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10-8 お尋ね者と追撃者 - キシのキシリール -

 新手を迎撃する予定でした。しかし状況が変わりました。

 勇んで向かったはいいものの、その新手の集団というのが、ヤドリギウーズに乗っ取られた死体どもではなく、パナギウム王国が派遣したウーズ討伐隊だったからです。


「キシリール隊長、前方で戦闘が繰り広げられているようです。どういたしましょうか……」

「魔族側の軍勢か? うーん、そいつらと鉢合わせになるとまずいぞ……」

 

 ええ、わたしも同じくまずいことになって困っていますよ。

 ここでもしわたしが姿を見せれば、戦いになるでしょう。


 しかし彼らをここで止めなければ、シスター・クークルスの姿と、蒼化病の子供らをわたしたちが連れ去る現場を見られてしまう。そうなれば弁解は意味をなしません。


「仕方ない偵察を送ろう、それからでも遅くない」

「さすがに危険過ぎませんか? 兵がまたヘソを曲げますよ……?」


「しょうがないだろう……そういう仕事だ」


 偵察を送りますか。仕方ありません、諦めました。

 クークルスは隠し通すとして、蒼化病患者の移送はこれではどうあがいてもバレます。


 それと忘れてましたが、バーニィの存在もまずいです。

 彼はパナギウムの歴史上最高峰のお尋ね者、そう呼んだって不都合の無いくらいのバカをしでかしています。

 そこでわたしは姿を現すことにしました。


「お、お前は……ネコヒトか」

「となるとあちらで起きている戦いは魔軍によるものか……」


 ネコヒトという少しレアな生き物に、彼は驚きと同時に納得されました。

 補足いたします。ナコトの書は後方の樹木の上に隠しておきました。


 危険があることを承知で、隊長キシリールの前に降りる。

 当然、剣を抜いた兵にわたしは取り囲まれました。

 両手を上げて敵意がないことを示しているというのにです。


「初めましてパナギウム王国の兵士、騎士の皆さん、わたくしは雑魚で有名なネコヒトの、エレクトラム・ベルと申します。して単刀直入に申しましょう、わたしたちは魔軍の穏健派の者です、サラサール王子とはそこそこ懇意にしております。こんなところで戦争のきっかけを作る必要もありませんし、ここは共闘していただけませんか?」


 サラサールの名を出すと指揮官らしい騎士キシリールの顔色が変わりました。

 口から出任せだったのですけど、どうもこの手口は効くらしいですよ。


「自分はキシリール、パナギウムの騎士だ。我が国も魔族と戦争をする気はない、サラサール次期国王もきっと同じだろう、エレクトラム殿」

「ええ、わたしたちが争っても何の意味もありません。平和こそ一番ですから」


 甘ちゃんの平和ぼけ国家でいてくれたことに、今だけは感謝しましょう。

 そう理想通りにはいかないのですよ、ナイト・キシリール。


「ではわたしは急ぎ向こうにこの話を伝えます。わたし、足だけは早いですから、今すぐ行動してくれてかまいませんよ」


 話が付きました、疑われる前に背中を向けてさっさと引き返します。


「待て。お前……」

「はい……?」


 まさか花嫁泥棒だと気づかれてませんよね……?

 いえそんなはずはありません、とても犯人だとは推理できないはずです。


「エレクトラム・ベルだったか。魔族にしては話のわかる方で助かった。俺の名は騎士キシリール、騎士のキシ、キシキシとでも覚えておいてくれ」

「はい、では今後ともこのエレクトラムをよろしくお願いいたします、ナイト・キシキシさん」


 兵が道を開けてくれました。すぐに駆け足でその場を離脱します。

 樹木の上に隠したナコトの書を回収して、直後にアンチグラビティを再発動、速やかに仲間の元に戻りました。子らに被害を出したくありませんでしたから。


 わたしは書を片手に持った小柄なレイピア使いの魔族。この魔導書を持っていけば話がこじれていたでしょう。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 無事に合流を果たせました。

 戻るとヤドリギウーズの群れが勢いを落としています。

 しかし厄介ごとがすぐそこに訪れている。バーニィの隣に戻り、警告してやりました。


「まさか全部片付いたから、もう戻ってきたとか言うなよ、ネコヒトよぉ?」

「フフフ……それが不幸は重なるものでして。あちらにいたのはヤドリギウーズの群れではなく、騎士を含むパナギウム王国の討伐隊です」


 はい、効果てき面でした。彼にとってそれはとてもまずい相手なのです。


「に、人間がきてるべかっ?!」

「兵隊さん……そうでしたか、良かった……」

「いえ良くありません」


「え……?」


 リセリは安堵しましたがそうではないのです。

 この現場を、彼らは魔族が子供たちを誘拐していると思い込むでしょう。


「バーニィ、顔が青いようですが、蒼化病にでもかかりましたか?」

「ま、まじぃわ……。何でこんなときに限ってっ、討伐なんて酔狂なこと始めんだよぉっ?!」


「ギガスラインの警備隊が襲われたからでしょうね。ああ、指揮官は騎士の、キシキシだと名乗っておりました」

「キシリールか……あいつならまだマシか……だがなぁ、許しちゃくれねぇだろうなぁ……? 騎士団のメンツもぶっ潰したしなぁぁ……」


 同情なんてしません、自業自得です。

 ヤドリギウーズをファイアボルトで排除しながら、わたしはパティアのいる前方をうかがう。

 前はかなり余裕があるようです、パティアの魔法発動が減っているのでよくわかりました。


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