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42-8 クソみたいなしがらみと、本当のタルト

 隠れ里の結界入ると、案の定というかさも当然としろぴよさんがわたしたちを歓迎しました。


「ピヨヨッ!」


 わたしとタルトの周囲をクルリクルリと飛び回ると、すぐに彼はパティアの元へと飛び去ってゆきます。

 こうして隠れ里南部の門をくぐると、そこに待ちかまえていたパティアに、わたしはいつもの大歓迎を受けるのでした。ええ、タックルと抱擁です。


「ねーこーたーーんっっ!!」

「うっ……。パティア、あまり乱暴にされるとわたしも歳ですので――」


「あれ、なんか、こげくさい……?」

「まあ、そこも色々とありまして」


 心配させるだけなので、あのことは黙っておくことにしましょう。

 服は無事でしたが、もしかしたら毛が少し焦げたのかもしれません。


「あっ、そんなことより、ねこたん! だいじな、はなしが、ある!」

「タルトたちの歓迎よりもですか……?」

「あっはっはっ、変わらないね、アンタらは。あたいらは先行ってるよ。……そうそう、これもちゃんと渡してやんなよ」


 タルトに何かを手渡されました。何かと思えばリップと、簡単な化粧道具です。

 パティアに気づかれる前に懐にしまっておきました。


「ねこたんっ、パティアのはなし、きいてー!」

「聞いていますよ、なんですか?」


「あのねっあのねっ、えれーおねーちゃんとね、はなしたんだけどね!」

「エルリアナですか」


「パティアなー、パティアをなー、ねこたんのおよめさんにしてくれ! たのむ、ねこたんーっ!」


 必死の形相で、パティアは無理難題を言ってくれました。

 そうきましたか。エルリアナと何を話したのかわかりませんが、父親と結婚したがることは、女の子の成長過程でよく起きるものだと聞き及んでいます。


「そうですか。ではもう少し大きくなったら考えましょうか」

「ほんとーかっ!? クーとは、けっこん、しないか!?」


「なぜそこにシスター・クークルスが出てくるのですか」

「だって、ねこたん、クーとなかいい。クー、ねこたんのこと、すき。えれーおねーちゃん、そういってた!」


「そうですか。ご安心を、今のところその予定はありません」


 それよりもおみやげを渡すことにしましょう。

 女の子全員分の化粧道具は、さすがに高くつきましたが――こうして帰ってきてみると悪くありません。


「じゃあ、クーが、ねこたんと、けっこんしたい! いったら、するかー……?」

「わたしはもうお爺ちゃんです。そういう話とは縁がありませんよ。それよりパティア、おみやげを受け取っていただけますか?」


「おみやげ! みんなのぶんも、あるか!?」

「ええ。みんなの分も買ってきました。はい、どうぞ」


 リップと化粧道具の詰まったポーチをパティアに渡しました。

 パティアは不思議そうにポーチを開いて、なんだこれと首を傾げたようでした。


「なんだこれ……へんなの」

「お化粧道具です。街の綺麗なお姉さんたちが使っているのを、見たことがありませんか?」


「おおっ、あれかぁっ! へーー……なんか、おもしろそう」

「飴も買ってきましたよ」


「あめ! あめたべたい! しゅごい、ねこたんおみやげいっぱいだ!」


 化粧道具の使い方については、タルトたちにお願いするとしましょう。

 結局は食い気の娘の笑顔にわたしも笑いかけて、それから二人で手を繋いで古城への道を歩いてゆくのでした。


「ねこたんねこたん」

「なんですか」


「おけしょうしたパティア、みたいかー?」

「はい、おもしろそ――ではなく、さぞかわいくなるかと期待しております」


「へへへ……わかった! うっふん……ってするね!」

「うっふんですか」


「うん。うっふーん」


 パティアにウインクを飛ばされて、わたしはつい笑ってしまいました。

 つい先ほどまでアガレスと死闘を繰り広げていたとは、とても信じられません。


 それはそうと、あっちの方はどうなっているでしょうかね……。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



・うさぎさん


「バーニィッ!」


 秋の収穫期が来る前にでかい穀物倉庫を作ろうって話になった。

 城は確かにでかいんだがな。全ての物資を城に詰め込むと、出し入れが面倒だ。家で暮らしている連中のことを考えれば、やはり穀物倉庫は必要なものだった。


「なんだよ、タルトか。来るとは思わなかったぜ……。よっ、お前らもわざわざこんなド辺境まで悪いな。美味い酒があるからよ、後で一杯――」

「あたいは今日からここで暮らすよ! レゥムには帰らない!」


「……な、なんだとっ!? 帰らないってどういうことだよ、てめぇ!?」

「リセリとアンタがいる、ここで暮らすって言ってるのさ! あたいがここに残っちゃ不満かい!?」


 コイツ、なんでいちいち喧嘩腰なんだろうな……。

 昔はこんなんじゃなくて、かわいかったのによ……。昔、昔か。昔は良かったな……。


「あーー、ま、別にいいんじゃねぇか。ジョグには同情するがよ、お前がいると酒が美味くなりそうだ。つーかよ、よく決断したもんだな、ぶっちゃけ嬉しいぜ」

「ぇ……。そ、そうなのかい……? あたいのことが、アンタは邪魔だったり、しないのかい……?」


 なんからしくねぇな。いや、これが元々のタルトか。

 旧市街の父親から役割を引き継いで、ずいぶんと変わっちまったが、そういや元は普通の子だったな……。


「んなわけあるかよ。レゥムがあんなことになっちまってよ……俺はよ、お前が心配だった。ま、お前が誰かをぶっ殺さないかの方が、もっと心配だったけどな!」

「そう……。あたい、アンタに歓迎されないかと思ってたよ……。だって、うるさいババァが一人増えたところで、アンタは嬉しくなんてないだろ……」


「いや。自分で自分のことをババァとか言うなよ、その理屈だと俺まで爺さんになっちまうだろが。それによ、そんなに変わってねーよ。そりゃちょっとは老けたけどよ、お前はお前のままだろ? かなり気が強くなって、目つきがきつくなったとは思ってるが……」

「しょうがないじゃないかっ、このくらいキツい性格じゃなきゃ、やってけなかったんだよっ!」


 コイツを変えちまった憑き物が取れたら、どんな笑顔をするんだろうな。

 元はこの通りの美人だしよ、意外と……。いや、何考えてんだ、俺は……。


「ああ、わかってる。俺だって騎士やってた頃は、こんなふうに笑えなかったさ。すぐに元通りの、昔のお前になるさ。そこは保証するぜ、この里はすげーからよ」

「はっ、ならせいぜい、このあたいを変えてみな!」


 少なくとも、俺が騎士やってた頃と似たようなものをコイツは背負ってきた。

 そいつを脱ぎ捨てる手伝いくらいはしてやりてぇな。って、男衆どもがなんか泣いてるぞ……?


「良かった……良かったよ、姉御、姉御ぉぉ……」


 コイツら嫌いじゃねーんだが、里に定住はさせねぇ方がいいかもな……。

 タルトが元通りのやさしい女の子だったタルトに戻るまでは、やっぱ遠ざけた方がいい。


「おう、大工仕事から畑仕事まで、一から教えてやるよ! お前さんも今日から、ヤクザ仕事を忘れやがれ!」


 するとあれだけ激しい性格だったタルトが、大粒の涙を流して腕で顔を拭った。

 コイツは親父が死んでから、親父の仕事を引き継いで仲間を守る道を選んだからな。


 ようやくクソみたいなしがらみ解放される日が来たと、感慨に浸ってるのかも知れねぇ……。

 もっと早く手を差し伸べれば、良かったのかもな……。


「バーニィッ!」

「なんだよ……その荒っぽい口調もう止めろ、お前らしくねぇ」


「その……あたいに、今から仕事を教えてくれよ……。こういう最初が肝心だろ……」

「いや長旅の後だってのにタフだな、お前……。うっししょうがねぇ、こっちきやがれ、新米!」


「うん……よろしくね、バーニィ」

「お……おぅ……」


 ヤベ、コロッといきかけたわ……。

 素直なタルトってこりゃ、反則だろ……。


 その日はタルトを引っ張り回して、大工仕事と釣りの楽しさを教えてやった。

 あまり力仕事というか、勇ましい仕事はさせない方がいいかもしれねぇな……。もっとこう、穏やかな役割があればいいんだが……。


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