表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

439/443

45-1 消えた魔王イェレミアと不死の英雄クーガの真実 - 黒 -

前章のあらすじ


 初秋、眠れない夜。

 バーニィは偶然に居合わせた後輩キシリールに、国を裏切った理由を語る。


 少年バーニィは義父ゴライアスに認められ、訓練付けの厳しい少年時代を過ごした。

 やがてキシリールとの親好を結び、民を守る立派な騎士として活躍していったが、転機が訪れた。


 パナギウム王家より与えられた汚れた仕事が彼を変え、彼に裏切りを決断させる。

 バーニィは王家の財宝を盗み、隠し、同僚を斬れなかったがあまりに追われ、魔界の森に逃げ込んだ。


 一度は人生の終わりを覚悟したが、バーニィは少女パティアとネコヒトと出会った。

 こうして騎士バーニィ・ゴライアスは、亡き義父の妄執から解き放たれ、働き者で面倒見が良いが、スケベでしょうがない、あまりに自由過ぎるおっさんとなった。



 ・



―――――――――――――――――――

 終章 消えた魔王と、太陽の娘の真実

―――――――――――――――――――


45-1 消えた魔王イェレミアと不死の英雄クーガの真実 - 黒 -


・????


 その晩、久々に昔の記憶が少しだけよみがえったので、わらわは古城グラングラムの見晴らし台に上がった。

 石工のダンが築いた月光石の照明たちが、真っ暗闇の道を淡く照らし、バーニィ・ゴライアスたちが築いた住宅地へと続いている。


 なんと美しい里だろうか。なんと自由で、世のしがらみに縛られぬ理想郷を体現した土地であろうか。

 かつて人と魔が手を結んだ地に、かつての役者とその末裔が集まるなど、誰が想像したことだろう。


 レアル・アルマドの末は少し気弱だが、優雅な彼の末裔らしい教養とやさしさを兼ね備えている。

 少し……バーニィとベッタリし過ぎているようにも、見えなくもないが……。まあそこはいい。

 親しかったレアルの末を、すぐ側で見つめていられるのは、わらわにとって幸福なことだった。


 エドワード・パティントンに死者蘇生の方法を教えた異界の錬金術師ゾエも、わらわには遠からぬ因縁がある。


 ……誰かがこうなるように仕組んだのだろうか。

 あるいは、因果の糸がこの地に結びつけられるのが、この世界のあるべき宿命だったのか。


 小さな身体で見上げる星空は美しく、城は巨大で、イヌヒトも、ネコヒトも、馬も魔界羊も、人の姿を棄てた大山猫も、わらわの目には何もかもが愛おしく映った。


 これより語るは300年前の真実。消えた魔王イェレミアと、不死の傭兵クーガの物語だ。

 我が名は魔王イェレミア。魔王システムを消した最後の魔王だ……。



●◎(ΦωΦ)◎●



 あの日、人間たちを東の最果てに追い詰めたあの日、わらわは蓄えてきた力の全てを振り絞り、己の肉体を奪った邪神から、しばしの間だけ肉体と意識を取り返した。


 わらわを乗っ取った邪神クトゥヴァは魔族の神ではあるが、魔族を救う存在ではない。

 人間の世界を焼き払った後は、デーモン種を中心とする純血種をのぞき、全てを粛正するだろう。


 その先は、邪神による独裁と暴虐の世界だ。

 要するにこの戦いで魔族が人間に勝とうと、狩る者と狩られる者が入れ替わるだけなのだ。


 わらわはやつに魔王の資質を感じたことなど一度もない。

 わらわは決断しなければならなかった。


 愛すべきもふもふたちのために、わらわの大切なベレトートのために、根は同じ種族である人間もついでに守ってやるために、わらわは覚悟を決めるしかなかった。

 よって、わらわはクーガに声をかけた。


 世界を救う陰謀の仲間として、幾度となくわらわの前に現れては戻ってくる、あの男が邪神クトゥヴァを(たばか)るには必要不可欠だったのだ。


「待たせたな。人間が滅びる前にどうにか間に合わせたぜ」

「遅い……。今日まで何をモタモタしておった……」


「無駄口叩いてる暇はねぇだろ、さっさと始めてくれ。いくら世界最高の美女が相手とはいえ、またメギドフレイムで焼き払われるのはごめんだぜ」


 わらわが指定した森の洞窟の前で、黒鬼のクーガは待っていた。

 焼かれても焼かれても帰ってくる不死身の英雄が、魔王イェレミアと結託していたなど、誰にも想像できなかっただろう。


 巨体のクーガに導かれて浅い洞窟の奥に入ると、おおむね注文通りの環境が整っていた。

 魔法陣の向こうに、大小の魔石の山が積み上げられている。

 世界中を焼き払われている中、これだけの数を用意できたのは人間のたくましさの証明だ。評価に値する。


 それでもこれから始める術の規模を考えると少し少ないが、ギリギリでどうにかなるだろう……。

 デーモン種たちの糧ともなるこの石には、別の使い方がある。


「どうしたんだよ、イェレミア、怖じ気づいたのかよ?」

「まさか。わらわはずっと待っていた。あの無粋な存在に、こうして一矢報いれる日をずっとな……。クーガよ、協力感謝するぞ」


「美人の頼みだ。ついでに世界が救えるなら、釣りがくるってもんだ」

「わらわにそんな軽口を吐けるのは、世界でもそなたくらいのものだ。……どこまでも野卑な男よ」


 洞窟に敷き詰められた魔石の山の中で、わらわは邪神を起こさぬように気を配りながら、魔力の増幅を始めた。

 まだ起きるなよ。ここで起きたら世界は終わり。わらわの大好きな、もふもふのいない世界が生まれてしまう……。


 わらわは生きてほしいのだ。ありとあらゆる命に、レアル・アルマドと、愛するベレトートに。


「では行ってくる。もしもこのまま戻ってこなかったら、そなたは入り口を埋めて去れ」

「悪いが失敗は計算に入れてないな。人間はもう詰んでるんだ、アンタがしくじったら、俺もおとなしく滅びるさ」


 不死身の英雄が言うと、どこまでも嘘としか聞こえぬ。

 本当に、クーガは恐るべき男だった。倒されても、倒されてもわらわの前に帰ってきた。

 英雄の資質は、どこかしらが狂っているのが条件なのかもしれぬ……。


「世話になった。ありがとう、わらわの炎で百度焼かれた男よ」

「おう、行ってこい。……待ってるからな、ここで」


「安易な保証はできぬ」


 わらわは最後の力を振り絞り、魔石の力を外部電源にして、魔法陣の向こう側の世界に転移した。

 それは過去最悪の転移だった。


 ミートマシーンに詰め込まれて、挽き肉にされているような感覚だ。

 絶対に入り込めるはずのない隙間に押し込まれて、拷問同然の苦しみに堪えなければならなかった。


 だがそれも当然だ。

 わらわが飛んだ先はアストラル界。肉体を捨てなければたどり着けない、世界の外側にある領域だ。

 わらわは自らの肉体を次元の狭間に捨て、眠れる邪神を連れて、精神体だけが存在できる世界に到達した。


本日から毎日更新を再開しました。

25日に完結します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ