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44-2 騎士ゴライアスが裏切りを決めた理由

 そう、思ったんだけどよ……。

 憧れの下級騎士の地位は、いざなってみりゃあまり面白いもんじゃなかった。

 尊敬はされるが危険な割に稼ぎは少なく、いつしか俺は仕事に流されるように生きるようになった。


 それから長い月日が流れた。

 お前と最初に会ったのはもう何年前だろうな……。


 俺みたいな不良騎士を、正騎士のお前さんはなぜか慕ってくれた。

 なんでだろうな。ただ強くてずる賢いだけで、誇りも何もない、平民が騎士の振りをしているだけの俺を、お前さんは認めてくれた。


 俺たちは騎士団の会合で、王都にある練兵所に集まった。


「は?」

「貴方を尊敬しています! どうか俺に稽古を付けて下さい!」


「なんでだよ……。その格好、正騎士様だろ? なんで正騎士が――」

「キシリールです! 位なんて関係ありません、貴方のことを尊敬しているから、貴方の薫陶に与りたいんです!」


「……はぁ?」


 悪いが、慕われて嬉しいとかどうこうよりも、変なやつが現れたと思ったぜ。

 俺みたいな不良騎士を捕まえて、尊敬してますだなんて言うんだから、最初は理解できなかった。


「ま……会合まで退屈だしな、ちょっとやるか?」

「いいんですかっ!?」


「いや誘ったのお前だろ……。うっし、まずは小手調べだ、カッコ悪いところは見せられんから、本気で行くぜ」

「ありがとうございます! お願いします、バーニィ先輩!」


 いざやり合ってみると、お前さんには可能性を感じた。

 あのクソッタレも似たような感情を俺に覚えたのかもしれねぇ。育ててやりたくなった。


 おっさんになるとよ、そういう感情が働くようになるらしい。

 自分が生きた証を、誰かの人生の中に残したいってな。

 訓練なんて大嫌いだったのに、あの日は楽しかった。


「こんなもんか。そろそろ汗を流さんと、お偉方にくせぇって言われるぜ」

「凄い……こんなに強い人が、世界にいただなんて……」


「そうか? お前の戦い方は外道だって言われるぞ」

「バーニィ先輩は外道なんかじゃありません。俺は知ってるんです、貴方が影ながら、民に尽くしておられることを!」


「……は?」

「普通の騎士は憲兵任せなのに、貴方は嘆願を受けて王都で窃盗団を捕まえました! さすがゴライアスの名を継ぐ者です。俺は貴方みたいな騎士になりたい!」


 大人げないが俺は不機嫌になった。

 俺が手柄を立てると、みんなが口を揃えてあのクソッタレを褒める。


「誰も介入しないから俺がやっただけだ。別に家名のためにやったことじゃない。それに先代は命令だけを忠実にこなす男だった。俺はヤツとは違う。ヤツがやらないことをやっただけだ」

「やっぱりバーニィ先輩は凄いです! たった一人で盗賊団を壊滅させるなんて、物語の英雄みたいだ!」


 悪いがあまりの絶賛に面食らった。

 何か裏があるのかと疑ったが、お前さんはお前さんだった。


「変なやつだな……。なあ、会合終わったらまた訓練付けてやってもいいぜ?」

「光栄です! ぜひお願いします! 俺は貴方みたいな、強くて皆を守れる騎士になりたいんです!」


「だからよ、俺はそんなご立派なもんじゃねーって言ってんだろ……」

「立派なものは立派ですよ! 貴方は騎士の中の騎士です!」


「それ以上は止めろ、全身がかゆくなってきた……。俺はよ、褒められ慣れてねーんだから加減しろ!」


 不良騎士、不良騎士と騎士団の連中に言われながらも、俺は己を捨てて王家と民に尽くした。

 騎士ゴライアスの言葉が呪縛となって、俺を縛り付けていたんだろうな……。


 そんな俺の生き方を、お前さんが認めてくれた。

 落ち着かねぇけど、心から後輩と呼べるような、いい仲間ができた気がして嬉しかったぜ……。


 とまあ、前置きが長くなったな。

 お前さんとの付き合いも、騎士としての忠義も、その数年後に起きたある事件により終わった。


 その事件をきっかけに、俺はもう、あの国の矛盾に付き合い切れなくなった。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 しばしの時が流れ、もう俺がお兄さんでは通用しなくなった頃、この前といえばついこの前に、俺は王からとある密命を受けた。

 反乱の兆しのある領地から、徴税官と共に税を徴収し、都まで馬車を護送しろ、だそうだ。

 こいつは正騎士の受けることのない汚れ仕事だった。


「おかしくないですか? 反乱を止めたいなら、税を免除した方が未然に防げるのでは……」


 少しずつ広がってゆく朝を見つめながら語り聞かせると、キシリールが当然の反応を返した。


「だよな。だがここで情けをかければ、民は味をしめて、次々と反乱を起こすだろうと説明された」

「それは……そういった面はありますが、だからといってさらに搾り取るだなんて」


「だろ? だけどおかしいんだ。いざ現地に到着すれば、一帯は反乱を起こすとは思えないほどに栄えていた。当然、王の命令とはいえ臨時徴収を行う俺たちに、憎しみの目が集まった」



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 まるで――まるでそう、盗賊になったかのような気分だった。

 誰もが俺たちを睨み、恐れ、怒り、理不尽な横暴に不幸なつらをしていた。


 だが騎士は王の命令には逆らえない。王の命令による臨時徴収だと言い訳する他になかった。

 そして俺は否応なく思った。


 違う。これは騎士ゴライアスが望んだ跡継ぎの姿ではない。

 俺は何をやっているのだと、わけがわからなくなってしまった。


 それでも俺たちは忠実に役目を果たし、馬車にありったけの金や、徴収した貴金属や宝石を詰め込んで、王都へと引き返した。

 やつらがぶち切れて、今すぐ反乱を起こして奪い返そうとしてくるんじゃないかと、気が気じゃなかった。


 しかし追撃はなかった。役目を終えた俺は、徴税官の男に誘われて王都の繁華街に飲みに行った。

 なんか奢ってくれると言うので、徴税官が選んだ店に入ってみれば、そこは高級クラブだった。


 飲んだことのない高級酒に、ド派手な女の子たち、美味いんだかいまいちわからん珍味が出てきて、俺は思わぬ接待に当惑した。

 裏があったんだよ。俺たちに下された命令には。


「これは、口止め料か……?」

「まさか。別途で追加報酬も支払われる。君のおかげで助かったよ、庶民の小英雄バーニィ・ゴライアス」


 俺はその時に聞かされたんだ。彼らに反乱の意思はなかったと。

 三年連続で豊作が続いたことで、彼らの蓄えはかなり豊かになっていたそうでな……。


 王家は反乱という濡れ衣を着せて、その稼ぎを搾り取ることにした。

 知らねぇうちにヤバい橋を渡されていたのさ……。

 不良騎士だと評判だったからな、勘違いされたのかもしれねぇ……。


「なぁ、さすがに酷くねぇか……?」

「まあな。だが上が決めたことだ、逆らったらこっちの首が飛ぶ。俺たちの立場ではどうにもならんよ」


「そうだけどよ……。ムチャクチャだろ……裏を知ってたら、いや、王の命令には断れねぇか……」

「俺も長年徴税官をやってきたが、ま、今回は酷い」


 徴税官の男は平気そうな顔だった。

 元からクズだったのか、酷い命令に慣れちまってこうなっちまったのか、わかんねぇけど腹が立った。


 感情任せに殴り飛ばしたくなったけどよ、それは堪えて、騎士の外っつらを取り繕って、心の底で王家に深く失望した。

 そしたらその晩、あいつらが夢に現れた。俺を睨み、怒り、恐れ、俺を責めた。


 ハッとベッドから飛び起きると、辺りは真っ暗闇だ。

 俺を育ててくれた鬼も、陰気で無口な家政婦も、この館にはもう誰もない。


 ゴライアスが嫁を取らなかったのは、忠義を尽くす上で、家族は人質にもなりかねないと考えたのかもしれん。

 俺の方は単に女遊びが好きで、縛られるのを嫌っただけだがな――ふと気づいた。


 俺は裏切ろうと思えば、誰にも迷惑をかけずに、クソッタレな王家を裏切ることができる。

 騎士ゴライアスがバカ正直に王家に仕えてくれたおかげで、俺は王家に信頼されている。利用できる便利な駒だと思われている。


 なら、もう我慢なんてできねぇ。

 このまま忠実な不良騎士の振りをしながら機会を待って、最高最悪のタイミングで裏切ってやろう……。


 その日から俺は、王家をいかにして苦しめるかという、悪趣味な妄想のとりことなった。

 そしてそのチャンスは、意外にもすぐにやってきた。

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