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7-4 人類最強の娘と狩りに行こう、ついでに山菜採りも

 翌日、パティアは水まきの日課を終えると、北の森に入ってわたしとの特別な訓練を始めました。

 まずは今日までの集大成を見せていただきましょう。いつものように石を宙に投げて、現在の命中精度がいかほどか確認しました。


 するとパティアのアイスボルトが目標の小石ごと、傾斜面に深く鋭く突き刺さっていきます。


「どうだー、ねこたん! やるきいっぱいの、パティア、ひとあじちがうだろー!」

「お見事です。命中率92.5%、まだまだ努力の余地がありますが、通常の敵を相手にするならば十分な精度です。ま、及第点といったところですね」


 拍手と笑顔を送って娘を誉めました。

 ただしこの子はとても調子に乗りやすいのでやや辛口評価で。


「やったー! パティアはー、ほめられてのびるタイプだぞー。もっとー、ほめてくれていいぞー、ねこたん、ほめてくれると、うれしいからー!」


 動く目標に対して約92%という命中率は、既に一般的なソーサラーのそれを超えていました。

 ですがまだ足りません。この子はわたしと同じで体格に恵まれていないので、それだけ攻撃の確実さが重要になってくるのですよ。


「大変お見事です、すぐに調子に乗るその性格以外は。……では実戦訓練をいたしましょう」

「あう……きょうのねこたん、てきびしいなー。でも、パティアはわかってるんだー。ねこたんが、きびしくするのはー、やさしさだ……」


「ただの素ですよ。実力を付けてきたことですし、子供扱いするのも失礼ですからね」

「へへへ……ひみつのとっくん、がんばったんだぞー」


 わたしは知っている、この娘が勝手に実戦で訓練をしているのを。

 ザコモンスターを近辺であまり見かけないのは、うちの娘がいじめて回ってるからです。

 すみませんエドワードさん、あなたの娘は元気過ぎて、この地で野生化しかけています。


「では実戦訓練という名の狩りです、獲物を探しましょう。手頃な相手がいるといいのですが、ま、山菜集めでもしながらゆっくりやりましょうか」

「それでねこたん、かご、もってきたかー。あ、パティアをー、のっけてくれてもー、いいぞー?」


「面白そうですがわたしの魔力は温存させて下さい。それにあなたを鍛えるのに、あなたが楽をしてちゃ意味がないじゃないですか」

「あ、それもそうだなー。じゃ、ねこたんをー、パティアがおんぶする!」


 さあ北にいこう、わたしは娘を置いて森を進みます。


 東から低く真っ直ぐに伸びる朝日が青葉を淡く照らしだし、森には湿り気のある爽やかな空気が立ちこめている。

 それを胸一杯に吸うと心地良く、わたしたちは恵まれているかもしれないと思い込んでしまう。


「まてー、ねこたんっ、パティアをおいてくなー、うわっ、はやあしだ、おとなげない!」

「フフ、強行軍の練習です。はぐれずについて来なさい」


「ねこたんっ、ほんとに、はやいぞー?! まてー、パティアおいてくなー!」


 後ろを尻目に見ると、娘は整備されていない森林を必死で駆けている。

 足音は全く消せておらずガサガサと騒がしい。けれどそれこそがちょうどいい敵寄せになってくれるだろう。


「ぜぇぜぇ……ねこたん、どうしてそんなに、はやくはしれるんだ……。はれー、どしたー……?」

「見て下さい、こんなに大きなマッシュルームがありました。採集するのでそこで休んでいていいですよ」


 背の高い木々が多く、そのせいで暗くジメジメとしているエリアがある。

 そこを進んでいると一番大きなものでパティアの頭くらいもあるマッシュルームが生えていた。


 これ知ってます、名前はノーム・ブラウン・マッシュルーム、妖精キノコだなんて言われてます。


「おおー、でっかー……パティアな、きのこ、すきになったぞー。ここのきのこ、すごーく、おいしいからー!」

「それは良かった、天然の取れたてはやはり違いますからね。ですがキノコだけは、不用意に拾い食いしないで下さいね、危ないヤツも多々ありますから……。触るだけで真っ赤に手が腫れ上がるやつもありますよ」


「そ、そんなのあるのかー、おそろしいなー……。それっ、マッシュ、それはおいしいかー? どんなあじだ?!」

「外側は少し硬いですが内側はとてもやわらかいです。子供が嫌う苦みなどは無いと思います、脂で炒めるとほんのり甘みが出て、肉料理や煮物にぴったりですよ」


 わたしの娘は口元がゆるい。そのよだれをさっと拭いてやり、わたしは籠を背負いなおした。

 全ては取らずに残しておくことにしよう。


「あっちにサルナシがありますね」

「よだれがー、とまらないなー……ジュルリ、はらへった……」


 健康な胃です。ギュルギュルとパティアから妙な物音が鳴ってる。


「燃費の悪い子ですね……まだお昼ご飯には早いですよ」

「うー……。でもなー、おなかにいれたらー、そのぶん、かるくなるとおもうんだー」


 今すぐ食べたいそうです。

 わたしはレイピアを手に木の上にひょい飛び乗り、目標のサルナシの枝を一閃した。

 地に落ちるなり食いしん坊ガールがそれに飛び付く。一つをもぎ取り、皮ごと口に入れて甘酸っぱそうに口元をすぼめた。


「ぺっぺっ……もういっこ、たべておこう……そのぶん、かるくなるからなー」

「ただの食い意地にしか見えませんが。リックにも残しておくのですよ、ポイントが稼げます」


「うんー、うしおねーたん、だいすきだ。おねーたんにも、たべさせたいからー、このへんにしとくかなー」


 3つ目も皮ごと口にして、パティアは果汁でベタベタの手でサルナシの実だけを枝から籠へともぎ取り落としました。

 それから北へとまた進むと、また少し珍しい実を見つけた。カオマスの実です。


「なにこれー、このきのみ、でっかいなー?」

「はい、苦くてあまり美味しくない実です」


「おいしくないのか……にがいのは、パティアはむりだ……」

「ですが脂が多く、蜂蜜や樹液と混ぜると結構いけるとか、偉い人が言っていました」


 ですけど魔王様、こんな実に利用価値なんて本当にあるのですか……?

 薬になるとはどこかで聞いたことだけありますが……食べようとする人を見たことがない。


「じゅるり……たべてみたい」

「じゃあ持って帰って、蜂蜜でためしてみましょうか。……っと、マイペースにやってたらついに出てきましたよ」


「あっ、うさたん……っ」


 淡い緑の毛を持つでっかいウサギ、首狩りウサギが赤い眼孔をこちらに向けていた。

 このモンスターは凶暴さゆえに、格上のわたしすら狩ろうとする。わたしからすれば完全なるカモです。


「パティア、アレはなんですか?」

「みどりの、でっかいうさたん。ぜったい、やっつけちゃだめ、いわれたやつ……」


「はい、アレが今回の標的です。あなただけで倒して見せて下さい。狩猟解禁です」

「おお……ついに、パティアにも、そのときがきたかー……。かわいいけど、きけん、きけん……パティアがんばるぞー……!」


 わたしは後方の木の上に跳び上がり、あえてパティアを孤立させました。

 念のためライトニングボルトを準備させて。

 パティアがしくじったら超速度の術で焼き殺しましょう。……獲物の毛皮が台無しになるので、本当はやりたくありません。


「ギュル……ギュルルルルル……」

「ねこたん、このこ、こわい……。かわいくない、きがしてきた!」

「ご名答、見た目がかわいかろうとソイツは凶暴なのです、やっておしまいなさい」


 わたしが下がったことで、獰猛なそのウサギがパティアを狙った。

 やわらかそうでちょろそうな獲物だと思い込み、人類最強の娘に近付いてくる。


「い、いいのか……? ていうかー、うさたん、なんかー、にらんでる、きがするぞー……」

「あなたを餌として認識したようです、倒さねばあなたが食われますよ、あの牙と爪は剣のように鋭利です、倒しなさい、迷ったら死にますので重々ご注意を」


 首狩りウサギがパティアに向かって突進した。

 するとわたしの想像よりずっと早く決着がついてしまっていました。


 氷結魔法アイスドロップを発動させて、なんと娘はウサギを凍り漬けにしてしまったのです。

 氷塊に閉じ込められた獣は、勢いのままに地を滑り、パティアの両手と足によって止められる。


「これでー、よしー、と……。へへへー、ねこたん、パティアつよいなー、うさぎさん、たいしたことなかったっ!」

「これはまた、回収しにくい倒し方をしてくれましたね。毛皮は無事で、お肉の鮮度も保てますから悪くありませんけど……どうやって持ち帰ったものやら」


 この術は矢を模したボルト系などとは違う。

 ボルト魔法が線の軌道なら、対象周辺に氷を発生させて閉じ込めるというこれは、点そのものです。

 座標調整が難しいというのに、それを一撃でズレもなく命中させてしまいました。


 口には出さないですが、やはりこの子は天才です、もうそこいらのソーサラーより属性魔法を使いこなしています。


「ねこたんが、ほめてくれない……おおっ」


 誉めすぎてしまいかねない。

 そこでわたしはパティアのブロンドをやさしく撫で、小さなその身を軽く抱きしめて態度で賞賛した。


「お、おぉぉー……ふ、ふわふわ……だめだ、ねこたん……ひるまから、こんなー……パティア、パティア、ねむくなって、しまう……」


 この子はわたしのふかふかが大好き過ぎる変わり者ですので。毛で誉めておきました。


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