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1-01 最強炎魔法メギドフレイムが使える8歳児 - 奇跡の書ナコト -


前章のあらすじ


 元生徒、恩知らずのミゴーによりベレトは大地の傷痕、その穴底へと突き落とされ殺害されかかった。

 だが彼は生きていた、幸運にもやわらかい大地に抱き留められ、骨折だけで済む。


 発見した洞窟を進み、夜を待って地上に戻るとそこに忘れられた古城がたたずんでいた。

 無人の内部に入り込み、司令部にて傷を癒すために休眠に入る。


 ところがそこに8歳の少女パティアと、父親エドワードが入り込む。

 エドワードは己の持つ魔導書を代価に、自分たちを守って欲しいとネコヒトに願う。

 娘と共に武器庫に向かい、黒曜石のナイフを調達して戻ろうとすると襲撃者が現れた。


 ネコヒトが敵を撃退するも、父親エドワードが命を落とす。

 彼は最期に願う。娘を頼む。

 ネコヒト・ベレトは願いに応じ、魔族でありながら人の子パティアの父親となるのだった。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



―――――――――――――――――――

 娘を促成栽培して

  境界の地ギガスラインで生き残ろう

―――――――――――――――――――


1-01 最強炎魔法メギドフレイムが使える8歳児 - 奇跡の書ナコト -


「いいですかパティアさん。今日からわたしの名前は、ベレトートルートあらため、エレクトラム・ベルです。もし覚えておいででしたら、古い方の名前はこの機会に忘れて下さい」

「ほぇ……? ん、んん~、んーー……えれくとら……あっ、ベルたん! あんしんしろ、ながいなまえは、パティアにがてだ」


 生きていることを魔軍やミゴーに知られてはならない。

 そこでわたしはエレクトラム・ベルと名前を更新しました。


「フフ……そうあってくれて助かります。では、今後ともこのエレクトラム・ベルをよろしくお願いします、パティアさん」

「おう! あしでまといには、ならない、パティアにー、なんでもまかせろ?」


 ええもうお察しかもしれませんが、家名をベルとしたのはパティアさんを不必要に混乱させないためです。

 8歳の子供に複数の名前を使い分けさせるなんて、そこからいつかボロが出てしまうに決まってます。


「あ。パティアもなまえ、かえたほうがいいかー?」

「ええ、察しの良い子は好きですよ」


「すきか! パティアも、ねこたんだいすきだ! やさしくてー、おもしろい、あと、ふかふかー!」

「ありがとうございます。ではパティアさん、今日から抵抗がなければ、パティア・エレクトラムと名乗って下さい」


 するとパティアが昼前の暖かい日差しを正面に、ここ古城のテラスで首を真横にかしげた。


「えれくと、らむ? パティア・えくれとら……はぅぅ。なんか、むつかしいなー……」

「はて、そうでしょうか。要するに、わたしの娘になったという意味です。エレクトラム・ベル。パティア・エレクトラム」


「おおっ」


 どこで覚えたんでしょうね、パティアはポンと手のひらを拳で叩きました。

 どうやら納得いったらしい。親の名を家名とすることはよくあることなのです。


「むつかしいけどわかった! がんばってー、おぼえる!」

「すみませんね。しかしこれもお互いの安全のため、どうかよろしくお願いします」


 ちなみにエレクトラムとは琥珀金という意味です。主に山中で得られ、一見は黄金の固まりのように見えます。

 言うなれば、偽の黄金(エレクトラム)といったところでしょう。


「パティア・えれくとらむ!」

「フフフ、お見事です。わたし賢い子は好きですよ」


「やったーっ、パティアもなー、ねこたんすきだ! ふかふか、ふわふわ!」

「うっ……?! ちょ、ちょっと待って下さい、あ、あなたは、わたしのどこを触っているのでしょうか……」


「おなかと、おしり! ふかふか!」


 いくらでも触らせてあげるという約束はした。

 しかし服の中にまで手を突っ込んで良いとは言ってません。


「パティアさん、すみませんが中を触るのは、禁止です」

「え。……えー、え~、ええええ~~!! やだ、やだーっ!!」


 そこまでぶーぶー不満をたらすことでしょうか。

 やれやれ変な娘が出来てしまったものです。

 さて名前の方はこれでよし。もう1つの急務を済まさなければ……。


「それはともかくパティアさん」

「やだーっ、ふかふかぜんぶさわる! やくそくしたぞーっ!」


「……わかりましたよ、約束は約束です、そこは好きになさい。で、それよりですね」


 わたしはパティアを我が身から引きはがした。

 夜はいいですけど昼はお互い暑苦しい。それより大事な話があると、わたしはブロンドの少女を見つめました。


「ねこたん、いけず」

「フフフ、わたし照れ屋なもので。さてふざけるのは無しでいきましょう」


 ここは人間の国々と魔界の緩衝地帯、ギガスラインと呼ばれている危険な領域です。

 天を仰げば魔界の空と、人間の空に挟まれたこの地で生き残るには、それ相応の力が必要となる。


「パティアさん、まずはあなた自身を育成しましょう。ここはとても危ないところなので、自分で自分の身を守れるようになっていただけなければ、いずれ命を落とすことになります」

「んん~。ええっと、パティアがつよくなれば、いいのか?」


「ええご名答。あなたには今すぐ強くなっていただきます」


 当面の目標は下級のスライムやエレメント系、ジャイアントバットを返り討ちに出来るだけのスペック確保です。

 ただし問題は、それがまだ8歳の娘でしかないという難点。ここを無理も承知でねじ曲げなければならない。


「パティア、ねこたんみたいに、つよくなれるかな……」

「はい、もちろんなれますよ」


 パティアが不安げに目線を落としました。

 わたしはそれに対して、わたしの柄にもなくやさしく肯定していました。


 教官時代の生徒がもしこの光景を見たら、パティアに嫉妬するでしょう。

 あのミゴーあたりは絶対に許さないと思いますね。


「ほんとうに、ほんとうか……?」

「はい。わたし、嘘も吐きますが、これは本当の本当です」


「ぉぉ……ねこたんがー、そういうなら、パティアがんばるぞー!」

「フフフ……その意気ですよ。ところでパティアさん、あの本をわたしに見せて下さいませんか?」


 そこでわたしはあの魔導書に目を付けました。

 当たり前のことですけど、魔導書を子供に持たせるのは危険です。

 しかし武器を持たせなければ、この地に渦巻くもっともっと危険な者どもに狩られることになる。


「あれか! まってろ、えーと、んーと……あっ、あったぞ! おとーたんの……ほん……」

「ありがとうございますパティアさん。よしよし、偉いですね」


 後ろ髪を撫でると小さな声をあげて、まだ幼い娘がわたしの腹に抱きついてきた。

 この子は父親エドワード氏の血を引いているはずです。

 ならば魔法の素養がある。この魔導書をある程度使えるようになってもらいましょう。


「そういえばあの時は、暗くてゆっくり読めませんでしたね。ふむ……ナコトの書、ですか」


 手帳サイズだったそれを受け取ると、わたしに反応してか大判の書になった。

 表紙には古い時代の文字で【ナコトの書】と赤く記されている。


「おとーたんな……パティアにそれ、さわらせてくれなかった。だから、だいじなほんだ」

「本来子供が持つものではありません。魔導書は刃物より危険で、あなたたちの世界では禁じられているのですから。……おや?」


 どれどれどんな術が記されているのでしょう。

 ネコヒトなりの好奇心に突き動かされ、わたしは書のページを開いた。

 ところがその魔導書ナコトの中身は、なんと白紙で埋め尽くされていたんです。


「なにも、かいてない。おえかきちょう?」

「フフフッ、こんな立派なお絵かき帳がもしあったら、笑ってしまいますよ。しかし妙ですね……」


 書をしっかり両手で抱えて、最初のページに戻しました。

 これは娘を託すために支払われた代価、きっと何かカラクリがあるはず。


「え……?」

「おっおお~~っ?!」


 するとこれはどうしたことでしょう。

 黄色がかった紙の上に、黒いインクが踊り滑るように刻まれてゆき、あっという間に横文字の羅列となっていた。

 隣の2ページ目には何やら挿し絵が描かれ、わたしと同じ魔導書を持ったネコヒトらしき者と、何やら眠りこけている人々が現れたのです。


「ねこたんだ! そっくり!」

「ええ……服装からしても、まるでわたし本人のようにも見えてきますね……」


 その不思議の魔導書ナコトの1ページ目には、こうありました。


――――――――――――――――――――――

【スリープⅣ】

:効果:

 詠唱者ベレトートルートの底無しの睡眠欲を対象に押し着せる。

:補足:

 気力の高い相手には効きにくい。疲労、弱体状態にあると効果◎

――――――――――――――――――――――


 もしかしたらとさらに3ページ目を確認してみました。

 いつの間に刻まれたのか、そこにも黒インクによる挿し絵と文字の羅列がある。


「これもねこたんだ! ねこたんとんでる!」

「フフフ、飛んでいますねわたし。何なんでしょうかこれは……」


 そこには詠唱するわたしと、樹木より高く高く跳躍するわたしが描かれていました。


――――――――――――――――――――――

【アンチグラビティ】

:効果:

 詠唱者ベレトートルートの体重を半分にする。

 より素早い身のこなしが可能になる反面、吹き飛ばし耐性が大幅に落ちる。

:補足:

 特記無し

――――――――――――――――――――――


 相手に異常効果を付与する魔法は、習得することそのものが困難です。

 おいそれとそんなものが使えてしまうと社会が成り立たなくなるので、そこにはきっと我々には見えない、神のバランスとやらがかかっているのでしょう。


 重力系魔法もそんなところです。

 過去に1度だけグラビティの使い手と対峙したことがありましたが、あれは反則としか言いようがありませんでした。


「ふむ……何でしょうかねコレは……」

「ねこたんのほんだよ!」


「フフフッ、ご冗談を。……いえ、待って下さいよ、わたしの本、ですって?」

「だってー、ねこたん、のってるぞー? もったら、ねこたんあらわれたぞ!」


 これは仮説です。

 このナコトの書は、もしや装備者に合わせて内容を変えるのではないでしょうか?


「なるほど。そうやってシンプルに考えた方が良い場合もありますか」


 通常の魔導書には魔法にまつわる詳細や注釈、術を補助するための古代文字と紋章の羅列が十数ページに渡って並んでいるものです。

 しかしこれにはそれがない全く無い。


「そういえばエドワードさんは、高位の炎魔法を使っていましたね。まさか本当に、装備者によって発動できる魔法が変わる書、そんなものが、世に存在していただなんて……。今日まで長く生きましたが、これには驚きです……」

「えへへー。だって、おとーたんが、つくったやつだ、すごいだろ~!」


「凄いです、凄いどころじゃありませんよ。わたしのような下級魔族に、超高位の魔法を授けてくれるそうなのですから」


 ですけどこれはまだ仮説の域です。

 ならば立証の時間に入りましょう、わたしは魔導書をあるべき持ち主に差し出した。


「ほへぇー……?」

「これ、パティアさんが装備したらどうなるのでしょう。さあどうか見せて下さい、あなたの資質を」


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