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8-7 最悪のコンビ ヌメヌメした追撃者と、次期国王サラサールの本性

「さ、サラサール様が、ですか……私を肉だなんて、ぅぅ、そんなの傷つきます……」


 そのサラサールに服従している感じではない。ならばなぜこの魔族はヤツに味方するのだろうか。

 それとシスター、デブ扱いされていると勘違いしているようですが、もっと最悪なことになってるとわたしは思いますよ。


「みんなさぁ~、勘違いしてるんだよ。後宮に入った女どもはさ、確かに殺し合い寸前のところまで妬み、疑い合ってるけどー? ゲロゲロロッロッ、本当はそうじゃないんだなぁぁ……」


 その長い舌で、ヤツはよだれを拭うついでに顔を洗った。


「飽きた女を~、サラサール王子は食べているの。あ、例えじゃないよ、肉として食べてるってことだからね、ゲロゲロッ、面白いでしょ~!」

「はい、悪趣味以下ですね」


 わたしの背中にいる人がすぐに言葉の意味を理解することはなかった。

 長い時間をかけて、聞き間違いではないかと疑いながら、彼女は言語を受け止める。


「た、食べ……食べ、る……? な……何を言ってるのですかッ、次期国王がそんな、人をですかッ?!」

「うんそう。昔はそうだったみたいだ。だけどねぇ、特別美味しくないし、悪い毒や病気を持ってることもあるからねぇ……ま、ゲロロロッ、そこで俺様とサラサールが出会うことになったんだよ」


 重大機密をよく喋るものです。

 これが発覚したら人々の反感を買い、不満を抱く勢力との間の内戦にまで発展してしまう。


「王子様はね、かねてより付き合いのあった魔軍穏健派と取引をしたんだよ。いらなくなった女を、美味しく調理できる魔族が欲しい、って願ったんだねぇ……」

「魔軍と、お、王族が付き合い……そんな、ひ、人を何だと思っているのですかっ!」


「だけど人肉を美味しくできるやつなんていない。人間は肉として不味いんだ、そこで、俺が選ばれたんだなぁ~」


 恐らくコイツはわたしたちを簡単に倒せると思い込んでいる。

 実力に自信があるらしい、ネコヒトを格下と見ていたようだ。


「人間を……魔法で獣に変えることが出来る、この俺がね……、ゲコゲコゲコゲコッ笑っちゃうよな、頭おかしいよなアイツぅ~!」

「はて、あなたもあまり人のことを言えないご趣味に見えますが」


「まあね。でね、王子は言ったよ、クークルスはシスターだから、きっと山羊か、羊になる。以前、超若いシスターをさらわせて試したらさ、白山羊になったんだよね~。アレさ、山羊臭かったけどー、ブルーレアで焼いた肉は最高だったよ……」


 ああ、わたしはなんて愚かなんでしょう。あのとき殺しておけば良かった。

 半日前にもし戻れるならわたしはわたしに、サラサールを殺せと依頼したい……。正義とか政治なんておいといて、ただただ存在が不快だからです。


 フロッガーが近くに生えていた寄生樹よりツルをはぎ取り、ベタベタの手で冠を編んだ。それを頭に乗せてサラサール王子を演じだす。


「きっと最高に美味しいマトンにありつける、想像しただけで腹が鳴る、今すぐあれを肉に変えて食ってしまいたい……。だが、相棒ロッグよ、愛をはぐくんでからの方がずっと、美味しいに違いない、愛を受けて育った家畜のように……なーんてね、言ってたよ、アイツは最高の趣味してるよ、ゲゲゲッ」


 面白おかしく喉を鳴らすロッグに対して、わたしの花嫁クークルスは青ざめていた。

 もしわたしに誘拐されなかったら、未来の自分は食われていたという。恐らくこのカエルにも、おすそ分けされていただろうと。


「サラサール様が、そんな、そんな……。で、でも、わたしのことを、頬を、いつも、おいしそうだと……ご冗談を……そん、な……」

「頬肉は彼の好物の1つだよ、さあ帰ろうよ、山羊さん、それとも羊かな、一度、獣に変えた方が運びやすいかなぁ……、サラサールもサプライズに喜ぶかも!」


 ただ1つ揺るぎない事実があるとすれば、コイツはもう生きて返せないという点です。

 ベレトートルートだとわたしを疑った者であり、現時点でのこちらの座標を知るもの、おまけに最低の変態、必ずここでわたしが始末します。


「残念ですがそうはなりません、あなたはこの場でわたしに倒され、人を獣肉に変える方法を王子様が失う結末になるからです」

「ネコヒトが何言ってんだよぉ~? ザコだろお前ら、俺ら優等種の下僕だろ!」


「果たしてどうでしょうか、今から試してみたらどうですか? カエル野郎が上か、ネコが上か、下らないプライドの張り合いを」


 レイピアに手をかける。ロッグはわたしを格下だと思い込んでいる。

 今までの話も含めて考えれば、スタイルは魔法タイプでしょう、穏健派から派遣されるだけあって己の術に絶対の自信を持っている、としよう。


「お下がり下さいお嬢さん」

「は、はい……」

「もう少しお喋りしたかったんだけどなぁ……。ならまとめて獣になっちゃえ!! シード・チェンジッ!!」


 青い文字列を描く光が1つずつわたしたちに迫ってきた。

 それを魔力を込めたレイピアで斬り払う。クークルスに向けられたものにも立て続けに突きを入れた。


「バーカッ、はずれだよ~っ!」

「うっうそっ、き――」


 ところが軌道が突然曲がる。術そのものが突きを避けて、わたしの後方にいたクークルスに飲み込まれた。


 クークルスの声は途中で途絶えていた。

 焦りとともに後方に目を向ければ、そこに緑色の羊がいる。その足下には彼女のウェディングドレスと、ローブが転がっていた。


「わおっ緑色の羊っ!! サラサールが喜びそうな珍味じゃないか!! さあ次は君だよ、ベレト!!」

「人違いです」


「バカ言うなよ! そんな芸当が出来るネコヒトなんて、お前だけだろ!!」

「超早熟型のフロッガーにはわからない世界でしょうね」


 フロッガーは卵生、一度に大量に生まれて早熟の成長をし、魔軍の兵士として10代を迎えることなく死んでいきます。よってコイツも消去法で青二才なのです。


 者を獣に変える魔法、シード・チェンジの連発をわたしは斬り払う。

 ときおりアイスボルトが織り交ぜられますが、それも当たらなければどうということはない。パターンも読めてきましたので、斬り払いながらの突撃を選びました。


「う、嘘だろっ、ネコのくせにやるじゃんっ! 死に損ないの老いぼれのくせに!」

「めぇめぇめぇめぇ……!」


 緑の羊の口より興奮気味の応援が届いたかもしれません。

 カエル男ロッグは後退を始める、攻撃魔法に対して突撃で返すイカレたネコヒトに焦りだした。


「だけどここまでだよっ、これは避けられないからなっ、氷の嵐アイスストーム! てめーは氷漬けのまま魔将にささげてやるよ!」

「フフフ……アンチグラビティ」


 アンチグラビティによりわたしの突撃力は倍化した。氷の嵐を全て回避して、斬り払い、ロッグの目前まで駆け抜ける。


「う、嘘だ、ネコヒトがこんなに強いなんて、ひぃっ、聞いてな――」


 魔法タイプなど接近してしまえばわたしの相手ではない。

 とっさに発動された魔法盾ディバインシールドをレイピアで貫き破り、2太刀目の薙ぎ払いでロッグの首を両断した。


 といってもどこからどこまでがコイツの首なのやら、医者ではないのでわかりかねますが。自信がないのでもしかしたら、首じゃなくて胸だった可能性もあります。


「あっ……ああっ、戻ったっ、戻れました私っ!!」


 背中の向こう側からシスター・クークルスの声が聞こえました。

 言葉を発せるということは人間に戻れたのです。


「それは良かった。……はぁ、なんだか、汚い者を斬ってしまったものです」

 

 ガマの脂を吸ったレイピアを払う。

 いえどうも気持ち悪いのでまた何度も振って、草の葉になすり付けることにしました……。


 カエルが嫌いというわけではありません。ただ食人を面白半分で肯定するあの性格がどうにも……。

 レイピアは時間をかけてから鞘に戻されました。


「きゃっ、ま、待って下さいっ、すみませんまだ、まだ服を……あっち向いて下さいネコヒトさんっ!!」


 振り返ると悲鳴が上がったようです。クークルスは裸で、ウェディングドレスを胸に抱いていました。


「おやおやこれは失礼。まあ確かに、効果が切れたからといって、ご丁寧に服を着替えさせてくれる術なんて、あるわけがありませんね」


 やはりガマの脂が気になるのでレイピアを抜き、もう一度草木を斬ったりなすり付ける作業に戻ります。

 ああ、妙なものを斬ってしまいました……。


「見ましたね……エレクトラムさん……」

「まあ見ましたが、そんなことより今しばらくをやり過ごす方が大切です。……予定を変えます、薄暗くなったらすぐにギガスラインを越えましょう。もしヤツが仲間を呼んでいたら大変です」


 ギガスライン要塞の方角に目を向ける。

 ここは辺境です、それだけ防衛の価値も下がる。明るさの残る時刻でも何とかなるはずです。


「認めるのですね……。ああもう私、お嫁にいけません……」

「フフフ……いや失礼。ですがこの状況でそのセリフを言われると、なかなか皮肉なもので笑ってしまいますよ」


「笑えません……。私、男運がないのかしら……」

「ええまあ、ないみたいですね。今回の件でマイナス方向に振り切れているかと」


 天より降り注いでいた茜色は、今は魔界の暗雲のそばで赤く燃え上がっておりました。

 もうじきです、もうじきアレが飲み込まれて世界が紫色に染まり、それからすぐ闇夜が来る。


「急いで下さい、すぐに場所を移しましょう」

「そ、そう言われると焦ってしまいます、ああっまたボタンの場所、間違えたわ……。はぁぁ、恥ずかしい、恥ずかしすぎます……」


 シスター・クークルスは頬を桃色に染めて、いつまでもウェディングドレスと格闘していました。裸でローブを着込むという選択肢は淑女にはないようです。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 一方、その頃パティアは――


 今日の夕刻もリックの隣で料理の手伝いをしていたそうです。

 ノーム・ブラウン・マッシュルームをいたく気に入り、外側の食感のやや硬い部分をリックがむいた物を、やや不器用に刻んでいました。


「でっかいマッシュ、おいしいよなー。きょうはー、これ、どんな、ごはんになるんだー?! うしおねーたん、いろいろつくれてー、すごいなー!?」

「今日はシンプルにいくつもり。肉とか、他の食材と一緒に、蒸してみようと思う。素材の味を楽しめるし、やわらかくて食べやすくなる。上手くいくといいな……」


 バーニィが材木を組み合わせて、鍋の底にしけるスノコを作ったそうです。

 後は水を入れて、ふたをして、それを火にかければ深鍋が簡単な蒸し器になる。


「ここはてんごくか……ジュルルル、バニーたん、えらーいっ! かんがえてるなー、バニーたん」

「うん、新しい住民のために、ベッドの準備もしてるみたい。バニーって、いつもふざけてるように見えるけど、けっこう真面目……だよね」


 職人仕事が楽しいそうですよ。

 自分のまだ未熟な技量でも、職人として必要としてくれる人がいる。自分しか出来ない役割を持てるのが嬉しいと、そう言っていました。


「あのねー、おねーたん、バニーたんな、おかいどくだぞー?」

「お買い得? ……ごめん、よくわからない。それより畑のジャガイモ、なったら蒸して一緒に食べようね。あれ、すごく美味しいから……」


 そのときパティアのよだれが、マッシュルームにたっぷりかかったと伝え聞いています。

 その部分はバーニィが後で美味しそうに食べてくれたと。


「どこまでも……どこまでも! どこまでもパティアはー、うしおねーたんに、ついていく!」

「また、おおげさなんだから……」


「へへへ……ほくほくの、おいも、おいしそうだなー……。あ、あのなー、いまのパティアは、なんでも、むしたい、としごろです!」


 服の袖でよだれを拭いながら、わたしの娘はそう主張したそうで。


「……ねぇねぇっ、ねこたんのー、けだま、むしたらたべれるかなー?」

「パティアは変な子……そんなの食べたら、お腹壊すよ」


 リック、すみません本当に……。

 するとパティアはバックの中からたくさんの毛玉を取り出して、それぞれの由来を紹介してくれたそうです。


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