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45-1 消えた魔王イェレミアと不死の英雄クーガの真実 - 白 -

 邪神クトゥヴァはすぐに目覚めた。

 そしてすぐに、己が想像もしていない空間にいることに気づいた。


「ここは……な、なんだこれは……!? この我の肉体が……な……無い……」


 そこがアストラル界であることを悟ると、肉体を持たぬ黒い瘴気の固まりと化していた邪神は、魔王イェレミアの魂を見た。

 してやったりという気分だ。代償はあまりに大きかったが、わらわは邪神に勝利していた。


「イェレミアッ、貴様……ッ、消えていなかったのか……!? 貴様ッ、貴様ッ貴様ッ、なんてことをしてくれたんだっっ!! せっかく復活できたというのに、貴様ッ、魔王の肉体をどこに捨ててきたァァァッッ!?」

「ククク……邪神ともあろう者が見苦しい。あれはわらわの肉体だ。わらわがわらわの肉体を捨てて何が悪い?」


 身体を奪われてより、この日をずっと夢想してきた。

 よって、わらわは存分に勝ち誇った。わらわは勝利した。わらわは世界を救ったのだ。


 どうしてもこの魔王の肉体から邪神を引きはがせなかったので、わらわはこのアストラル界を目指すことで、肉体を捨て、さらに邪神をこの地に閉じ込めることに成功していた。


「貴様ら魔王は、俺の宿る器だっっ!! 器が、勝手なことをするな! 貴様は過去最低の無能だ!!」

「そちらこそ、わらわのかわいいベレトートに、ずいぶんと酷いことをしてくれたものだ……。あれは最悪の見世物だったぞ……」


 これであの子たちが住む世界を滅ぼさずに済む。

 邪神はこう言うが、世界最高最悪のクソ神をアストラル界に封じたわらわは、魔王の中でも最も優れた存在だったと己を褒めてやりたい。


「魔族の神が! 創造主が! 己の下僕を好きにして何が悪い!」

「全てだ。では、息災でな」


 帰るとしよう。わららは創造主に背中を向け、黒鬼のクーガのいる座標を探した。

 我が身を呈して世界を救ったわらわだが、邪神と永久にここで暮らすという末路だけは絶対に避けたい。


「どこへ行くつもりだ、貴様っ!? 貴様らの神を、こんな何もない場所に……置き去りにするというのかっ!? 待て、逃げるな、我をあの光輝く世界に連れてゆけ! こんなところにッッ、我を追いてゆくなァァァァッッ!!!」

「ククク……もう会うこともあるまい。この勝負、わらわとクーガの逆転勝ちだ」


「貴様ァァッ、我は、我は必ず蘇るぞ! 蘇って、今度こそ、貴様らの世界を焼き払ってやる!! 我を裏切った魔族も、魔王も、何もかもを消してやる、忘れるな!!」


「フ……それは叶わぬ願いだな」


 憑依せねば力を持てぬ、寄生虫のような怪物を空っぽの世界に封じて、わらわは再び地上へと戻った。

 クーガは同じ洞窟で、夜明けを迎えてもわらわを待っていてくれていた。


「はぁっ……。どうも成功したみてぇだな……」

「うむ。……さすがにくたびれた。百年分は働いた気分だ」


 クーガは深く安堵していた。

 この賭けに失敗すれば、ヤツは決して滅びることのできぬ最後の人間となるところだっただろう。


「しかし、幽霊になっても美人は美人のままで安心したぜ。いい女は、死んでもいい女だ」


 何を当然のことを言っている。わらわは美しい。今さら言われたところで心など動かぬ。

 わらわはそんなクーガの軽い言葉を無視して、本題を進めることにした。


「後はわらわの魂ごと、わらわを封じるだけだ」

「ああ、そうだったな……」


「さすれば魔王という存在は、永久にわらわの物となる。再び魔王が現れることはなくなり、いつの日かアストラル界から邪神が舞い戻ってきたところで、やつの器はもうどこにも存在しない」


 魔王は邪神の器だ。

 魔界の支配に魔王という絶対者が必要であろうと、世界を灰に変えかねない危険な因子であることは変わらない。


「世話になったな、クーガ。だがもう二度と会うこともないだろう」

「待てよ」


「待たん。こうしなくてはならんのだ」

「ちったぁ俺の話を聞け、イェレミア。……悪いが、お前の計算通りにはいかないぜ」


「まさか……その空っぽの頭でわらわを裏切るつもりか?」

「いや逆だ。俺も連れて行け」


 意味がわからぬ……。

 不死の肉体があれば、クーガは人間の救世主として、永久に人間の王として君臨できる。

 だというのに、付いてくるとこのアホが言う……。


「だってよ、封印されたら暇だろ?」

「それはそうだが、致し方なかろう。それにお前は不死だ。わらわに代わって世界を見守る役目――」


「ああ、それならくれてやった」

「…………何を言っている。くれた、だと?」


 わらわには理解できぬ。なぜこの男は焼かれても焼かれても戻ってきた……。

 なぜ利益もないのに、わらわに付き合うなどと寝言を言える……。


「だからよぉ? 不死の力はあの一生懸命な猫ちゃん、ベレトートにくれてやった。本人は気づいてないがな……。だがこれで、アンタの心残りは消えただろ?」


 なん、だと……? り……理解できぬ、理解できぬ、理解できぬ、理解できぬ……。

 不死身の力を捨てて、わらわと一緒に封印されたいなど、コイツの頭がわらわには理解できぬ!!


「呆れた男だ……」

「へへへ……。ま、百回死んだら生への執着だってなくなるさ。だがベレトートの方は、俺たちとは違う答えを見つけるかもしれねぇな……」


 わらわが消えたらあの子は悲しむだろう。

 一度もわらわに戻った姿を残せぬまま、わらわは世界から去ることになった。


 この後、わらわを失った魔軍は潰走する。

 あの子が生き残れる可能性は、運命の神に託す他にない――はずだったのだがな……。


 それを、一時の気まぐれで不死にさせたときたか、ク、クククッ……。

 これはしてやられたな……。クーガは正真正銘のバカだ……。


「不死の力を失った俺は、近い将来に滅びることになる。だが俺たちは一緒に同じ宿敵を倒した仲だ、地獄だろうと、封印された世界だろうと、どこまで付き合うぜ」


 わらわは深いため息を吐いた。

 もはや霊体となったわらわには、息吹でベレトートの耳をくすぐることすらできぬ。


「そなたはわらわの好みではない」


 生まれてこの方、わらわは男に恋愛感情を覚えたことなど一度もない。

 それはわらわが、魔王という完璧な存在だからだ。わらわは対となる存在を求めていない。


「俺は好みだ。アンタみたいな美人、生まれて初めてだ。アンタを見ちまったから、もうアンタは以外はブスに見えて受け付けねぇ。俺はアンタじゃねぇと嫌だ」

「わらわはモリモリマッチョマンは嫌いだ……」


 妥協してレアル・アルマドのような、繊細で優雅な存在ならばとも思ったが、やはりそういった感情は浮かばぬ。

 クーガは、わらわにとって世界で一番不思議な存在だ。


 わらわがそれに興味を覚えてしまっているのは事実だ。だが、クーガは美しくもかわいくもない……。


「俺はアンタが好きだ。世界で一番、アンタに信頼を寄せている。戦闘狂の俺に、死と正義の両方を教えてくれたからかもな……。イェレミア、俺はアンタが幽霊だってかまわない、俺と一緒にいてくれ」

「どこからどこまでも、そなたは理解不能だ……」


 つがいの概念のない存在に求愛をされても困る。

 過去で最も、どんな無理難題よりも、わらわはクーガという変わり者に困らされた。


「だが……まあ、死んだ後、もっとかわいい姿になるというなら、善処してやる」

「本当かっ!?」


「ああ……。例えば、そうだな……お前は肉体も性根も凶暴だ。ならばお前は、次の人生では、非力な小鳥に生まれ変わるべきだ」

「おう、それでいい。それでもいいから俺を連れて行け。アンタと一緒にいられるなら、俺は俺を失っても構わない。100回焼き殺されても、俺はアンタのところに帰ってこよう!」


 命も、魂も、来世すらもクーガはわらわに捧げるという。

 魔王時代ならまだしも、既に力を失った、霊体だけのわらわと、ずっと一緒にいたいと言う。これは、どんでもない馬鹿者だ……。


「そなたのような男は初めてだ……。あいわかった、よかろう……。焼かれても焼かれても挫けなかったその蛮勇を讃え、戯れに、わらわはそなたと一緒に封印されてやろう」

「やったぜ! よろしくな、イェレミア!」


 こうして魔王イェレミアは、禁忌の存在として聖地の地下に封じられることになった。

 ……約300年後、エドワード・パティントンと呼ばれた男により、封印が破られるその日まで。


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