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44-1 眠れぬ夜 少年と老父 1/2

前章のあらすじ


 隠れ里にやってきたタルトの物語。

 里に到着した彼女は意中のバーニィとしばしの時を過ごし、彼と別れたその後も里の仕事を手伝って回っていた。


 タルトは自分のイメージを変えたかった。

 ヤクザの女親分としての自分を捨てなければ、この平和で穏やかなな隠れ里を台無しにしてしまう。


 これでのしがらみを捨てて自由になり、もっと素直だった昔の自分に戻れば、もう少しバーニィの気が引けると彼女は考えていた。


 そんな折、タルトがネコヒトのための小さな家をなんとなく眺めていると、家の奥さんに中へと招かれる。

 奥さんは新しい移民で、タルトがヤクザ者であることを知らない。

 彼女はタルトの友人になってくれた。


 それからネコヒトの家を出て、彼女は放牧地を訪れた。

 巨大な魔界羊と、二匹の馬たちが同じ場所に集まっている。


 よく見ると背の上には、馬の毛繕いをするしろぴよがいた。

 あまりに牧歌的で平和な世界に、タルトは少しずつ順応していった。


 しかしそこに大山猫のイリスと少年ヌルが現れた。

 最初はさすがに警戒したが、甘えてくる山猫をタルトは剛胆にも撫でる。

 イリスを全く恐がらないタルトの姿にヌルは驚いた。

 タルトとヌルはこれをきっかけに、同じ新参者同士親しくなった。


 それから馬と羊を厩舎に戻して食堂に戻ると、タルトの歓迎会が始まる。

 ところが変わろうとするあまり、タルトはお上品で不自然な言葉遣いをしてしまう。


 一部の連中が爆笑し、タルトがヘソを曲げた。

 最終的にバーニィは男衆により酔い潰され、リックとタルトがもう一歩打ち解けた。


 また不幸にも混浴の古城地下風呂にて、ジョグはこの二人に遭遇してしまい、リセリとの恋愛関係を詰問されてしまうのだった。


 とうとうタルトはジョグを認めた。

 女親分のタルトを辞めた時点で、この結果は必然立ったのかもしれない。



 ・



――――――――――――――――――――――――――

 過去編 バーニィ・ゴライアスが祖国を裏切った理由

――――――――――――――――――――――――――


44-1 眠れぬ夜 少年と老父 1/2


・ウサギさん


 おっさんになると時の流れが速くていけねぇ。

 ついこの前まではみんな生きるのに必死でよ、身を守るために里をバリケードで囲んだり、冬を越すためにあくせくと畑を世話をしていたっていうのに――

 気づいたら季節は夏を過ぎていて、もう初秋に入っていたとくる。


 もう間もなくすれば収穫の時期だ。

 新しい小麦でビールを一緒に造ろうと、最近妙に仲のいいタルトとリックの二人連れと約束した。


 寝苦しい夜は霞となって消え、石造りの古城が昼間の熱をさほど蓄えなくなると、朝までぐっすりと眠れる快適な夜が始まった。


 ちょいと蒸す日があったところで、石の床に寝転がればヒンヤリとして気持ちいい。

 ネコヒト族やイヌヒト族が、好んで廊下の硬い床で寝たがる気持ちがちょいとわかった。


 ところがだ。今夜も食堂でバカどもと騒いで、理想的な就寝に入ったはずなんだが――今夜は起きちまった。

 原因は夢だ。レゥムの旧市街で暮らしていたあの頃と、あのクソッタレの夢を見ちまった……。


「ありがとよ……。なんて面と向かってなかなか言えねぇけどよ、お前らには感謝してるぜ……」


 俺はネコヒトとパティアの寝顔を眺めて、ブラブラと暗闇の廊下を歩いた。

 ここじゃ油断すると、獣系魔族を蹴っちまうから慎重にな。


 行き先は元バルコニー、現在の空中庭園にしよう。

 寝起きだってのに妙に冴えた頭で、秋らしく涼しく澄んだ外気を感じた。


 あの頃はこんな庭よりも先に造るべきものがあるんじゃないかとも思ったが、いざこうしてここの恩恵に与ってみると、俺もまだまだ狭量だったと反省する。


 こんな最果ての世界だからこそ、自然に取り囲まれたこんな土地だからこそ、文化や秩序を感じさせる管理された庭が必要なんだろう。

 ありのままの自然も悪かないんだが、そればかりだとかえって心が荒れるのかもしれねぇ。


 ま、そんなわけで俺は庭園を歩き、見晴らしのいいところに陣取って、遙か彼方のあちら側の世界をぼんやりと眺めた。

 向こうでは夜明けが始まっているみたいだ。

 闇空よりも明るい濃紺の光がうっすらと浮かんでいた。


 今さらあそこに帰りたいとは思わん。

 いやキャバクラや売春宿が時々恋しくはなるが、ま、こっちはこっちで楽しみがあるからな、へへへ……。

 マドリちゃんとかよ、混浴風呂とかよ、あとはそうだな、パティアじゃねぇが、犬っコロが山ほどいるというのも悪くねぇ。


 ただまあ……俺の人生の大半は向こう側にあった。

 思い出や思い入れがないと言えば、それは嘘になる。

 良いこともあった。クソみてぇなことも山ほどあった。


「あれ、バーニィ先輩……? 今日は早いですね」

「おう、お前か。お前こそ早ぇな」


 そうしていると、キシリールのやつが起き出してきた。

 ヤツは隣にやってきて、俺と同じように向こう側の世界を眺める。

 ここにきた人間なら、それは誰だってやらずにはいられないことなのかもしれん。


「起きちゃったんです」

「奇遇だな、そりゃ俺もだ」


 ただ眺めた。

 向こうに置いてきた人生を確かめるように、俺たちは無心に人間の世界の夜明けを眺めた。


「あの……もしパナギウムに心残りがあるなら、俺から姫様に頼んで、貴方の指名手配の方を――」

「いらねぇよ。もう心残りなんて――いや、だがあるとすりゃ、盗んでやった金くらいか……」


 この里のために使おうとも考えたが、今さらあんな汚れた金なんてここには必要ないだろう。

 元々、頭にきて盗んだ金だしな……。


「バーニィ先輩……貴方はなぜ、なぜ王家の金を盗んだんですか? 貴方ほど立派だった方が、どうして盗賊のようなまねを……」

「わははっ、俺は立派でもなんでもねぇよ。ただ目の前に現れた金に、目がくらんぢまっただけだ。盗めると気づいたら、魔が差したんだよ」


「嘘です。バーニィ先輩は理由もなく、人の金を盗むような人間じゃありません! 教えて下さい、どうして盗んだんですか!?」

「おいおい、声がでかいって……他の連中を起こしたらどうするよ」


「あ、すみません……」


 参ったな……。あんな夢を見たせいで、口が緩みかけている。

 キシリールにだけは、同じ騎士団に属していたコイツにだけは、知ってもらいたいと思いかけちまった。


 コイツはいつか、お姫さんと一緒にレゥムに帰るかも知れねぇ。

 そう考えると、知らねぇ方がいいこともある。


 だがレゥムは二つに分裂して、俺たち寄りの西パナギウムは、農家のおっさんが継いだとネコヒトに聞かされた。

 切れ者とも言い切れないが、凡庸とも言えないいいヤツだったそうだ。


 実際……新王様が仕込んだワインは度数がキツかったが美味かった。

 なんかよ、その酒を飲んだら、酒気よりも先に俺の気が抜けちまった……。


「まあ、いいか……」

「え、何がですか?」


「タルトのやつもこっちにきちまったし、もういいかなってな……しょうがねぇ、お前にだけ教えてやるよ」

「王家の金を盗んだ理由をですか……?」


「ああ。ちょいと長くなっちまうが、順を追って話す。もう寝れそうにねぇしな」


 なぜ金を盗んだか。その問いかけは何度も己の中で繰り返してきた。

 だが今なら上手く言えそうだ。


 俺が金を盗んだ理由は――


「俺はよ、俺は元々は旧市街の大工のせがれだ。騎士ゴライアスは俺を養子として引き取ったが、俺の性根は結局何も変わっちゃいなかった」


 それはきっと、俺が騎士ではなく、平民の生まれだったからだ。


※重要

 物語の核心に部分を書こうと、各キャラの過去パートのプロットを組んだところ、この物語のゴールが見えてしまいました。

 そこで、一連のエピソードを書き終えたら、一度この物語を締めようと思います。


 しかし、パティアとねこたんは消えません。

 現在執筆中の新作【ダブルフェイスの転生賢者】にて、パティア12歳(ほぼメインヒロイン?)と、ねこたんと、ねこたんの事実上の嫁のあのお姉さんが登場します。

 むしろこれまで以上にパティアの出番が増え、より魅力的にヘンテコ可愛く描かれていますので、どうか連載が始まりましたら、この新作もあわせて楽しんで下さると嬉しいです。


 成長してもまるで変わらない、そのまんまのパティアになっています。

 最初は抵抗があると思いますが、本作をここまで楽しんで下さった読者様なら、必ず楽しめます。装いを新たにした新しいパティアと、おまけの主人公の物語を、どうかこれからも追ってやって下さい。


 日常系は明確なゴール地点が無いものなので、新しい枠組みで、本作の美味しいところを継承させました。

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