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10-5 ネバーランドの守護者たち - 虫の知らせ -

 繰り返します、隔離病棟への到着は夕方前になりました。

 そこで予定通り今晩はここで休みを取り、朝方に出発する段取りに決まりました。


 そうなると訂正が必要になります。リセリは何もないところと言っていましたが、今夜と朝に限れば意外とそうでもありません。

 明日の朝にはここを発つのです。もう戻ることもありません。リセリの献身が功を奏して、今さら移住を悩む者もどこにもいません。


 そういったわけです。里にたまった備蓄、主に食料を晩と朝で食い尽くしてしまうことになりました。

 それと同時に里の子供らには、眠くなる前に荷造りをしておいて欲しいとお願いしました。


 その間に里の倉庫の干し肉や麦、今日まで子供たちが命がけで集めた森の採集物を使って、ボリュームいっぱいの晩ご飯を作ることになっています。


 とまあそういうことです。リックとパティア、シスター・クークルスに調理を任せて、ネコヒトはヒゲのおっさんと近隣の偵察ついでに狩りを始めました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 ほどなくして安全の確保と狩猟が落ち着きました。


「まじでパナギウムの連中は頭おかしいわ……。わざわざこんな危険地帯によ、子供を隔離しなくてもいいのによ……もっと早く来りゃ良かったわ……」

「まあまあ、おかげで大物と出会えたことですし、物事の負の部分ばかり見ていると早死にしますよ」


 この辺りのボスでしょうか。大きなワイルドボアをバーニィと2人でしとめました。

 顔だけ見るとジョグに似ている。まあその程度のことを気にしていたら、魔族なんてやってられませんよ。


「齢300年の爺さんが言うと説得力があるねぇ。それより早く食わせてやらねぇとな、干してねぇ肉ってやつをガキどもによ」

「はいそうしましょう。後ろをお願いします、さすがにアンチグラビティを使っても、この重量は運べません」


「わかった。しっかしその術メチャクチャ便利だよな。荷物の重さ半減ってことはよ、筋力が倍になってるようなもんだろ」

「いえ、代償として吹き飛ばし耐性が落ちます。リックのような力と技術両方を持ったタイプには脆弱でしょう」


 わたしたちはナコトの書を頼ってもまだ重い、大きな猪肉の塊を里に運び込みました。

 里の子らの歓声が沸き起こり、わたしたちの株が上がったのは言うまでもありません。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 わたしたちにとって久々の麦料理でした。

 干し肉入りのオートミールに、畑のほうれん草と猪肉のスープ、それとワイルドボアの焼き肉がわたしたちのお腹を満たしてくれました。


 彼らは限界寸前の生活をしてきたのです。久々の焼き肉を子供たちががっつき、あっという間に猪肉の全てを胃袋の中に消してみせてくれました。

 それからすぐに夜が更けた。


「ではごゆっくり」

「ねこたん……さびしいなら、のこるぞ……?」

「それはまた今度にしましょう。寂しくなったらこっちの家に来てもいいですからね」


「へへへ、だいじょうぶ、ごしんぱいには、およばねぇ……いってきまーす!」


 そこで大人には少し手狭なものの、リセリの家を借りて夜を明かすことになりました。

 うちの娘はここではなくリセリと一緒に、他の子供たちのお宅のご厄介になりました。

 平たく言ったところのお泊まりというやつです。はしゃぐパティアを見送って大人は早い眠りにつきました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 深夜、人間からすれば真っ暗闇の世界でネコヒトは目を覚ましていた。

 あの日以来、感覚がやはり冴えている。ただちにバーニィとリックの肩を軽く叩いて起こしました。


「どうしたネコヒト、こんな夜中に……しょんべんにでも行きたくなったか?」

「はいはい、寝言はそこまでです。リック、あなたにも聞こえますか?」


 牛魔族リックがむくりと無言で立ち上がり、己の短剣を抜いて元に戻す。

 その動作でバーニィも状況を薄々理解したようです。


「教官、次までに重槍の手配を頼む」

「そんなマニアックな武装、そうそう手に入るとは思えませんが、考えてはおきましょう」


 人間の鍛冶屋に重槍を注文するのが最短でしょうが、下手すればそこから魔軍に足取りをつかまれかねない。

 そのくらいリックの求める武器は、規格外な重さ大きさなのです。


「子供たちが――うちのパティアが気づく前に片付けますよ」

「パティ公の力は並外れてるからな、簡単に相手を殺せちまう。だが同族殺しを背負うには、まだ全然はぇぇよな……」


 そういうことです、外にある気配は恐らく人間のもの。そして8歳で同族殺しをすれば、その人間は確実に歪む。

 世界を滅ぼし得る力を持つ娘に、そんなことをさせたらあるのは破滅だけです。


「とにかく行くぞ。オレからすれば敵からまともな武器を奪うチャンスだ。それとバーニィ、言っておくぞ、オレは生かして返してやる気はない……」

「そこは気づかい無用だぜホーリックスちゃん、子供を虐殺しようだなんてクズは、死んで当然だろ」


 準備も話も付いた、わたしたちは建物を出て真っ暗闇の外に忍び出た。

 しかしおっかない展開です。今朝リセリがああしてわたしに願わなかったら、ここに陰惨な結末が待っていたのですから……。


 あの子、やはりかなり変わってます。あの鋭い感知能力が、虫の知らせというやつを読み解いたのでしょうか。


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