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44-3 そして全ての始まりへ

 で、その数ヶ月後だ。

 俺はあの件で信頼を得たのか、今度は王家の財宝を護送することになった。


「なぁ、なぜ王家の宝物庫から、わざわざお宝を移動させるんだ?」

「お前は政治を知らんやつだな。それは増税のためだ。宝物庫に金塊が眠っていては、増税の名分が立たないだろう」


 話を持ってきたのはある正騎士の男だ。

 言っておくがコイツも別に悪人じゃねぇ。この封建主義の世界で、主君や騎士団の命令に従っているだけだ。


「ならよ? 俺たちがミスって、このお宝が本当に消えちまったら?」

「消えたところで結果は変わらない。増税は最初から決まっている。元からこの財宝は、王家の資産として計上されていない」


「は? なんでだよ?」

「金を蓄えていると知れると、ことあるごとに王家が金を出さなければならなくなる。王家の財政はギリギリで、倹約していると見せかけた方が都合がいい。そのための移送だ」


 嫌な仕事でも、仕事という名目があれば、人間というものはモラルを捨てられる。

 大人になりゃ誰だって覚えることだ。俺も割り切った振りをした。


「やれやれ、ケチなこった……」

「全くだな。本人たちは節税のつもりらしいが……。とにかく出発は明日だ、急いで準備してくれ」


「ああ、そうさせてもらおうか」


 やるなら今しかねぇ。

 俺は腹をくくって、俺は正確な輸送ルートを聞き出し、強奪計画を練った。


 俺は忠義の騎士ゴライアスの二代目だ。

 ヤツが俺にした仕打ちは地獄に堕ちても許す気なんてねぇが、これじゃあのクソッタレが浮かばれねぇ……。


 王家にとって俺は、下級騎士に甘んじているくせに、絶対に裏切ることのないバカ正直者だった。

 だからあの臨時徴収も、この任務も、俺の元に舞い込んできたのだろう。


「ところでお前、そろそろ嫁さん作れよ。あっちの方が使い物にならなくなったら、もう遅いぞ?」

「ああ……言いたいことはわかるんだが、どうも一人の女に絞るってのがどうもな。いっそ、先代のまねして有望そうなガキを養子にするかね……」


「お前、まさかそんなこと言って、ホモじゃないだろな?」

「なら嫁を取って自分の息子を愛でるだろ?」


「いや、それはわかるような、わからないような……。いや、納得しかねる理屈だな……」


 もうあの正騎士は、俺とバカ話をしちゃくれないだろうな。

 下級騎士の俺と対等の口をきいてくれる、いいやつだった。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 翌日、俺たちが王都に集まると、人知れず秘密の輸送隊が結成された。

 俺と、正騎士の男と、俺と同じ下級騎士が3名と荷馬車だけの部隊だ。


 王家の離宮を目指して都を離れ、やがて山道に入り、予定していたポイントまでやってくると、御者をやっていた俺は、荷馬車の不具合を装って馬を止めた。


「おかしいな……。おい、悪いが車軸の方を見てくれよ」

「ああわかった。クソ……、こんな厄介な仕事を任せるなら、馬車のメンテくらいしておけよな……」


 普通ならビビッちまうのによ、イヤに冷静でいられた。

 あの臨時徴収で、悪行に慣れちまったのかな……。


「悪いな、許してくれや……」


 馬車の底から戻ってきたところを狙って、まず剣で一人を殴って寝かせた。


「おい、どうした!? やべぇぞ、敵襲かもしれん!」


 その次は敵襲を装って、注意を森の奥に向けて、後ろから下級騎士を二人寝かせた。

 後に残ったのは正騎士の男だ。さすがにそこまですりゃバレちまう……。


「バーニィお前っ、乱心したかっ!?」

「いいや、俺ぁ正気だよ……。正気の頭で冷静に考えた上で、この薄汚れた金を奪い取ることに決めた」


「バカな……。王家を敵に回して、無事に……あっ!?」


 ヤツは気づいた。バーニィには家族がいない。バーニィを縛り付けるものはどこにもない。

 裏切ろうと思えば、いつでも俺が国を裏切ることができたことにだ。


「悪ぃ……。俺は……俺はよ、もう付き合い切れねぇんだ……」

「バーニィ……!」


「先代のゴライアスは、民と王に尽くせと俺に命じて死んだ! だがその二つは両立しねぇ! この金は、民が血反吐を吐いて稼いだ金だ! それを、やつらの宝物庫になんか、戻してたまるかよっっ!!」

「その気持ちは俺も痛いほどわかる。だが止めろ、バーニィッ!」


「そうだ、家族なんかいねぇっ! 家政婦のババァも、本当の親も、兄弟もどこかに消えちまった! アンタには友人として感謝しているが、もう譲れねぇ! 許せ!」


 三合打ち合って相手の剣を弾き飛ばし、四つ目の太刀で正騎士を気絶させた。

 その後は馬車をかって山中に逃げ込み、目星を付けていた洞窟まで向かった。


 そこに金塊、宝石の全てを投げ込み、入り口を崩落させる。

 女が喜びそうなアミュレットだけをいただいて、馬を逃がし、馬車を谷底に捨てて、俺は表舞台から全てを消した。


「悪いな、ゴライアスお義父さん。てめぇがバカ正直に尽くしてきた王家はクソだ。俺はもう付き合い切れねぇよ……」


 だが良かったのはそこまでだ。その後の逃亡はなかなか上手くいかなかった。

 原因は、仲間の騎士を斬らなかったせいだな……。


 盗んだのはバーニィ・ゴライアスだと、やつらが上に報告してしまった。

 当初は東の自由都市に逃げ込んで、ほとぼりが冷めてから金を回収して、どうにかしてばら撒くつもりだったんだがな……。


 だが東が封鎖された以上、逃げ道は西にしかない。

 やがて俺はレゥムにたどり着き、それでもどうにもこうにもならなくて、タルトに迷惑をかけるわけにもいかねぇんで、いったんギガスラインの向こう側に逃げることにした。


 人生終わったかな。

 財宝を盗んだと、話のわかる魔族と交渉できれば、あるいは……。

 そんな希望にすがり、魔界の危険な森を進んだ。


 それが全ての始まりだ。


「ん、なんだ、あの城……。あの様式、人間側の建築だな……」


 これはついているぞ。あの城があれば雨風を防げる上に身まで守れる。

 この辺りは水もある、食い物もある。モンスターどもを狩れば肉もどうにかなる。

 

 ほとぼりが冷めるまで、ここでサバイバル生活してみることにするか。

 そう決めて一晩をやり過ごすと、その翌日――俺はおかしなガキを見つけた。


 おまけにガキを見つけたら、やたらに強ぇネコヒトが風となって突っ込んできて、ソイツと戦って、コイツには絶対に勝てないと、数十年ぶりの敗北を知った……。

 いや、だが、きっとコイツらは俺と同じだ。


 俺と同じように、自分の住処を追われてここにきた。

 でなければ、こんな中途半端なところで、人間の子供とネコヒト族が暮らしているわけがねぇ。


 何よりこんな場所で、ひとりぼっちで暮らすより、変わり者のネコヒトと、お子様の面倒を見て生きる方がましだ。

 覚悟はしていたが、孤独と戦って暮らすより、仲間がいた方がずっといい。


 俺は、俺の生き方は間違っていた。


 俺はネコヒトに頭を下げ、ここで暮らしたいと願った。

 最初は向こうは俺を警戒していたが、どうにか強引に押し通した。

 話してみるとなかなか変わっているが、面白い二人だった。


 何より、騎士やっていた頃は言葉を選んでばかりだったのによ、こいつらには偽らずになんでも言えた。

 騎士ゴライアスの亡霊に取り憑かれたバーニィ・ゴライアスではなく、勝手でしょうもないバーニィでいられた。


「バニーたん、これから、よろしくなー?」

「妙なことすれば刺し殺します。ご了承を」


 こうして俺は、本当の俺と人生を取り戻した。


 ボロボロの古城しかなかったこの地が、今は人間と魔族であふれていて、お前がいて、お姫さんや、元魔界の公爵様まで一緒に暮らしているだなんて、昔を思い返せばとても信じられねぇよ。


 おまけにそこに、ヤクザの女親分まで加わって、ソイツも昔の自分を取り戻そうとしてるんだからよ……。

 笑っちまう……。


 キシリール、これが俺の真実だ。

 だから俺は金を盗んだ。

 そして俺はこの地で仲間と自分を見つけた。


 俺は、この里に救われたんだ。

 


まだ予定が固まっていませんが、完結までの連続更新を予定しています。

ジェネリックねこたんである次回作に続く形での連載となります。

既に完結まで書き終えていますので、予定が立ち次第、連続更新を始めます。クライマックスまで一気にいくよ!

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