日だけサービスです……。


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