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1-02 最強炎魔法メギドフレイムが使える8歳児 - 世界を灼く劫火 - (挿絵あり

 わたしが手にしたことで何かしらのトリガーが満たされたのでしょうか。

 パティアがうなずいて両手でナコトの書を受け取ると、わたしのときとは比べものにならない反応が起きた。


「わっわっ、ねこたんっほんがピカピカーッ、おわあぁぁーっ?!」


 閉じられていた本がひとりでに開かれ、赤い輝きと共にパラパラとめくり上がった。

 名付けてパティアの書の1から2ページ目に、赤黒い文字と挿し絵が浮かび上がってゆく。


「な、こ、これは……ッ?!」


 そして、そこに記されていた術も、わたしの予想の斜め上を行くものでした。

 持ち主によって内容を変える奇跡の書、ナコトにはこう記されていた。


――――――――――――――――――――――

【メギドフレイムⅠ】

:効果:

 世界の凡てを浄化する白炎の焔、詠唱者パティアがキャンセルしない限り絶対に(・・・)消えることはない。

:補足:

 炎魔法最高位、消費魔力特大

――――――――――――――――――――――


 赤黒いインクがグロテスクに挿し絵を彩っている。

 そこには詠唱者である幼い少女と、焼き払われてゆく世界そのものがあった。

 魔界、人間界、どちらも彼女の放つ白炎の焔に巻かれていた……。


「ぁ……なんだ、これ……もえてる……」

「燃えてますね。では次のページを見てみましょう」


 不吉な挿し絵にうちの娘が怯えている。

 だからわたしは一方的にページをめくった。するとそこにも魔法のページが生まれていた。

 先ほどとは一変して普通の、黒いインクで記されたものだった。


――――――――――――――――――――――

【オール・ワイドⅤ】

:効果:

 あらゆる支援、および弱体化術を超範囲化、超時間延長する。

:補足:

 回復、攻撃魔法には使えない。

――――――――――――――――――――――


 挿絵の中で、幼い少女が世界に光る輝きを飛ばしている。

 メギドフレイムの挿絵とは真逆の情景です。


「おおっ、キラキラだー! これって、もしかして、パティアか?! このバック、もってるぞ!」


 どちらのページの少女も腰に今のパティアと同じショルダーバックを背負っていました。

 それから5ページから先は白紙です。

 これはなんとも……物凄いものを見せられてしまったものです。


「どうやら書の所有者と魔法が、挿し絵として現れるようですね。キラキラとしていて、とても綺麗で、パティアらしい素敵な魔法ですよ」

「さいしょのはー、こわかったけどな! おしっこ、ちびりそうになった、かも……。ここ、こわかったな~……」


 念のためめくってめくってめくってその先を確認させてもらいましたが、全て白紙です。


「そうかもしれませんね。だけどご安心を、どんな魔法も使い手次第です。怖いということは、それだけ強い力を持っているということですよ」

「おお……そうか、そうなのかー。へへへ……ねこたんがいうとー、あんしんするぞ……」


「ええ、大丈夫。わたしがあなたを導いてあげますので。わたしの娘ですから」

「ねこたん……やっぱり、いいやつだ!」


 わたしはそう慰めながらも、あの挿絵が頭から離れませんでした。

 メギドフレイム……わたしはその術をよく知っています。今はもう使い手がいないことにも。


 メギドフレイム、それは300年前に魔王様が、魔神と呼ばれる魔族の神に憑かれた後に扱っていた術です。

 今の魔界最強の三魔将たちですら、模倣することすら出来ない究極の魔法を、なぜこの娘は、使えてしまえるのでしょうか……。


 エドワード・パディントン、あなたいったい、この子に何をしたのですか……?

 憑かれた頃の魔王様と、同じ術を使う娘……。


「どうしたー、ねこたん?」

「いえ、パティアは凄いなと思いまして」


「そうかっ?! むへへ……そうかもなーっ、パティア、できるこだからなー!」

「いえ、あまり調子に乗るのはどうかと」


 さらにオール・ワイドというこの術。こちらは生き字引たるわたしでも聞いたことすらありません。

 パティアは弱体・支援魔法を持っていないというのに、何という宝の持ち腐れでしょうか……。 


「あんしんしろ、パティアはー、ほめられておおきくなるほうだ!」

「フフフ、それ、意味わかってて言ってるんですか?」


「もちろんだー、パティアはすごいからな! ほめられるとー、すごいぞ!」

「はいはい。あまりはしゃぐと、後で痛い目を見ますよパティアさん」


 しかしこの娘、危険です……。

 魔法に偏ってはいますが、いずれ魔族を滅ぼす怪物に育ってもおかしくもなんともない、驚異的な可能性を持っている……。

 いつか妙な考えを起こさないよう、今からキッチリと融和的な価値観を持たせていかなければ……。


 あのバカ教え子筆頭のミゴーが、まだかわいくなるほどの脅威、問題児となるのが見えている。

 挿し絵の内容も不吉、まるでパティアが世界を滅ぼす因子であるとナコトの書が告げているかのようです。


「ところでパティアさん」

「お、なんだーねこたん?」


 まあそれはともかく、当面の問題対処の方が先です。

 このメギドフレイムという最高位炎魔法を、パティアが今発動出来るかどうか。この点がこれからのサバイバル生活には重要でした。


 ここだけの話、ただ自衛するだけなら最下位魔法マジックアローが記された魔導書の方が遙かに勝ります。

 妙な例えですが、これはメギドフレイムという巨大な筆で、子供が字を書こうとするようなものなのです。


「では、このメギドフレイムを撃ってみましょう。試しに――そうですね、中の暖炉にお願いしましょう」

「わかった! パティアなんとなく、つかいかた、わかるぞー」


 テラスから城内に戻り、あの司令部に帰ってきました。

 わたしはパティアと暖炉の前に並ぶと、やってみてくれと正面下を指さします。


「どうぞ、パティアさん」

「うん! いくぞー、うぉぉぉー、パティアのひっさつ~~! めぎど~ふれいむぅーっ!!」


挿絵(By みてみん)


「おや……」


 魔導書を片手に、景気よく元気に腕を振りかぶって発動させるものだから、わたしはおっかなびっくりと警戒していた。

 なにせ魔王様のすぐ隣で、実物のヤバいやつを見たことがありますので……。


「おお、でた! あはははははーっ、でもおそい、あははははは!」

「確かにこれはメギドフレイムです。凄いですねパティアさん」


 親指大のかすれて消えてしまいそうな炎が放たれていた。

 恐ろしく弾速の遅い白炎の焔がやがて暖炉に着弾し、ポテンッと地に落ちてくすぶりだす。


「驚きましたよ、火勢は弱いですが消えませんね。これは本物のメギドフレイムです」

「ふぅふぅ、はれぇ、なんか、つかれたー……はぅ、はぅ……」


 詠唱者が解除するまで消えない不滅の炎。その白炎はまごうことなき破滅の業火メギドフレイムだった。

 ところがやはり負荷がとんでもないようで、パティアは床にへたり込んで息切れを始めている。


「これは暖かい。なかなかいいですよパティアさん」

「そうかー? ほんとうかー? にへへへ……ねこたんにいわれると、うれしい!」


 親指サイズごときでしたが、ぷちメギドフレイムとでも呼べるそれは良い暖房になってくれそうでした。

 ここでは夕方から冷え込んでくるので、暖を取るにはなかなか都合の良い炎です。


 解除するまで消えないというその性質がひたすらに物騒でしたけど。

 なにせ燃え移ったら消せない、それこそ危険なんてもんじゃありません……。

 一見ヘナチョコでもメギドフレイムは破滅の業火(メギドフレイム)なのです。


「つぎは、ねこたんのばん!」


 なんて思い巡らしているとパティアに魔導書ナコトを押しつけられました。

 好奇心旺盛な娘が、ねこたんのも見せろと目を輝かせて見上げてきていらっしゃる。


「では、少しばかし眠くなってきたところでしたので、ちょうどいいものを」

「えっ、ねこたん、もうねむいのかー?!」


「ええわたし、ネコヒトですので。……スリープ」

「え…………ぐぅ。すぴー……すぅ、すぅ……」


 スリープをパティアに向けて発動させた。

 青白いあぶくがブロンドの愛らしい娘を包み込み、コテン……と眠り倒れるところをわたしが慌てて飛びつき支えることになっていました。


「すぴー……すぴー……ねこ、たん……すきー、すぴー……」

「さすがはレベルⅣスリープですね。わたしのために存在するも同然の便利な術ではありませんか」


 とてつもない即効性のみならず、わたしの眠気が飛んでいるこの事実がまた素晴らしい。

 こうやって眠気を人に押しつければ、わたし最大のネックだった長い睡眠時間をどうにかすることが出来そうではないですか。


「パティアさん、せっかくですので一狩り行ってまいります。まずはこれからのために、わたしたちのお腹を満たしませんと」

「すぴー……すぴー……ねこ、たん……。おとー、たん……」


 エドワードさん、しかしあなたとんでもないものを残して逝かれましたね。

 わたし、こんな規格外の娘を拾ってしまって、この先どうすればいいんでしょうか。

 この子が将来もし、メギドフレイムを完璧に扱えるようになっていったら……。


 この子は、その気になれば世界を滅ぼすことすら出来てしまうことでしょう……。


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 挿絵の入れ忘れがあったので追加挿入しました。

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