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9-5 バーニィ・ゴライアスの密やかな悪趣味

 その後昼食が終わると、わたしは自由行動となりました。

 いつもならここで寝るのですけど困りました、やはり眠気が発生しません。

 そこで狩りに出ようと決めて、バルコニーから広場に飛び降りた。


 行く前に誰か見つけて一声かけておこう。

 そう決めて畑に向かうと、ちょうどそこにシスター・クークルスの姿を見つけました。


「ふぅ、ふぅ……ホーリックスさんってすごいわ、こんなものを、んっ、軽々と……。んしょ、んしょ……ふぅぅっ」


 声をかけるつもりがついつい観察してしまいました。

 何だかその見てくれが単純に面白かったのです。

 何せ聖堂のシスターが、クワなんかを持って畑を耕しているんですから。


 結構な重労働だというのに、クークルスがさわやかな笑顔を浮かべている。

 淡い緑の髪から汗を拭い、夢中でクワを不慣れに振り回しています。

 クワに振り回されるわたしが言えたことではありませんがね。


「楽しそうですね、シスター・クークルス」

「あらエレクトラムさん♪ もうシスターではありませんよ、これからはクーちゃんって呼んで下さい」


「すみません、その呼び方にはかなりの抵抗があります」


 もしパティアが聞いたらまた不機嫌になるでしょう。

 いったいいつ打ち解けてくれるのやら……。心配ではありませんがクークルスに申し訳ない。


「そんな……っ。あ、ではクードンというのはどうですかっ? クークルス・ドゥーアンですから私、略して、クードンです♪」

「クードン……」


「はい、なんでしょうかエレクさん♪」


 トラベルさんになったり、ねこさんになったり、今度は勝手に略してエレクだそうです。

 つくづく浮き世離れしていて不思議な人でした。


「ところでそんなに畑仕事、楽しいんですか? いえ、良い笑顔で仕事をされていたようなので」

「はい、楽しいです! 世界にはこんなに楽しいことがあったんですね、私驚きです!」


「あまりがんばり過ぎると腰とか腕にきますよ。それと服、やっぱりどうにか調達した方が良さそうですね……」


 修道服、これはこれで清楚感があるものの辺境生活に向いてるように見えない。

 この地では見た目の見栄を張る必要もありません、男はおっさんとネコヒトしかいませんしね。


「それもそうですね……。慣れてるからいいですけど、少しだけ動きにくいかしら……。ふふふっいっそ、脱いでしまいましょうかー♪」

「いえ、冗談なのか本気なのか判断しかねますよレディ」


「はい、冗談ですか……?」


 クークルスが首を傾げる。まさか今の、本気だったのでしょうか……。


「下手に脱がれるとバーニィがやかましくなるので、そこは止めておきましょう」

「ああ、バニーさん! とても親切な方ですよね、さっき肩をたくさん揉んで下さいました。それがとても上手で、それでもっとがんばろうと、やる気が出てきたんですよー」


 ネコヒトは耳を疑いました。肩を揉んでくれたと、王族が見初めた清楚なシスターが言いました。

 セクハラは、された本人がセクハラと認識しなければ、セクハラとはなりません。


 はぁ、何やってるんですかバーニィ……。わたしの今の微妙な心境をどうにかして下さい……。

 せっかくあなたを少しずつ見直し始めてきたというのに、全くもう……。

 バーニィ・ゴライアス、何をやってるんですか……。


「シスター……いえ、クークルス……」

「はい?」


「バーニィは確かにいいやつです。しかし彼は……いえ、やっぱり何でもありません。あなたがそれでいいならまあ、いいんじゃないですかね……」


 妙な言い回しに逃げてしまいました。

 ただこれだけはちゃんと言っておくべきでしょうか。


「何かあったらリックに相談をして下さい、エスカレートするようならどうにかケジメを付けさせますので」

「……はぁ、エスカレートって、何がですか?」


「いえ、まあ、あなたがいいならいいのです……」


 本当にこのシスター、24歳なんでしょうか……。

 ついつい昼過ぎの日差しの下、魔界側の遠い暗雲に目を向けていました。

 ああ、本当にわたし、バーニィを見直し始めていたんですよ……? 元は立派な騎士だったのだなと……。


「おおそこにいたか、クークルスちゃん! おおネコヒトじゃねぇか、今日もぜんぜん眠くねぇってやつか?」

「おや、現れましたねバーニィ」


 さてどうしましょう。いえ詮索とか干渉はわたしの趣味ではありませんし、いやしかし……。


「あ、バニーさん♪ さっきは肩をほぐして下さり本当にありがとうございます♪」


 ……おやおや、ド天然恐るべし。

 さりげないその言葉がバーニィの顔を引きつらせた。下心で肩に触れた自覚があるからです。


「うっ……お、おおっ、まあな! なんか疲れてたみたいだしなぁぁ、おっさんなりのー、いたわりってやつよー?? べ、別によ、別に……別に下心で触ったわけじゃねぇぜネコヒトよぉっ?!」


 わたしこれ知っています。

 100%混じりっ気無しの、見苦しい言い訳でした。

 言えば言うほどダメなやつです。


「はい、別にわたしには関係ありませんし。ただ……リックがもしその光景を見たら、引くかもしれませんね、あの子、あれで少し潔癖な方ですから」

「うぐっ……?! そ、そうか、そういうもんか……?」


 そんな態度を取るものだから痛いところを突いてやりたくなる。突いちゃいました。

 普段あれだけ大胆不敵なバーニィが狼狽している。それはただの身から出た錆でしたが。


「あのー? 何か問題でもありましたでしょうかー……?」

「いえ、本人らがそれでいいならいいのです。ではわたし、狩りに行ってきます。2人ともがんばりすぎて明日筋肉痛で動けない、だなんて情けないオチは止めて下さいよ」


 まったくエッチなおじさんで困ったものですよ……。

 やましい目的が無かったのならまだ許せましたが、バーニィの動揺が真実を物語っていました。


「あっ、そうでしたー。それなら私の方からも、バニーさんの肩を揉ませて下さい、これでおあいこです♪」

「あ、あのな、それは……それは今度頼むわ、今度な……?」


 バーニィ、そのヒソヒソ話も聞こえておりますよ。何をやってるんですか、本気でリックに言いつけますよ……?


 バーニィ・ゴライアスは、女性のことになると途端にバカになる普通のエッチなおじさんでした……。


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