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6-4 レゥム市旧市街の夜逃げ屋 赤毛の姉御肌

 レゥム市旧市街は発展から取り残されている。

 それはどことなく陰気で、狭く複雑な坂道と、廃屋寸前の家々で構成されている。

 部外者を迷わせる特殊なその街を進み、わたしはどうにかクークルスの情報を頼りに、旧市街の奥地にあるタルトの骨董屋にたどり着いた。


 その玄関を早速叩いたものの、返事はない。

 表向きは骨董屋です。だがこんな場所に骨董を買いに行くやつなどたかが知れている、別の商売があるのも納得でした。


「さすがはあの男のコネ、いい加減な店ですね」


 ノックをしても誰も現れない。なので勝手に店に入りました。

 予想通り店の売場に店主どころか客の姿すら無し。

 わたしは買い物と旅で疲れかけていたこともあり、ぼんやりと品物を見物すことにしました。


 売れそうな珍品が手に入ったら、ここを訪ねるのも悪くないのでしょうか。いや、これは……。

 気味の悪い民芸品に、ショーケース入りの宝石類、珍しい刀剣、大小の壷からシャンデリア、シャレたランプまでラインナップは色々でしたが、どれも共通して桁が1つおかしかったです。


 骨董屋としてやる気があるようには見えない。

 あるいは、運良く金額を価値と勘違いする物好きがやって来れば、それで良いと思っているのか。


「なんだいアンタ、薄汚い格好であたいの店にくんじゃないよ」


 しばらく待つと店主が入り口側から現れた。

 それからわたしを見るなり、ますますやる気のない接客態度をあらわにしてくれる。間違いない、ここがあの夜逃げ屋です。


 それにしても、このローブは聖堂のもののはずなのですけど、それを薄汚いと言い放ってしまいますか……。


「ふふっ……見た目で判断されては困りますね。夜逃げ屋タルトさん」


 ネコヒトはわざとフードの中をのぞかれないように顔を落として、夜逃げ屋に振り返った。

 バーニィの情報通り、赤毛のポニーテール、30過ぎの、どえれぇ気の強ぇぇ、とかいう人物評の女です。


「アンタ、どこでその名を聞いたんだい……仕事の依頼なら筋を通しな……」


 タルトは急に声を静めて、しかし凄みを利かせた威圧的な態度を取りました。

 理解しました、これは絶対に堅気ではない。


「それとは少し経路の違う商談です。とある男に頼まれまして、あなたの裏家業を聞いてもいないのに、聞かされてしまいました」


 赤毛のタルトはカウンターに入った。

 銀製の砂時計、いや銀砂時計をひっくり返し、頬杖を突いて怪しい客人をいぶかしんだ。

 その砂時計が応対時間の上限だというならば、急がなければならない。


「自分の名前を出せばタルトは協力してくれると、本人はそう言ってたのですがね、正直まゆつばです。むしろ彼の名前を出すと、足下を見られたり、いらぬ不審感を増やすだけかと思うのですよ」


 お人好しのクークルスとは真逆の人間です。

 闇の仕事を請け負い、客と腹をさぐり合う。大変な仕事だろう、夜逃げ屋というのは。


「つまり誰の紹介だい……ああもどかしいねぇっ、はっきり言いなっ! それにアンタ、人の店に勝手に入っておいて、フードをかけたままとは良い度胸じゃないか、えぇ?!」


 確かにこれは、どえれぇ気の強ぇぇ女です。

 もはや骨董屋としては壊滅的な性格でしょう。もっと傍若無人に言ってしまえば、これは接客業をさせてはいけない人種です。


「あなた、約束を守れる人だと聞かれました。約束、守れますよね? 例え相手が誰であろうとも」

「何寝言言ってんだいっ、当たり前だろっ! あたしは夜逃げ屋、夜逃げ屋が口の軽い女だったら、そもそも商売にならないよっ!」


「誓えますか」

「はんっ、そっちこそ誠実な取引をするとまず誓いな!」


 なるほど大丈夫そうです。

 わたしは返答の代わりにうなづき、フードを下ろして正体を明かしました。


「わたしの名はエレクトラム・ベル。2000万ガルドを盗んだ世紀の大バカ者、バーニィ・ゴライアスの紹介でここに来ました」



 ◎●(ΦωΦ)●◎



 一方その頃、パティアは――


「んしょんしょ……むつかしいなー、でも、がんばるぞー! んしょ……」


 薫製作りのために魚をさばいていたそうです。

 ダメだと言っても聞かず、バーニィはやむなくさばき方を教えたと言っていました。


「おお~……、一応出来てはいるじゃねぇかパティ公。血合いを落とすときはな、内臓の奥をナイフで引っかくんだぞ。ま、これを残すかどうかは好みがあるだろうが」


 黒曜石のナイフは極めて鋭利、魚の腹などどうということはない。

 小さな手がその黒く透けるナイフを握り、イワーンフィッシュを押さえつけて腹を切りました。

 内臓をひっつかんで千切り、抜き取って、血合いにまたナイフを当てて教えた通りに削り落としていったらしいです。


「も、もう止めさせろバニー……っ、危なっかしくて見てられない……!」

「とめてくれるな、うしおねえたん……あぶないのは、パティアも、わかっている……。だけどなー、ねこたんになー、パティアのてづくり、たべさせたい! あっ、りょうりも、おしえてほしい!」


 ナイフの切っ先がプルプルと揺れていたそうですよ。

 リックはもうあんな危ない光景見たくないと何度もボヤいておりました。


「お前は良い嫁さんになるよパティ公」

「おお……。それってー、もしかしてー、パティアをー……くどいてるかー、バニーたん?」


「ハッハッハッ、あと10年待ったら俺は51だな、ちょっとそりゃ難しいねぇ……」

「あははははー! バニーたん、おもったより、おじいちゃんだなー!」


 子供は時に残酷です。言葉のあやだとはわかっているが突き刺さった、そうバーニィが言っていました。


「ああ……それは言わんでおいてくれパティ公、笑えん」

「おいパティアっ、刃物を持っている時はよそ見をするな……危ない、約束しろ……」


「うんっ、わかった!」


 とにかくそれはもう、危なっかしいがんばりっぷりだったそうです。


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