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43-1 後日談 思春期を捨てた彼女が見た楽園 1/2

前章のあらすじ


 パティアがしろぴよと水浴びをしたり、文字盤を使った言葉での意志疎通を覚えたそんな日々。

 その一方、ネコヒトは外の戦争が一時膠着したとクレイに聞かされ、その隙にレゥムの街へと物資調達に出かけた。


 彼の狙いは赤毛のタルト。

 今日まで危険を冒して里に尽くしてくれた彼女を口説き落とし、里へと定住させようというのがネコヒトのもう一つの計算だった。


 かくしてネコヒトは魔界の森を抜けて、ギガスライン要塞にやってきた。

 そこで思わぬ大歓迎を受けて戸惑うことになったが、その向こう側のレゥムの街では、魔族の古参ベレトートルートにはとても信じられない光景が広がっていた。


 レゥムでは人と魔族が当たり前に共存していた。

 街の人々はネコヒトを日常の存在と受け入れ、ネコヒトを兵隊と勘違いして慕う者までいた。


 赤毛のタルトの説得はやや難航した。

 確かにタルトはリセリとバーニィのいる世界で暮らしたかったが、今さらしがらみと仲間を捨てられない。


 するとそこに男衆たちが大挙して、タルトの説得を行ってくれた。

 それによりついにタルトは折れた。


 元冒険者の若頭がタルトの代わりとなることに決まり、こうして青春を捨てるしかなかった彼女に、人生のやり直しの機会がやってきた。

 その後、ネコヒトは花屋のヘザーを訪ね、各種の注文をすると同時にパティアたちのお土産を用意した。


 翌日、ネコヒトは骨董屋の二階で寝ていると、そこに西パナギウムの新王が現れる。

 彼はアロンソと名乗り、自家製のワインをネコヒトに手渡す。それは元農家の普通のおじさんだった。


 こうしてネコヒトは大量の物資と、移民者タルトというお宝を抱えて、ギガスラインを正面から抜ける。

 戦争が膠着状態とはいえ危険な魔界の森を進み、やがて三日目に入った。


 ところが帰還の直前に正統派のアガレスの待ち伏せに遭ってしまう。

 アガレスはネコヒトと隠れ里ネコタンランドを評価した上で、服従を要求する。逆らえば滅ぼす。


 交渉は決裂し、アガレスとネコヒトが交戦した。

 結果はネコヒトの勝利。アガレスの計算違いはネコヒトに魔法が全く効かない、という予測不能の一点だった。


 甲冑を残してアガレスは消え、停戦により正統派の軍勢も撤退した。

 かくして一行は、大量の物資と共にネコタンランドに到着した。


 バーニィとタルトは長いわだかまりを解いて、それぞれの若かった頃の想いを取り戻し、素直だった昔の自分に戻ろうとタルトは心に決めた。

 おみやげのお化粧道具にパティアは喜んでいた。うっふん。



 ・


――――――――――――――――――

 定住者タルトは昔の自分に戻りたい

  しかしそこに祝い酒の影が……

――――――――――――――――――


43-1 後日談 思春期を捨てた彼女が見た楽園 1/2


・憑き物が取れた赤毛


 不思議だった。この里に来たのは一度や二度ではないというのに、今日は何もかもが新鮮に感じられた。

 レゥム旧市街はこんなに広くない。古い石の家がひしめいていて、どこもかしこも見晴らしが悪く、路上で人が寝ていることなんて日常茶飯事だった。


 街路樹なんてシャレたものは一本もなく、仮にあったところで街の人間が(たきぎ)にしてしまうのが関の山。旧市街にある緑はジメジメした苔か、ろくすっぽ花を咲かせない草だけだ。

 薬草や茶になる草は生えてもその日のうちにもぎ取られ、運良く綺麗な花を咲かせても、それは男たちの手により女への愛の証にされてしまうからだ。


 汚物の匂いや叫び声、酔っぱらいに乱暴者。説教臭いジジィ、売春婦、年端も行かない泥棒。

 あたいは己の育った旧市街を愛しながらも、いつだってあそこから逃げ出したいと願っていた。


「バカだね……だったら、なんで逃げなかったのさ……」


 バーニィなら連れ出してくれると、あたいは叶わない夢を見た。

 玉の輿くらいしか、あたいみたいな学も身分も何もない女があそこから抜け出す方法はなかった。

 父親の後を継いだのは、半分は他の道がなかったからさ……。


 あたいの人生はヤクザ連中をどやして、悪さする跳ねっ返りしばいて、旧市街の秩序を守り、みんなの上前を跳ねるものだった。

 ここから逃げ出したいという気持ちを、夜逃げ屋という仕事に転嫁していたのかもしれない……。


 そんな自分には合わない仕事に順応するために、あたいはもう一人のあたいを作り出して、古い自分を心の奥底に押し込めた。

 それをついさっき止めたんだ。だからこんなにも世界が輝いて見えるのかもしれなかった。


 今、あたいはフラフラと里を歩いて回っている。

 さっきまでバーニィと一緒に大工をして、釣りをして、その後は一人で軽く畑仕事を手伝って、さすがに疲れを感じて畑を離れたところだ。


「ん、なんだい、ありゃ……。ずいぶんと、小さいね……」


 里のあちこちに新しい家々が生まれていた。

 古城を居場所にしていた連中が個人の家を獲得して、そこでそれぞれの生活を過ごすその姿は、まるでミニチュアで作られた街を眺めているかのようだ。


 その中でも特に目を引いたのは小さな家だ。

 人間が住むには明らかに不自由な大きさで、その扉からネコヒト族が現れるとあたいは納得した。

 それと同時に、ワクワクした気持ちを覚えたみたいだ。


「あれもバーニィのバカが仕切って作ったのかな……。アイツらしくない、随分とかわいい仕事じゃないか……」


 その小さな家はいくら見ても飽きなかった。

 だってそうだろう。造った家に、人より少し小さなネコヒト族が住んでくれて、そこで幸せを謳歌してくれたら、それが楽しくないわけがない。


「あ……」

「里に新しく来た方ですよね? あの、何かうちにご用ですか?」


 飽きずに眺めていると、中から茶虎柄のネコヒトが現れてた。

 雰囲気と高い声からして、たぶん女性で、たぶん奥さんか何かだろう。


「ごめんよ、物珍しくてつい見ちゃって……。それにしても良い家だね……」

「ありがとう。この家、バーニィさんたちが作ってくれたんです」


「やっぱりそうかい。あ、あたいはタルト、お見通しの通りここの新入りさ」


 あたいの顔を知らないということは、彼女も新しくここに来た移民だ。

 なんかいいね。ここに骨を埋めて、発展に寄与する人生は楽しそうだ。

 バーニィが夢中になるのもよくわかる。


「私も最近来たばかりなのですが、ここはとてもいいところですよ。私たちネコヒト族は弱い種族ですから、魔界では見下されがちなのですが、ここの人たちは、当たり前に仲間として受け入れてくれます」

「そうなのかい? エレクトラム・ベルを知っていると、なかなかそういう弱い印象はないよ」


「ここがこうなのは、あの方のおかげなのかもしれません。あの、ところでもうバーニィさんとは会ったんですか……?」


 まさかあのバカ、ネコヒト族の奥さんにまで手を出してるんじゃないだろうね……。

 バーニィならあり得ると、あたいは彼女の真顔に目を合わせる。


「会ったけどどうしたんだい?」

「その方には気を付けて下さい……」


「へぇ、それはどうしてだい?」

「だって貴女、とても綺麗な人ですから……」


 同姓の、しかも別種族に言われて面食らった。

 旧市街を引き継いでから、こんな言い方を誰かにされるのは希だった。


「バーニィさんはとても立派な方なのですけど、美人に目がなくて、節操がないのでよく気を付けて下さい……」

「ふっふふっ……あはははっ! そうかい、じゃあそうしてみるよ」


「いえ、悪い人ではないのです! 明るくて楽しい方で、家に不便はないかと、まめに声をかけてくれるくらいで……!」

「わかってるよ。実はあたい、あのバカと生まれが同じなんだ」


 スケベ野郎だとマークされるくらい、好き放題しているみたいだね……。

 アイツがあたいに下心を見せる姿なんて、あたいには全く想像できないよ。


「そうなんですか……!」

「あまり酷いようならあたいに言ってよ。同郷としてガツンと言うからさ」


「そ、そこまで酷くはないです……。あ、そうだ。よかったら、中でお茶でもどうですか?」

「え、あたいなんか誘っていいのかい……?」


「人間さんには少し狭いかもしれませんが、それがいいと言ってくれる方もいます。さ、どうぞ中へ」

「そうかい……喜んで邪魔するよ。実はあたい、中の方も気になっていたんだ」


 このネコヒトとは友人になれるかもしれない。

 導かれるままに入り口の扉をくぐり、家に入ってみると確かに狭い家だ。天井に頭がかすってしまいそうだった。

投稿が遅くなって申し訳ありません。

生きてます!

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