9-3 ネコの隠れ里をバリケードで囲もう - 欠食娘 -
採れたての妖精キノコを持ち帰ると、すぐにクークルスとリックがそれを朝食の具材に加えてくれた。
それからわたしは待ち時間を使ってツルの籠を編むことにして、しばらくをゆっくりと作業に無心になって過ごしました。
なにせ取り急ぎどうしてもその籠、ひいては運搬道具が必要だったからです。あちらの子供たちの引っ越しのために、籠はいくらあっても困りません。
やがてしばらくするとリセリとパティアが古城に戻ってきました。
リセリまでもが饒舌な早口になって、何でもない話を2人は夢中でかしましく行き来させていたのです。
蒼化病患者の救済、それはパティアの育成の面で見ても間違っていなかったのだと、そうわたしに感想を抱かせるに十分な姿です。さあ早く朝食にしましょう。
「おお、リセリおねえちゃ、はやい……。もうたべちゃったのかー! やっぱ、おとなだ……」
「ぅ……だ、だって、すごく美味しかったからつい……。こんなに美味しいもの作れるなんて、リックさんってやっぱり凄いです」
客人の前ということもあってか、朝食は一手間かかっておりました。
痩せっぽっちのリセリが首狩りウサギの肉にがっつき、スープをすすり、それらをあっという間に平らげてしまったのです。
「リセリ、食事のたびに誉められると、さすがに気恥ずかしい……。オレはただ、少し料理ができるだけだ」
「うしおねーちゃのごはん、さいこうだ! ぜんぜん、すこしじゃないぞー!」
「違いねぇ、街で店が開けるレベルだぜ」
同感です。しかし、か弱い見た目に反してリセリはよく食べる。こんな欠食児童がジョグ含めてあと30人来るとなると、やはり食料物資を今のうちに大量備蓄しておきたいところです。
「はい♪ 街でもこんなに美味しい料理が出るお店、なかなかないですよ。今からお昼が楽しみです♪」
「お、お前たち……さすがにおだて過ぎだろう……」
ヤマイモとヒラタケのとろりとしたスープをすすって、わたしもリセリに続いて全てを腹に収める。
そうするとしばらくやることもないので、黙々と籠の続きを編むことにした。
「では今日の役割分担を決めよう、バーニィ、指示を頼む」
「振っておいて丸投げかよリックちゃん。よっしゃなら任された。そうさなぁ……リセリもシスターさんも、数に数えていいんだよな? 疲れてるようなら休んでくれたっていいぞ」
それからバーニィに続いてリックが皿を空にした頃、作業の手を少し止めた。
リセリ、クークルス、どちらも顔色が良い。
「はい、もちろんです。といっても単独行動は難しいので、できれば私はパティアちゃんに付けてもらえると……」
「ああまあそうだろうな。気にすんな、やれることをやってくれりゃそれでいい。ところでシスターさんは何が得意なんだ?」
バーニィは木工と仕切り役、リックは調理と力仕事、リセリはパティアの世話。ならばクークルスにも向いた仕事があるはず。適材適所はそれぞれの仕事のやりがいも含めて大切です。
「私の得意なことですか……? そうですね、まず礼拝と、子供のお世話と、それと、お薬作りでしょうか。薬草の鑑定なども少しだけ……」
「調薬スキルか。取り急ぎどうしても必要というわけではないが、人が集まるなら有用な技術だな。スキルのランクは調べてもらったか?」
思い出した。このシスター・クークルスと出会ったのは旧友ウォードが死んだ日、その家の玄関でした。
聖堂は権力を振りかざしますが、医者の代わりもします。
都市部ではさておき、辺境などでは神父以外に医者がいないというケースも多々あるとか。
「すみません、鑑定していただいた経験はありません。聖堂組織の中にいる限り、そういうのは必要なかったので……。ですが調薬スキル2相当だと、街のお医者様に評価されたこともあるんですよ」
木工スキル1のバーニィがかけだし職人なら、調薬2のシスター・クークルスはもう一人前です。
「そりゃすげぇ、じゃあアンタは今日からうちの薬師様だな! こりゃ思わぬ掘り出し物だ、無理矢理ネコヒトにさらわせただけの価値はある。はははっ、俺たちはついてるわ」
「そ、そんな大したものでは……恐縮です……」
パティアの自然体の自信を、リックとクークルスに分けてやれたらバランスが取れるに違いない。この2人はどちらも謙虚すぎます。
ちなみにそのパティアは無言、どうしてかわからないが朝食をかじりながら、わたしの隣にピッタリくっついている。
指の少ない猫の手が、ツルを編むのがそんなに面白いのでしょうか。
「でもねこたんは、わたさないぞ……」
聞こえてますよ、パティア。というよりまだ1人で張り合っていたんですか……。
この大きなふかふかは自分の物だと、大きなお姉さん相手に態度で自己主張しておりました。
「ホーリックスちゃん、悪ぃが今日も重労働のやつを頼む。飯の前になったら俺と交代だ」
「そんなこと気にするなバニー。クワなど軽いものだ、軍の稽古とそう変わらん。むしろ軽作業程度では身体がなまりそうで不安になるくらいだ」
「うしおねーたんはー、力もち、だからなー!」
この牛の角と黒い肌を持つ女性は飛び抜けた筋力を持っている。
よって畑の開墾作業は彼女を中心に割り振られるのが常です。
人が増えるとなると畑がもっと必要になる。今は仕事の偏りを気にしている場合ではありません。
「クークルスちゃんはホーリックスちゃんとペアだ。彼女に仕事を教わりながら畑の種まきと、草取りを頼む。薬は欲しいが、今んところ飯の確保の方が大事だからな」
「わかりました。不慣れですがご指導よろしくお願いいたしますね、リックさん♪」
「で、パティアにリセリ、ネコヒトは、バリケードを作ってくれ。詳しくはネコヒトに聞きゃわかる。よろしく頼んだぜ」
「え、バリケード、ですか……?」
「フフ……実はまだ作っていなかったんですよ。城の近辺はかなり安全でしたので、ついつい後回しにしてしまいました」
ええそういう段取りです。バーニィが下準備を終わらせたら、それをわたしが組み立てることになっていました。
「ばりけーど……? なんだそれ?」
「柵のことだよ、パティアちゃん」
「おおっ、そゆーことかーっ! たのしそうっ、つくろーリセリおねえちゃー!」
「うん、がんばろー!」
小さなパティアと痩せっぽっちのリセリにやらせるには、適材適所という言葉から外れる。
けれど本人たちはやる気です。
蒼化病の里の仲間を守るため、リセリは特にがんばってくれることでしょう。
「俺は水路の続きを掘る。子供らを危険な森に入れるわけにはいかねぇしな……。水も生きる上じゃ、飯と同じくらい大事だ。一気に完成させるしかねぇ」
「そんな森を、平然とほっつき歩く8歳児もおりますがね」
「てへへ……それ、パティアのことだろー!」
「はい、ご名答です。それはもう困ったお子様ですよ」
そういうことになりました。
私たちはそれぞれの持ち場を決めて解散しました。
さあリセリとパティアらお子様組と一緒に、バリケードを作って安全地帯を広げていきましょう。
●◎(ΦωΦ)◎●
古城を出て城門前広場に向かった。
リセリとパティアがいますので、お行儀良く城壁崩落部からの遠回りを選びました。
「へへへー、ねこたんとー、リセリおねーたんといっしょ、うれしいなー♪ パティアのやるきは、いま、げんかい、いっぱいだ!」
「足は引っ張りません。どうか遠慮しないでこきつかって下さい、エレクトラムさん」
すぐに広場に到着した。そこでは早くもリックがクワを振り、クークルスが生真面目に彼女からの説明を受けている。
それが聖堂の修道服のままでした。こうなるとクークルスにも新しい服を準備したいところです。今のままでは作業も大変でしょう。
「ミャッ?! な、何ですかいきなりっ?!」
そうしているといきなりパティアが私の上半身に飛びついてきた。
ブロンドの小さなレディが目前で眉をつり上げている。
「ねこたん! クーはうしおねーたんに、まかせるの! まちのおんなよりー、リセリのしんぱいしてー!」
「パティアちゃん……あはは……」
またクークルスへの嫉妬ですか……。
だしにされている方は困った顔をして、申し訳なさそうにネコヒトへとはにかむのでした。
「えっと、そろそろ教えて下さいエレクトラムさん。バリケードって、どんなの作るんですか?」
「それは良い質問ですね、リセリ。パティアも親に乗っかっていないで見習って下さい。というより、早く降りて下さいよ……」
「ふかふか……ふわふわ、きもちいい……おわぁぁー」
朝なのもあって空気がだいぶ涼しいのですが、もちろんひっぺがしてやりました。
むしろこの老父をおぶってくれてもいいくらいです。いえ、それではやっぱり私が猫みたいなので遠慮しましょう。
「さいきん、つめたいぞー、ねこたん!」
「それは気のせいです」
「そうだよ、エレクトラムさんは、パティアちゃんのこと大好きだと思うよ。それより今はお仕事、がんばろ」
ああ、リセリはとてもいい子です……。
勇ましいパティアに穏やかさを与えてくれそうな、やさしくて偉い子じゃないですか。
「ええ、ではお2人ともこちらへ」
「クーとはなれるなら、なんだっていい……やるぞー、ねこたーん!」
しかし一体クークルスの何が気に入らないんでしょうか。まあ、そんなことよりお仕事です。
蒼化病の子供たちを受け入れるにあたって、バリケードを張って城門前広場の安全を確保しましょう。




